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社長
いきなり!ステーキが「ステーキの提供システム」について特許権を取得したそうですね。
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弁護士
この特許はいったん特許設定登録をうけたものの、競業者の異議申立てによって特許が取消になって、そのあと訴訟によってさらに取消決定が取り消されて(ややこしい!)復活したんですよ。
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社長
え~、かなり紆余曲折してますね!
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弁護士
この特許は「システム」とはいえ、いわゆるビジネス方法発明に関するもので、この「システム」が特許法上の「発明」にあたるかについて、特許庁の審査官、審判官、裁判所の裁判官と三者三様に意見が分かれたようです。
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社長
そういえば、ビジネス方法特許って、amazon特許とかで一時期大ブームになりましたね!なぜ最近下火なんでしょう?

1 いきなり!ステーキの提供システムに関する特許が認められた!

1.1 ステーキの提供システムに関する特許が認められた経緯

先日(2018年10月17)、知的財産高等裁判所で、「ステーキの提供システム」に関する特許権について、特許庁の特許取消決定を取り消す(つまり、特許権を維持する)旨の判決がありました。ややこしいのですが、経緯は概ね以下のとおりです。

  • 2016年6月 「ステーキの提供システム」発明について特許設定登録(特許第594691号)
  • 2016年11月 特許異議申立がされる
  • 2017年12月 特許庁が、特許取消決定をする
  • 2018年10月 裁判所が、特許取消決定を取り消す判決

それでは、この特許権では何が問題になったのでしょうか?

1.2 ステーキの提供システムは特許法上の「発明」か?

特許権は、一定の要件、例えば、新規性、進歩性、産業上利用性などを備える「発明」に対して与えられます。本件では、「ステーキの提供システム」が特許法上の「発明」にあたるか否かが問題となりました。

特許法における「発明」は、次のように定義されています(特許法2条)

発明の定義

自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの

すなわち、特許法上の「発明は」

  1. 自然法則を利用した
  2. 技術的思想の
  3. 創作のうち
  4. 高度のもの

でなくてはなりません。

特許法

(定義)
第2条

1 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。
2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。
(略)

e-Gov法令検索

本件では、この特許権の客体となった「ステーキの提供システム」が「自然法則を利用した」ものであるかについて、特許異議申立てや訴訟の審理において特に問題となりました。

1.3 発明の自然法則利用性について

なにが「自然法則を利用したもの」なのかについて、特許法上に特に定義はありません。しかし、一般的には、「自然法則」からは、単なる精神活動、純然たる学問上の法則、人為的な取決め等は除外されるといわれています。特許庁の審査基準においては、次のようなものが、自然法則を利用したものとはいえないとされています。

  1. 自然法則以外の法則(例:経済法則)
  2. 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)
  3. 数学上の公式
  4. 人間の精神活動
  5. 上記1から4までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

これらの例としては、つぎのようなものが挙げられています。

  • コンピュータプログラム言語(上記2に該当する。)
  • 徴収金額のうち十円未満を四捨五入して電気料金あるいはガス料金等を徴収する集金方法(上記5に該当する。)
  • 原油が高価で飲料水が安価な地域から飲料水入りコンテナを船倉内に多数積載して出航し、飲料水が高価で原油が安価な地域へ輸送し、コンテナの陸揚げ後船倉内に原油を積み込み、出航地へ帰航するようにしたコンテナ船の運航方法
  • 予め任意数の電柱をもってA 組とし、同様に同数の電柱によりなるB 組、C 組、D 組等、所要数の組を作り、これらの電柱にそれぞれ同一の拘止具を取り付けて広告板を提示し得るようにし、電柱の各組毎に一定期間ずつ順次にそれぞれ異なる複数組の広告板を循回掲示することを特徴とする電柱広告方法
  • 遠隔地にいる対局者間で将棋を行う方法であって、自分の手番の際に自分の手をチャットシステムを用いて相手に伝達するステップと、対局者の手番の際に対局者の手をチャットシステムを用いて対局者から受け取るステップとを交互に繰り返すこと特徴とする方法
  • 遊戯者ごとにn×n 個(n は3 以上の奇数)の数字が書かれたカードを配付し、各遊戯者が自己のカードに、コンピュータによる抽選で選択された数字があればチェックを行い、縦、横、斜めのいずれか一列の数字について、いち早くチェックを行った遊戯者を勝者とする遊戯方法

1.4 「ステーキの提供システム」は自然法則を利用しているか?

