1.ロゴマークに著作権は認められるか
1.1 ロゴマークは著作物といえるか
まず、ロゴマークは著作権法の保護を受ける「著作物」といえるでしょうか。
著作権が認められる「著作物」は、著作権法2条1項1号により、以下のように定義されています。
①思想又は感情を、
②創作的に、
③表現したものであって、
④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する、
もの
ロゴマークといってもいろいろなものがありますが、多くは文字や、図柄で構成されています。
そのうち、文字によって構成されているロゴマークについては、著作物性が認められる可能性は低いです。
1.2 裁判例
例えば、ビール会社が他社のロゴマークを著作権の侵害として使用の差し止めを請求した事件では、ロゴマークには著作権は認められないとされました。
本件の原告は、被告のロゴマークが自身のロゴマークに類似し商標権侵害、不正競争行為、著作権侵害を構成するとして、使用差し止めを求めました。
原告ロゴマーク | 被告ロゴマーク |
裁判所は、
「言語を表記するのに用いる符号である文字は、他の文字と区別される特徴的な字体をそれぞれ有しているが、書体は、この字体を基礎として一定の様式、特徴等により形成された文字の表現形態である。いわゆるデザイン書体も文字の字体を基礎として、これにデザインを施したものであるところ、文字は万人共有の文化的財産ともいうべきものであり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであるから、文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは、一般的には困難であると考えられる。仮に、デザイン書体に著作物性を認め得る場合があるとしても、それは、当該書体のデザイン的要素が『美術』の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることは当然である。」
「ところで、右ロゴマークは欧文字「Asahi」について、「A」、「a」、「h」、「i」の各文字における垂直の縦線を太い線で表し、その上下の辺を右上がり四四度の傾斜とし、「A」、「s」、「a」、「h」の各文字における傾斜線を細い線で表し、その傾斜を右上がり四四度とし、「A」、「s」の各文字の細い傾斜の先端にあるはねを三角形状となし、その右上がり傾斜辺を四四度とするといったデザインを施した点に特徴があり(別紙(一)の(2)記載の文字は細い輪郭線に囲まれているが、このような手法はありふれたものであって、デザイン的特徴とまではいえない。)、また、「A」の書体は他の文字に比べてデザイン的な工夫が凝らされたものとは認められるが、右程度のデザイン的要素の付加によって美的創作性を感得することはできず、右ロゴマークを著作物と認めることはできない。」
として、原告のロゴマークに著作物性を認めませんでした。
この判例から分かるように、ロゴマークは必ずしも著作物であると認められるわけではありません。
ただし、絵柄を含んだデザイン性の高いロゴマークの場合などについては、著作物と認められるケースもあります。
では、ロゴマークの作成依頼をした場合にはどういった対応をすべきなのでしょうか。
2.ロゴマークの権利を保護するには何をすべきか
2.1 著作権と商標権
著作権は、著作物が生みだされたと同時に著作者に自然発生する権利です。
一方、商標権を取得するには、特許庁へ商標登録出願をし、審査を経て商標登録されることが必要です。
現在、日本の商標法の下では、次の9つの類型の商標が認められています。このうち、5から9までの5つの類型は、平成26年の商標法の改正により登録が可能になった、比較的新しいタイプの商標です。
- 文字商標:文字のみからなる商標
- 図形商標:写実的なもの、図案化(デザイン)されたもの、幾何学的模様など
- 記号商標:記号的な紋章、輪郭で囲まれた文字、モノグラム、暖簾(のれん)記号など
- 立体商標:商品、商品の包装物、役務の提供に用いられるキャラクター人形や制服など
- 動き商標:パソコン画面に映し出される動きのある文字や図形など
- ホログラム商標:見る角度によって変化して見える文字や図形など
- 色彩のみからなる商標:単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標
- 音商標:パソコンの起動音やCMなどに使われるサウンドロゴなど
- 位置商標:文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標
(このほか、1から4まで及び7を結合させた結合商標も認められています。)
位置商標については、具体例がないと特に分かり辛いと思います。例えば、下記のデザインを見て、マヨネーズを思い浮かべませんでしたか?この「商品包装の前面の上部約5分の2の部分に位置する赤い網の目状の図形」は、キューピー株式会社によって商標登録されています。
【出願人】 キューピー株式会社
【出願番号】 商願 2015-29959
【指定商品】 第 30 類 マヨネーズソース
【商標の詳細な説明】
位置商標を構成する標章は、赤い太線からなる網の目状の部分であり、商品の前面の上部約5分の2の部分に位置します。破線部分は、包装用フィルム袋に入った商品の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではありません。
2.2 ロゴマークを保護するには商標登録を
ロゴマークは著作権では保護されなさそうです。しかし、商標権を取得することでロゴマークの保護が可能になります。
先ほどの商標の9つのタイプには「ロゴ商標」という区分はありません。一般的にロゴマークの商標は、図形商標、記号商標、文字と図形が結合した商標、文字と記号が結合した商標などとされています。
ただし、商標権を取得するための商標登録は、基本的には「早い者勝ち」です。もし、既に自社で利用しているロゴマークがあったとしても、先に他社によって商標登録されている場合には、自社の商標の方が需要者に広く知られている場合を除き、商標権を取得することはできません。
商標は、自社の商品・サービスをブランド化し、消費者に対し認知を広め信頼を獲得していく過程において重要です。
自社の新しい商品・サービスを始める際に新しいロゴを使用すると、意図せず商標権の侵害をしてしまう可能性もあります。使用するロゴに似たものが第三者に商標登録されていないか、確認を忘れないように注意してください。
3.著作権があることを想定した対応を
ロゴマークを作成する歳には、社外のデザイナーに依頼するケースが多いと思います。冒頭で、必ずしもロゴマークに著作権は発生するものではないと述べましたが、後でロゴマークの著作者に著作権の使用料を請求された事例もありますので、事前にリスクに備えておくことが大切です。
著作権には大きく分けて著作者人格権、著作権(財産権)があります。
著作者人格権
公表権 | 無断で著作物そのものを公表されない権利 |
---|---|
氏名表示権 | 著作物を公表する際に著作者名の表記を決定する権利で、実名以外に無名または変名使用も含む |
同一性保持権 | 無断で著作物を改変されない権利 |
著作財産権
複製権 | 著作物を複製する権利。 |
---|---|
上演権・演奏権 | 著作物を公に上演したり演奏したりする権利 |
上映権 | 著作物を公に上映する権利。 |
公衆送信権・公の伝達権 | 著作物を公衆送信したり、自動公衆送信の場合は送信可能化したりする権利。また、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利。 |
口述権 | 言語の著作物を公に口述する権利 |
展示権 | 美術の著作物や未発行の写真の著作物を原作品により公に展示する権利 |
頒布権 | 映画の著作物をその複製によって頒布する権利 |
譲渡権 | 著作物を原作品か複製物の譲渡により、公衆に伝達する権利(ただし、映画の著作物は除く) |
貸与権 | 著作物をその複製物の貸与により公衆に提供する権利 |
翻訳権・翻案権など | 著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利(二次的著作物を創作する権利) |
二次的著作物の利用権 | 自分の著作物を原作品とする二次的著作物を利用(上記の各権利に係る行為)することについて、二次的著作物の著作権者が持つものと同じ権利 |
ロゴマーク作成を社外のデザイナーに依頼する際には、「著作権の譲渡を受けること」と「会社に対して著作者人格権を行使しないこと」についてあらかじめ合意を得ておくように契約書に含めましょう。
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