雇用関係の無い場合の職務著作の成立要件・効果と、神獄のヴァルハラゲート事件

職務著作について

会社の従業員は業務中に著作物を作成することが多々あります。例えば、IT関係の方が業務でプログラムの著作物やデータベースの著作物を作成することは多いですし、デザイナーやライターが会社の業務として作成したイラストや文章にも著作物性がある場合が多いでしょう。会社がそのような著作物を使用できないと困ったことになりそうです。

ここで、職務著作を持ち出すまでもなく、改正前特許法の職務発明制度のように、従業員の著作物の著作権を就業規則等で会社に譲渡してしまえば問題ないようにも思えます。しかし、著作財産権はともかく、著作者人格権は譲渡することができませんので(著作権法59条)、法人に著作者人格権を帰属させるような仕組みも必要となる点が、特許を受ける権利全てを会社に譲渡できる職務発明の場合とは異なります。

よって、著作権法は、従業員が会社の業務で作成した著作物を職務著作物(法人著作物)として、その著作権を会社に帰属させるような規定を設けています。

なお、著作物の作成を外注した場合に、契約によって著作財産権が譲渡されることがありますが、著作者人格権は譲渡されません。このような外注時の著作権譲渡契約には著作者人格権の不行使特約をつけておくのが一般的です。だとすれば、従業員等の著作者人格権も不行使特約で処理してもよいようにも思えますが、従業員の場合だけ立法的な解決がされています。

著作権法
第十五条 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

職務著作の要件

職務著作となるには、次の要件が必要です。

職務著作の要件
  1. 法人等の発意に基づき作成されたこと
  2. 法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であること
  3. 法人等が自己の著作の名義の下に公表する著作物であること
  4. 作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと

※プログラムの著作物の場合、③の要件は不要。

①法人等の発意に基づくこと

法人等とは法人格を有する者だけではなく、法人格を有しない社団・財団で代表者又は管理人の定めのあるもの(2条6項)、国・地方公共団体、自然人も含まれます。

職務著作は、法人等の意思決定に基づきなされたものである必要があります。

特許法の職務発明の場合には、使用者等の発意に基づく発明であることは必要ではなく「その性質上当該使用者等の業務範囲に属し、かつ、その発明をするに至つた行為がその使用者等における従業者等の現在又は過去の職務に属する発明」であれば職務発明となるのに対し、職務著作の場合には「発意」の要件が必要とされています。

しかしこれをあまり厳格に解する必要はなく、法人等から具体的な命令がなくとも、「雇用関係からみて使用者の間接的な意図の下に創作をした場合も含まれる」(東地判平成17年12月12日)とか、「業務に従事する者の職務の遂行上、当該著作物の作成が予定または予期されてる限り、法人等の発意に基づく」(知高判平成22年8月4日)などといわれています。

②法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物であること

「法人等の業務に従事する者」とされるには雇用関係が必要か否か、学説上は争いがあるようです。

判例では、雇用関係がなくとも「法人等と著作物を作成した者との関係を実質的にみたときに、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、法人等がその者に対して支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額及び支払方法等に関する具体的事情を総合的に考慮して」判断するとされており(最判平成15年4月11日・RGBアドベンチャー事件)、以降の下級審でもこの判断基準が概ね踏襲されています(大地判平成17年1月17日・セキツイツーユーホーム事件、知高判平成18年9月13日・キャロルラストライブ事件等)。

「職務」とは具体的に命令されたものには限られず、職務として期待されているものも含まれます。勤務時間内に作成したものに限られず、勤務時間外に作成したものであっても「職務上作成」されている限り、これに含まれます。「法人等の業務に従事する者」が職務に関係のある著作物を作成している場合は、これに該当する可能性が高いでしょう。

③法人等が自己の著作の名義の下に公表する著作物であること

現実に法人等の名義で公表されていることまでを要さず、法人等の名義で「公表する」ものであればこれに当てはまります。そうでないと、公表されてはじめて職務著作に該当することになり、本来は著作物作成の時点で決まっていなくてはならない法人等の著作権原始取得の有無が、公表の有無という事後的な要因できまることになってしまいます。

なお、コンピュータプログラムについては、この要件は必要ありません。コンピュータプログラムは、人格的な側面が希薄な工業製品に近い機能的な著作物であり、法人等の名義で公表されることが多くないからです。

