1 製作委員会とは
1.1 製作委員会の概要
製作委員会とは、映画やアニメなどのコンテンツ(本稿では代表して映画を取り上げます)の製作や二次利用を目的として、映画に関与する複数の者で組成された共同体です。
映画の製作や、映画完成後の宣伝広告などには多額の費用がかかります。映画の出資者は興行収入だけではなく、グッズ化などの二次利用によって、このような資金を回収していくことになります。
例えば従前は東映、東宝、松竹といったいわゆる映画会社が映画を製作していました。しかし、映画が巨大ビジネスとなった今日では映画会社のみが莫大な資金を負担して映画を制作し、興行や二次利用をして資金回収まで行うのは容易なことではありません。
そこで、近年は映画に関与する会社(映画配給会社、キャラクターグッズ会社、テレビ局、広告代理店など)が「製作委員会」を組成し、映画の制作や宣伝広告などの費用を共同で負担することが多くなっています。
また、製作委員会契約書に各構成員の窓口権を取り決めることによって、映画の二次利用によるマネタイズを図り、収益を上手く分配することができるようになります。
1.2 製作委員会の法的性質
製作委員会の法的性質としては、複数のものが考えられます。例を挙げると次の通りです。
1.2.1 民法上の組合
民法上の組合は、複数の会社や個人が共同で一定の目的を達成するために組成される組織です。製作委員会が組合として結成される場合、以下の特徴があります。
- 出資者間の協力体制
各出資者は対等な関係で、共同事業を行います。組合契約に基づき、利益や損失を出資比率に応じて分担します。 - 責任関係
組合員は無限責任を負うため、リスクが大きいとされます。ただし、組合契約で責任分担を明確にすることで、リスクを軽減することが可能です。
1.2.2 SPC(特定目的会社)
SPCは、特定の目的(ここでは製作委員会の組成)のため設立される法人です。特に高額な制作費を伴うプロジェクトや、リスク管理を重視する場合に用いられます。その特徴は次の通りです。
- 法人格によるリスク軽減
SPCは独立した法人として機能するため、出資者(会社)の責任は出資額の範囲内に限定されます。 - 透明性とガバナンス
法人として会計や運営が管理されるため、収益分配や費用負担の透明性が高まります。 - デメリット
法人設立や運営にコストがかかるため、規模の小さいプロジェクトでは適さない場合があります。
1.2.3 その他の形態
製作委員会として、合同会社や有限責任事業組合(LLP)が採用されることもあります。これらの形態は、税務上の利点や責任分担の仕組みが評価される場合に選ばれます。
以下では、映画の製作のため組成された民法上の組合を前提として解説します。
2 映画の著作権の帰属先
製作委員会方式を採用しない場合、映画の著作権は誰が保有することになるでしょうか。おさらいしておきましょう。
著作権法上、映画の著作者は「制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」です(著作権法16条本文)。具体的には映画監督、プロデューサーがこれに該当することが多いですが、あくまでもケースバイケースでこの要件を充足する否かを判断して決定することになります。
著作者が「映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているとき」は当該映画製作者に著作権が帰属することになります(29条1項)。ここで映画製作者とは「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」のことをいいます(2条1項10号)。
映画監督やプロデューサーは、通常、映画製作者に対し映画の著作物の製作に参加することを約束して映画製作をするのであって、そうでない場合はレアケースといえます。よって、通常は映画製作者に著作権が帰属することになります。
なお、映画が法人著作(15条)に該当する場合には、著作権は当該法人に帰属することになります。
3 製作委員会の仕組み
3.1 製作委員会の構成員
民法上の組合である映画の製作委員会の構成員は、主には映画の配給や二次利用によって収益を得ることを目的とした出資者です。具体的な例を挙げると次の通りです。
- 制作会社
実際の映像制作を担当します。 - 配給会社
映画館での上映や流通、宣伝活動を行い、作品を広く周知します。 - 商品化会社
キャラクターグッズや関連商品の企画・販売を担当します。これにより、商品化収益が期待できます。 - テレビ局や配信プラットフォーム
