特許権侵害検討の流れ
特許侵害が疑われる製品やサービスが発見された場合、以下のような流れで検討します。
(2)特許請求の範囲の分説
(5)均等侵害の検討
その1 第1要件
その2 第2~第4要件
その3 第5要件
(6)無効理由の存否の検討
今回は「(6)無効理由の存否の検討」について説明します。
特許法104条の3「無効の抗弁」とは
特許権の侵害訴訟では、被疑侵害製品が、特許発明の技術的範囲に属しているときでも、なお特許権を侵害していないという主張(これを「抗弁」といいます。)をすることができるケースがあります。
そのひとつに、特許法104条の3第1項に基づく主張があります。特許に無効理由があるときは、特許権者は権利行使をすることができないというものです。この主張を特許侵害訴訟では「無効の抗弁」とよんでいます。
特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許無効審判により又は当該特許権の存続期間の延長登録が延長登録無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者又は専用実施権者は、相手方に対しその権利を行使することができない。
特許が特許無効審判により無効とされる理由には、主に以下のようなものがあります(特許法123条1項各号)。
・発明該当性(特許法2条1項)違反
・新規性(特許法29条1項各号)・進歩性(特許法29条2項)違反
・実施可能要件(特許法36条4項1号)違反
・サポート要件(特許法36条6項1号)違反
・明確性要件(特許法36条6項2号)違反
・冒認出願、共同出願要件(特許法38条)違反
・補正要件(特許法17条の2第3項)違反
・分割要件(特許法44条1項各号)違反
・訂正要件(特許法126条1項ただし書等)違反
東京地方裁判所・大阪地方裁判所が作成した特許権侵害訴訟の統計情報によると、平成26年から29年の間に判決により終了した事件において無効の抗弁が主張された割合は、73%にのぼります 。
特許庁で審査を受けるとはいえ、調査には限界があり、登録後に特許が無効とされることはそこまで珍しいことではありません。
従来、特許の有効性の判断は特許庁のみに権限があるものと考えられ、侵害訴訟において裁判所は無効理由の審理判断はできず、それは別個に無効審判請求をすべきとされていました。
しかし、最高裁は、平成12年4月11日、キルビー事件最高裁判決(民集54巻4号1368頁)が以下のとおり判示し、侵害訴訟においても裁判所が無効理由について審理判断できることを認めました。
「特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。」
この判例の趣旨を踏まえ、さらに検討を経て平成16年に立法化されたのが特許法104条の3の規定です。
先行文献の調査
無効理由のうち、特に、新規性・進歩性違反の無効理由は主張される可能性が高く、特許無効と判断されるリスクがそれなりにあるものです。
新規性欠如による特許要件違反は、特許発明が、出願前の時点で、公知・公用・刊行物等に記載された技術(以下、これらをまとめて「公知技術」といいます。)と同一であることをいいます。
また、進歩性欠如による特許要件違反は、特許発明が出願前の時点で公知技術に基づいて、容易に発明できたことをいいます。
そして、公知技術とは、分かりやすくいえば、世の中に開示されてしまった技術ということができます。その地理的範囲は国内に限らず、全世界が対象です。
そのため、権利行使の前に、対象の特許発明が、出願前の時点で、公知となっていた技術と同一でないか、複数の公知技術と組合せて容易に発明できないか、あるいは特許発明を実施した製品(自社製品や、被疑侵害物件など)が流通していないか、学会や展示会等で発表されていないか、などを確認する必要があります。
特許が登録されるまでに、特許庁でも先行技術文献調査はなされますが、その調査範囲にも限りがあり、必ずしも万全であるというわけではありません。
そのため、異なる技術分野の特許文献や、外国の特許文献、研究論文や業界紙などの非特許文献に、特許庁では指摘されなかった無効理由となる技術が開示されている場合があります。
このような先行文献の内容を調査するには、専門的な知見も要するため、特許事務所や特許調査会社等の専門家に依頼して調査するのが一般的です。費用としては、特許1件あたり10万円以上に及ぶことも多く、外国の文献や非特許文献まで調査範囲を広げると、数百万~の費用になることもあります。
しかし、無効理由の抗弁の主張立証責任は、特許権の実施を疑われている側にあります。したがって、権利侵害の警告を考えている段階では、多大な費用と時間をかけてまであらゆる無効理由調査を尽くさなければならないということではありません。国内の特許文献によっては無効とならないだろうという程度の調査ができればよいと考えられます。
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