著作財産権と著作者人格権

楽曲に関する著作権には大きく分けて著作財産権(狭義の著作権、財産としての権利)と著作者人格権(著作者の人格権的な権利)の2つがあります。

例えば楽曲について作詞・作曲など音楽の著作物を「創作した者」には、著作財産権(著作権)と著作者人格権を取得します。著作財産権は権利の束とよばれており「複製権」「演奏権」「公衆送信権」などいくつかの権利を含みますが、これらの著作権を持つ作詞者、作曲者は、コンサート、CD、テレビなどで「楽曲を利用する人」に利用を許諾して、対価として著作権利用料を受け取ったり、音楽の利用を差し止めたりすることができます。

著作財産権は、土地や物の所有権や賃借権と同じような財産権と考えられ、権利を他人に譲ったり、相続することができますが、所有権などとは異なり一定の保護期間が定められています。

著作権や著作隣接権などの著作権法上の権利には、一定の存続期間が定められており、この期間を「保護期間」といいます。一定期間が経過した著作物等については、その権利を消滅させることにより、社会全体の共有財産として自由に利用できるようにすべきであるという考えから一定の保護期間が設けられています。日本では著作物の保護期間は原則として著作者の死後70年までとされています(著作権法の改正により、2018年12月30日に死後50年から死後70年へ変更となりました)。

著作者人格権は、著作者(作詞家・作曲家など)がつくった作品を、公表するかどうかを決めたり、勝手に変えられないようにするなど「人格的な権利」を守っています。 著作者人格権には、公表権、 氏名表示権、同一性保持権という3つの権利があります。著作者人格権は、その名のとおり、著作者が精神的に傷つけられないようにするための権利であり、創作者としての感情を守るためのものであることから、譲渡したり相続したりすることはできません(一身専属権)。

著作権(著作者人格権を含む)は、著作者が著作物を創作したときに自動的に発生するため、権利を得るための手続きも必要ありません。

著作隣接権とは

作詞家、作曲家が著作権を持っているのに対し、ミュージシャン(歌手・バンド)などの実演家、レコード製作者及び放送等の事業者といった、著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしている者は、著作隣接権を持っています。

著作隣接権には、録音権・録画権、放送権、放送二次使用料を受ける権利、貸レコードについて報酬を受ける権利、テレビジョン放送等の伝達権といった、著作財産権とはまた毛色の違う権利があります。

著作隣接権は実演、レコードの固定、放送又は有線放送を行った時点で発生し、特に手続きは必要ありません。保護期間は実演、レコードの発行(例えばCDの発売等)などから70年です。

楽曲の利用許諾がいらない場合

楽曲を複製する時には、原則として著作権を持っている人の許可が必要となります。しかし著作権法では家庭内等での複製の場合、著作権を持っている人たちの権利に大きな影響を与えないような範囲で音楽を使う場合には、権利を制限して音楽を自由に使えるようにしています。

コンサートやイベントでの演奏や上映も、営利を目的としていない、入場料が発生しない、演奏者、歌手への報酬の支払いがない場合は、著作物利用許諾の手続きをとらないで使用することができるとされています(内容により営利目的に該当する場合があります)。

BGMにも利用許諾が必要

営業している店内のBGMとして音楽を使用する場合、著作権者の許諾が必要です。2018年、札幌市内の理容店が店舗内で音楽をBGMとして使用していたのに対し、JASRAC(日本音楽著作権協会)が著作権侵害を理由に音楽の利用停止と損害賠償を求め訴訟となりました。札幌地裁は、BGM使用はJASRACが管理する著作権を侵害しており、被告側は利用許諾契約締結も拒否していることから、今後も侵害する恐れがあるとして、約31,000円の支払いを命じました。店舗BGMを巡る著作権訴訟では全国初の判決です。

以前は一般的に有線放送が利用されており、利用許諾料は有線事業者が支払っていたため問題にはなりませんでした。現在では有線放送の利用店は少なくなり、店舗BGM音楽はスタッフのパソコン、スマートフォンやタブレット端末等を利用することが多く、店舗ごとに利用許諾が必要となりました。商業施設によっては、ビルやショッピングモールがJASRACのような著作権管理団体と包括契約を行っています。

包括的利用許諾契約とは

包括的利用許諾契約とは、年間契約を結び一括して楽曲の使用を許可し、代わりに包括料金を受け取る仕組みです。

YouTubeやTikTokなどは、株式会社NexToneという著作権管理会社と包括契約を結んでおり、原則的に楽曲や歌詞の利用について特別な許諾は必要ありませんが、市販されている音源を利用するなど、原盤権が関係する場合は、原盤権者からの許諾が必要となります。

原盤権とは、音楽を録音、編集して完成した音源(原盤、マスター音源)について発生する権利で著作隣接権の一つです。

Tiktokについても、動画を作成するときに「楽曲を選ぶ」で利用できる音楽については権利がクリアになっています。アプリ内で選べる楽曲以外に、自分が持っている音楽を無許諾で使用すると上記の原盤権を侵害することになります。

Tiktokで使用される楽曲は、世界的なプロモーションにつながるケースもあることから、レコード会社とTikTokがライセンス契約を結んでいます。

全てのアーティストがJASRACやNexToneに著作権の管理を委託しているわけではないため、包括契約されていない楽曲を使用すると著作権侵害になります。

音楽を個人の楽しむ範囲を超えて使用する場合には、JASRACやNexTone等の著作権管理団体の作品検索データベースで楽曲検索をし、使用方法について著作権管理団体に問い合わせ、正規の手順を踏むことが大切です。

笠原 基広