放送権や配信権を活用し、放映・配信収益を獲得します。特に近年ではストリーミングサービスが重要な収益源となっています。 - 広告代理店
プロモーションやマーケティングを通じて作品の知名度向上を支援します。 - 投資会社
出資のみを行い、純粋に収益を狙う役割を担います。
例えば、2022年度に邦画の興行収入1位を記録した「ONE PIECE FILM RED」を製作したのは「ワンピース」製作委員会ですが、その構成員は、フジテレビジョン、東映アニメーション、東映、集英社、バンダイ、バンダイナムコエンターテインメント、ADKエモーションズ、電通(会社の形態を表す名称を省略しました)となっています。
3.2 著作権の共有
製作委員会が民法上の組合の場合、法人格を有しません。
特に取り決めのない限り、民法上の組合に属する財産等(例えば著作権)は構成員の共有(持分均等)となります。この共有は「合有」という特殊な性質のものといわれており、各構成員は財産等の持分を有していますが、かといって持分の処分(譲渡)や分割請求をすることはできません。
著作権法の規定によれば、映画の著作権は映画監督・プロデューサーや映画会社が保有することになります。これらの者から製作委員会に著作権を譲渡したうえで、製作委員会契約に共有の定めをおけば、製作委員会の構成員が出資額に応じた持分を共有することができます。
しかし、著作権が共有されている場合、その利活用には様々な制限があります。まず、共有著作権について、各共有者は他の共有者全員の合意を得なければ、持分を譲渡することができません(65条1項)。また、共有著作権は、共有者全員の合意によらなければ行使することができません(65条2項)。ここでいう「行使」には、著作権の利用許諾や、著作物の利用も含まれます。
よって、契約で特段の規定を設けない限り、著作権を共有する製作委員会の構成員といえども、著作権の利活用が困難になりかねません。
そこで、製作委員会契約に定めをおいて、映画の著作物の利活用を図ることになります。
3.3 窓口権
上記の通り、著作権法や民法の規定によると、共有著作権の利活用には様々な制限があります。もちろん製作委員会の構成員によって共有される著作権にもそのような制限は及びます。
ここで、著作権法には、共有著作権を代表して行使する者を定めることができるという規定があります(65条4項、64条3項)。そこで、製作委員会契約に共有著作権を「代表して行使する者」を定めることによって、著作権の利活用を図ることが可能となります。具体的には映画を二次利用してマネタイズをする際の窓口となる権利、いわゆる「窓口権」を契約によって構成員に設定します。
窓口権は、出資した構成員の営業目的に応じて設定されます。例えば配給会社には配給権、テレビ会社にはテレビ放送権、玩具メーカーにはグッズ化権というような利用権限を設定して、映画の二次利用によるマネタイズを図ることになります。
3.4 映画の制作
製作委員会が組合の場合、具体的な映画の脚本作成、撮影、録音といった制作業務を行うわけではありません。通常は、制作を担当する構成員が自ら、又は、制作会社に委託して制作を行い、著作権を製作委員会に帰属させることになります。
3.5 収益の配分
製作委員会の収益の配分方法は様々です。例えば、それぞれの組合員が得た収益から窓口権手数料を控除した金額を製作委員会の収入としてプールし、出資額に応じた比率で組合員に分配する方法があります。また、幹事会社への報酬などを設定することもあり得ます。
4 製作委員会契約の条項例
4.1 製作委員会契約によくみられる規定
製作委員会契約によくみられる規定を挙げると次の通りです。
- 対象となる映画
- 幹事事業者
- 制作費
- 出資
- 権利の共有
- 制作
- 窓口権
- 収益の分配
- 一般条項
売買契約とか貸金契約と行った一般的な契約と異なり、製作委員会契約には多くの特殊な条項があります。そのような条項の趣旨と文例は次の通りです。
なお、以下の条項は大まかなイメージをしていただくための簡略化したものですので、実際の契約では契約条件に応じてアレンジする必要があります。
4.2 対象となる映画
製作対象となる映画について、複数の事項を挙げて特定します。
本契約の対象となる映画(以下、「本映画」という。)は次に記載のものをいう。
(1)題名:○○○○(仮)
(2)形式:劇場用長編映画
(3)監督
(4)主演
(略)
4.3 幹事会社
