知財FAQ

特許権、著作権、商標権、意匠権、不正競争-知的財産に関するよくある疑問を、弁護士が解消します

均等侵害の検討 その1

均等侵害の検討 その1
弁護士
弁護士
相手方製品のシートの表面上に付着していた物質の分析はすすんでいますか。
社長
社長
はい。でも表面に付いていたのは、乾燥剤ではないかもしれないです。シリカはどうも不織布層の中間にあるみたいで。
弁護士
弁護士
そうだとしたら、文言上、「表面に乾燥剤を付着させた」といえませんね。
社長
社長
シリカがシートの表面以外にあったら、もうダメなんですか。不織布には付いているんだから、汗を吸収する乾燥剤として働くのは一緒だと思うんだけど。なんか納得いかないなあ。
弁護士
弁護士
一定の要件を満たせば、文言と異なっていても、実質的には同じと判断されることもあるんですよ。

侵害検討の流れ

特許侵害が疑われる製品やサービスが発見された場合、以下のような流れで検討します。

(1)被疑侵害製品(方法)の特定

(2)特許請求の範囲の分説

(3)被疑侵害製品(方法)の構成の分説

(4)文言侵害の検討(クレーム解釈、対比)

(5)均等侵害の検討
  その1 第1要件
  その2 第2~第4要件
  その3 第5要件

(6)無効理由の存否の検討
今回は、「(5)均等侵害の検討」について説明します。

均等侵害とは

特許権の侵害は、被疑侵害製品の構成が、クレームの文言をすべて充足している「文言侵害」が原則です。

しかし、クレームの文言解釈を厳格にしすぎると、ごく簡単な改変で特許侵害を回避できることになり、時間や費用のコストをかけて発明した特許権者にとってあまりに不合理な結果となってしまう場合があります。

そこで、文言侵害の例外として、クレームと異なる構成があったとしても、一定の要件を満たす場合には、クレームに記載された発明と均等なものと評価されるとして、侵害を認める考え方があります。これを「均等論」といい、均等論によって認められる侵害を「均等侵害」といいます。

「均等侵害」は、特許法に規定されたものではありません。均等論は、特許公報によって公示されたクレームの範囲を拡張して侵害を認める考え方です。そのため、権利者の利益と第三者の利益のバランスを慎重に判断する必要があります。かつては均等論に対し学説や裁判例は否定的な立場でしたが、時代とともに認めるべきとする傾向へと変化していきました。

そして、最高裁が平成10年2月24日に均等論を認める判断を示しました。それ以来、実務上、当該最高裁判決(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁〔ボールスプライン軸受事件〕)に示された均等の成立要件に沿って均等侵害の判断がなされています。

均等侵害の5要件

ボールスプライン軸受事件最高裁判決によれば、均等侵害が成立するためには、次の5つの要件を満たす必要があります。

均等侵害

均等侵害の5要件

第1要件:相違部分が特許発明の本質的部分ではないこと
第2要件:相違部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであること
第3要件:相違部分のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであること
第4要件:対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではないこと
第5要件:対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないこと

均等の第1要件:特許発明の本質的部分ではないこと

特許発明の本質的部分とは

「特許発明の本質的部分」とは何でしょうか。最高裁は具体的に何であるかを述べていません。知財高裁平成28年3月25日大合議判決民集71巻3号544頁<参考収録>(マキサカルシトール事件)は、「特許発明の本質的部分」について以下のとおり判示しています。

特許発明の本質的部分

特許発明の本質的部分とは、当該特許発明の特許請求の範囲のうち、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分である

本質的部分の認定方法

裁判所は、本質的部分の認定方法について、要約すると以下の手法を示しました。

(1)原則、特許発明の本質的部分は、特許請求の範囲及び明細書の記載、特に明細書記載の従来技術との比較から認定される。従来技術との比較の結果、
 
 ①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合
   ⇒クレームの一部について、これを上位概念化したものとして認定する。

 ②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合
  ⇒クレームとほぼ同義のものとして認定する。
 
(2)例外として、明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが客観的にみて不十分な場合は、明細書に記載されていない従来技術も参酌する。
   ⇒ 本質的部分は、(1)の時に比べて、よりクレームの記載に近接したものと認定され、均等が認められる範囲が狭くなる。
 
 そして、上記によって認定された特許発明の本質的部分を、対象製品が共通に備えているかどうかを判断し、これを備えている場合には、相違点は本質的部分ではないと判断すべきであるとしました。

設例

 簡単な設例でみてみましょう。

A 不織布の表面に乾燥材を付着させた
B ことを特徴とする汚れ防止シート。

というクレームの特許発明があった場合に、明細書に「従来の汚れ防止シートに比して、乾燥剤を不織布の表面等に付着させることで、乾燥した状態に保つ効果がより高くなる。」という記載があったとします。

汚れ防止シートの分野における従来技術と比較して、この特許発明の貢献の程度が大きいとされるならば、この特許発明の本質的部分は「不織布に乾燥剤を付着させた」ことにあると上位概念化して認定できることになります(上記(1)の①)。

一方、それほど貢献の程度が大きくないということであれば、この特許発明の本質的部分は「不織布の表面に乾燥剤を付着させた」ことであると認定されることになります(上記(1)の②)。

特許発明の本質的部分が「不織布に乾燥剤を付着させた」ことにあると認定できれば、相手方製品が不織布に乾燥剤を付着させたものであれば、「表面」に付着されていなくても、その相違点は「発明の本質的部分」ではないとして、第1要件を充足することになります。

第1要件の重要性

ボールスプライン事件の最高裁判決以降、均等論が主張され、認容されなかった下級審判決では、第1要件を充足しないとの理由が多くを占めています 。したがって、均等論を考える際には、第1要件の充足性の検討がとても重要になります。

弁護士
弁護士
第2要件以降については、また次回説明しますね。
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