それでは、「ステーキの提供システム」は自然法則を利用したものといえるでしょうか。

本件で問題となる「ステーキの提供システム」は次のようなものです。

発明の内容

ステーキの提供システム(特許第5946491号より)

お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと、お客様からステーキの量を伺うステップと、伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと、カットした肉を焼くステップと、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって、

  • 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と、
  • 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と、
  • 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え、
  • 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと、
  • 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする、

ステーキの提供システム。

異議申立て手続において、特許庁は、発明の技術的意義が経済活動それ自体に向けられたものであることに鑑みれば、社会的な「仕組み」(社会システム)を特定しているものにすぎず、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しないとして、特許を取り消しました。

一方、特許取消決定の取消訴訟において、裁判所は、発明が用いる特定の物品又は機器(本件計量機等)は、他のお客様の肉との混同を防止するという発明の課題を解決するための技術的手段であり、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するとして、特許取消決定を取り消し、特許権を維持しました。これによって、いったんは取り消されたこのステーキの提供システムという特許権が復活したことになります。

特許庁審判官と、裁判所の裁判官の判断がこのように分かれた理由は定かではありませんが、この「ステーキの提供システム」で使用されるハードウェア(計量器など)が、特許庁においては「単に道具として用いることが特定されているに過ぎない」とされているのに対し、裁判所においてはこれらが「特許発明の課題を解決するための技術的手段」とされている点にあるのかもしれません。

裁判例

ステーキの提供システム事件(知高判平成30年10月17日)

この事件は、ステーキチェーン店(いきなり!ステーキ)を経営する事業者が、「ステーキの提供システム」とする発明について特許を受けたところ、当該特許が特許庁における異議申立手続によって取り消されたため、その取消決定を取り消すことを請求した事件です。

特許庁は、異議申立て手続において
「本件特許発明1の全体を考察すると、本件特許発明1の技術的意義は、お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様が要望する量のステーキを提供するというステーキの提供方法を採用することにより、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供するという飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたものということができる」として「本件特許発明1の技術的課題、その課題を解決するための技術的手段の構成、及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本件特許発明1の技術的意義に照らすと、本件特許発明1は、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない。」と、「ステーキの提供システム」の発明該当性を否定しました。

一方で知的財産高等裁判所は、
「本件特許発明1の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと,本件特許発明1は,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる。
したがって,本件特許発明1は,特許法2条1項所定の「発明」に該当するということができる。」として、「ステーキの提供システム」の発明該当性を肯定しました。

2 ビジネス方法発明について

このように、典型的な「物」や「方法」ではなく、ビジネス方法の発明に関する特許は、俗に「ビジネスモデル特許」「ビジネス方法特許」とよばれています。1990年代末から2000年代初頭にかけて、日本でもビジネスモデル特許出願ブームがおき、アマゾンのワンクリック特許などが話題になりました。

その後、単なるビジネスモデルは「自然法則を利用した」技術的思想の創作であるとは認められない、という特許実務が定着するに至りました。すなわち、現在は、ハードウェア等に関連していないいわゆる「純粋ビジネスモデル」は、自然法則を利用したものではないとして、特許法上の「発明」ではないとされています。この点について、特許庁も「ビジネス関連発明」について、純粋なビジネスモデルではなく、これがICTを利用して実現された発明、と把握しています。そのような「ビジネス関連発明」は、特許法上の「発明」として、他の特許要件を充足すれば、特許されます。

一般的に純粋ビジネスモデル特許は認められませんが、上記のステーキの提供システムは、純粋ビジネスモデルではなくハードウェアと関連する「システム」として「自然法則を利用した」発明であると判断されたものと思われます。ただ、その判断基準は微妙であり、特許庁の審査基準にもICTを利用した例しか記載されていません。ICTと関わりの薄いものについてどのような判断がされていくのかは、今後の特許や、裁判例の蓄積をまつほかありません。

社長
社長
なかなか微妙な話ですが、ビジネス方式であっても、ICTやハードウェアと絡めると、特許になる可能性があるということですね。
弁護士
弁護士
特許は競業他社を牽制するのに効果的なツールになる一方で、他社特許が会社の業務に差し支えることもあります。ビジネスモデルであっても、特許請求の範囲を工夫して権利化する余地はありますので、ぜひ専門家にご相談下さい!

笠原 基広