④契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと

契約等に特に定めのある場合には場合には、職務著作となりません。例えば、就業規則に、著作権が従業員に留保されるというような規定がある場合です。

職務著作の効果

上記要件を全て具備する著作物は、法人等が著作権者であるとみなされます。

いったん従業員等が著作権を取得して、これを法人等に譲渡する場合と異なり、法人等は著作者人格権も取得することになります。よって、法人等は公表権(著作権法18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)を保有することになります。

ただし、プログラムの著作物を除き、職務著作物は法人等の名義で公表される(ことが予定されている)ことがそもそも要件となっていますので、公表権の取得にはあまり意味がありません。

神獄のヴァルハラゲート事件(東地判平成28年2月25日・平成25年(ワ)第21900号)

職務著作性が争点となった比較的新しい裁判例をご紹介します。

本件は「神獄のヴァルハラゲート」なるソーシャルアプリゲーム(本件ゲーム)の開発に関与した原告が、これを開発しネット配信する被告に対し、原告が共同著作者であるとして収益の一部の分配等を求めた事案です。他にも興味深い争点はありますが、本稿では職務著作性の争点のみを取り上げます。

裁判所は本記事で挙げているような①~④の要件を挙げ、次のように判示しました。

まず①の「発意」の要件については、被告を設立したBが被告設立前より原告に対しゲーム開発への参加を勧誘したことなどから、被告の発意に基づいてゲーム開発がされたものと判断されました。

上記①の要件については、Bは、原告がGLOOPS社に在籍中から、本件ゲームを新会社等において製作予定であることを告げて、原告に対して本件ゲーム開発への参加を勧誘したこと、原告もBの勧誘があったためにGLOOPS社を退社して本件ゲーム開発に関与したことを認めていること、その後も被告において本件ゲーム開発が行われ、被告名義で本件ゲームが配信されたこと等からすれば、本件において、実質的には、Bが代表取締役を務める被告の発意に基づいて本件ゲーム開発が行われたものと認められる。東地判平成28年2月25日・平成25(ワ)21900

②の「法人等の業務に従事する者が職務上作成したこと」の要件については、RGBアドベンチャー事件の規範を引用し、原告は被告に雇用されていなかったが、被告に勤怠管理されてたこと、被告オフィスで被告備品を用いて開発したこと、Bの指示に従っていたこと、過去分および将来分の報酬が労務提供の対価といえることなどを挙げ、この要件を肯定しました。

「原告は、本件ゲーム開発期間中は被告に雇用されておらず、被告の取締役の地位にもなかったが、被告においてタイムカードで勤怠管理をされ、被告のオフィス内で被告の備品を用いBの指示に基本的に従って本件ゲーム開発を行い、労務を提供するという実態にあったものである。」

「しかし、後記3(1)のとおり、原被告間において、本件ゲーム開発に関しては当然に報酬の合意があったとみるべきであることに加え、本件ゲーム開発の当初から、原告が被告の取締役等に就任することが予定されており、その取締役としての報酬も本件ゲーム開発に係る報酬の後払い的な性質を含む(もっとも、後記3(1)のとおり、取締役としての報酬分は後記報酬合意の対象ではない。)と認められることをも併せ考慮すれば、原告は被告の指揮監督下において労務を提供したという実態にあり、被告が原告に対して既に支払った金銭及び今後支払うべき金銭が労務提供の対価であると評価できるので、上記②の要件を充たすものといえる。」 東地判平成28年2月25日・平成25(ワ)21900

さらに、本件ゲームは被告名義で配信されているため③の要件を充たし、原被告間で著作権に関する特段の合意もなかったとして④の要件を充たすとしました。

以上より、本件ゲームは被告の職務著作物であり、その著作権は被告に帰属するため、原告の共有持分を前提とする請求は理由がないとされました。

業務としての著作物の作成に注意

このように、一定の要件がそろえば、従業員等の作成した成果物の著作権を原始的に会社が取得することになり、従業員には何も残りません。

職務発明の場合、会社が特許を受ける権利を得るには就業規則等の根拠が必要ですが、職務著作の場合にはそれが不必要です。職務発明とは逆に、従業員等に著作権を留保したい場合に就業規則等に根拠を要します。

すなわち、会社の業務として著作物の作成をする場合には、規則の存在や個人の意思とは無関係に、外部的な要因で著作権の帰属が定まることになりますので、ご注意下さい。