幹事会社は、製作委員会の中心となる構成員です。幹事として、映画製作にかかる管理、出資金・収益配分・会計の管理、組合員間の連絡・調整といった、映画製作全体の管理を行います。また、製作委員会の業務執行組合員として業務執行しますので、製作委員会を代表して働くこととなります。
幹事会社はそのような特別な役割を負担しますので、成功報酬金の支払いを設定することが多いです。
1 製作委員会は、甲を製作委員会の業務執行組合員たる幹事会社とすることに合意する。
2 甲は、別途定める場合を除き、製作委員会の通常の業務について製作委員会の代表となり、各組合員を代理する。
3 甲は、製作委員会において、本映画の製作・利用にかかる管理、出資金・収益配分・会計の管理、組合員間の連絡・調整等を行う。
4.4 制作費
制作費の額を定めます。後のトラブル回避のため、制作費に含まれる費用や含まれない費用を明確にしておくことが望ましいです。
本映画の製作費は、金●●円とする。ただしP&A費、すなわち上映用に劇場に頒布するフィルムのプリント費用及び広告宣伝費はこれに含まない。
4.5 出資
製作委員会を構成するそれぞれの会社の出資金額を定め、その使途や支払時期・方法などを定めます。
また、映画の制作費が当初予定していた額に収まらないという事態が往々にして生じます。そのような事態に備えて、追加出資の要否や、その割合等をあらかじめ定めます。
また、金額が大きいので段階的な出資を定める場合もあります。
1 甲、乙、(略)は、本映画の制作費として、それぞれ次に定める金額を製作委員会に出資する。
甲:金●●万円(出資割合:●%)
乙:金●●万円(出資割合:●%))
(略)
2 甲、乙、(略)は前項の出資金を、令和●●年●月末日限り、次の銀行口座に振り込んで支払う。なお、振込手数料は出資者の負担とする。
(略)
3 本映画の制作費が本契約書に定める金額を超過する場合、甲、乙、(略)は協議の上超過分の負担について定める。協議が調わない場合には、甲及び乙が超過分のそれぞれ超過分の半額を負担する。
4.6 権利の共有
成果物たる映画の著作権の共有について定めます。このような条項が無い場合には、著作権は組合員各自に合有されるのは上述の通りです。
本映画に係る著作権は、第●条で定める出資割合に応じて、組合員間で共有されるものとする。
4.7 製作
映画の実際の制作は制作会社が行います。製作委員会の組合員が制作を担当することもありますが、外部のプロダクション等に外注することもあります。
なお、製作委員会は民法上の組合ですので法人格がなく、法律行為の主体となることはできません。すなわち、製作委員会は外部の制作会社と契約を締結することができません。そのため、幹事会社等の業務執行組合員や、制作担当の組合員が製作委員会を代理(いわゆる組合代理)して、制作会社との契約を締結することになります。
甲は、幹事会社として製作委員会を代表し、次の事業者に本映画の制作業務を委託する。
会社名:●●プロダクション
住所:
4.8 窓口権
本映画の窓口業務を担当する組合員や、その手数料を定めます。
1 本映画の各利用権の行使に関する窓口業務を担当する組合員は次の通りとする。
(1)国内における上映権:甲
(2)国内におけるテレビ放送権:乙
(3)国内における商品化権:丙
(略)
2 前項各号の窓口業務を行う組合員が受け取る手数料は次の通りとする。
(1)前項(1)号の上映権:甲が受領する全ての収入の●●%
(2)前項(2)号のテレビ放送権:乙が受領する全ての収入の●●%
(3)前項(3)号の商品化権:丙が受領する全ての収入の●●%
(略)
4.9 収益の分配
窓口となる組合員の収益から窓口手数料等を控除した残額を製作委員会収入として、これを各組合員に分配する条項です。
1 本映画の利用によって得た収益から、諸経費及び窓口手数料を控除した残額を製作委員会収入とする。
2 甲は、前項の製作委員会収入を、出資の割合に応じて、各組合員に配分する。
5 製作委員会の活用
このように、製作委員会という仕組みを上手に活用することによって、適切な著作権処理や利益分配が可能となってきます。
本稿では民法上の組合である製作委員会について説明しましたが、そのほかにも有限責任事業組合(LLP)や、特別目的会社(SPC)、株式会社を利用することも考えられます。それぞれに有利な点、不利な点がありますので、お近くの専門家にご相談ください。
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