店内でBGMを流すと、著作権侵害?
飲食店に限らず美容院やマッサージ店、雑貨店などお客さんが来店するお店では、場の雰囲気作りのためにBGMを流したいと考えることは多いと思います。
しかしながら、自分が普段利用している音楽媒体をそのまま商業利用してしまった場合、知らず知らずのうちに著作権を侵害してしまうおそれがあります。
なお、自分のお店の中だけで無料で流すのだから商業利用ではないと思ってしまう人もいますが、BGM自体に金銭のやりとりが発生していなくても商業施設内で音楽を流す場合には商業利用ですので注意してください。
例えば、以下のケースはどれも著作権の侵害にあたりますので、ご注意ください。
- 正当な手続きをせず、カフェや雑貨店などの店舗内でCDをかける行為
- spotifyで配信されている音楽やAppleMusicやGooglePlayMusicからダウンロードした曲を店舗内で流す行為
- 正当な手続きをせず、店舗内の生演奏で有名アーティストの曲を演奏する行為
なぜ上記のケースは、著作権の侵害になってしまうのでしょうか。
楽曲の著作権とは
著作権には大別して著作者人格権と著作財産権があり、さらに著作財産権として細かい権利が規定されています。
その細かく規定された権利は「支分権」と呼ばれており、著作権(著作財産権)は支分権の集まりということができます。一口に「著作権の侵害」といいますが、これは実はとても曖昧な表現であって、どの権利(支分権)の侵害なのかは個別に検討する必要があります。
著作権の支分権には、複製権、演奏権、公衆送信権、貸与権、翻訳権・翻案権などが挙げられます。そして、実際の楽曲の使用時も、支分権ごとの手続きになっています。
複製権 | 著作物を複製する権利。 |
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上演権・演奏権 | 著作物を公に上演したり演奏したりする権利 |
上映権 | 著作物を公に上映する権利。 |
公衆送信権・公の伝達権 | 著作物を公衆送信したり、自動公衆送信の場合は送信可能化したりする権利。また、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利。 |
口述権 | 言語の著作物を公に口述する権利 |
展示権 | 美術の著作物や未発行の写真の著作物を原作品により公に展示する権利 |
頒布権 | 映画の著作物をその複製によって頒布する権利 |
譲渡権 | 著作物を原作品か複製物の譲渡により、公衆に伝達する権利(ただし、映画の著作物は除く) |
貸与権 | 著作物をその複製物の貸与により公衆に提供する権利 |
翻訳権・翻案権など | 著作物を翻訳、編曲、変形、翻案等する権利(二次的著作物を創作する権利) |
二次的著作物の利用権 | 自分の著作物を原作品とする二次的著作物を利用(上記の各権利に係る行為)することについて、二次的著作物の著作権者が持つものと同じ権利 |
例えば、他人の楽曲のCDを発売したい場合にはその楽曲の「複製権」の利用手続きを、CDをレンタルショップで貸し出したい場合にはその楽曲の「貸与権」の利用手続きを行う必要があります。そして、店舗で音楽を流すためには「演奏権」について利用手続きを行うことが必要です。
しかし、流したい曲が増える度に店舗経営者が逐一、然るべき手続きをとるのは煩雑で現実的ではありません。
そこで、重要な役割を担っているのが「JASRAC」です。
JASRACとは
JASRAC(ジャスラック)は、1939年に設立された「一般社団法人日本音楽著作権協会」の英語表記「Japanese Society for Rights of Authors, Composers and Publishers」の略称です。音楽著作権管理事業を行う団体の一つであり、同種の団体では日本国内で最も長い歴史を有します。
楽曲の著作権者は自分自身で著作権を管理することもできますが、コンサートでの演奏やテレビ放送の使用許可などの問い合わせに対して個別に対応することは大変な労力が発生してしまいます。
JASRACは、楽曲の著作権者である「作曲家、作詞家、音楽出版社」を守るため、著作権者から管理を委託された楽曲について、CD・楽譜、コンサートやカラオケ、テレビ、ラジオ、ネット配信など様々なかたちで配信される楽曲の管理を一手に行なっています。
また、世界各国は著作権の国際条約・協定に基づいて、互いの国の著作物を保護し合っており、日本も世界中のほとんどの国と保護関係を結んでいます。2020年12月時点で、JASRACは96ヶ国・4地域の126団体と契約しています。
JASRACは、JASRACと同じように音楽を管理する役割を持つ海外の団体と管理契約を結んでいます。そのため、日本国内で外国の著作権物である楽曲を利用したい場合にも、JASRACが窓口となります。
コンサートでその楽曲を使用したい時などJASRACが管理契約を結んでいる対象である場合には、わざわざ個別に海外の管理団体に手続きをしなくとも、JASRACへの手続きだけで済ませることができます。
JASRACが楽曲の管理を一手に行うことで、著作権者の保護だけではなく、楽曲の利用者である私たちにとっても手軽かつ適切なやり方で楽曲を使用できるというメリットがあります。
店舗内でBGMとして使用して良い例
一方、以下のような行為は、著作権侵害にはあたりません。
- JASRACなど著作権管理団体へ手続きを行い、使用料を支払う
- USENなどの業務用BGM配信サービスを使用して音楽を流す
- テレビやラジオ放送をリアルタイムで流す
- 著作権フリーの楽曲のみを流す
上記の中で、特に注意が必要なのはテレビやラジオ放送の使用についてです。
テレビ、ラジオは無料で使用できるため便利なようですが、無料で利用できる範囲には「録画・録音」したものを流すことは含まれません。そのため、インターネットラジオやインターネット上で配信されているテレビ番組を店舗で流してしまうと著作権違反になるおそれがありますので、くれぐれも注意してください。
なお、当面の間、従業員だけしかいないオフィス内や医療・福祉、教育機関など一定の条件を満たす場面でのBGMとしての使用については、JASRACなどの一部の著作権管理事業者はその場合の使用料を免除しています。
ただし、このようなルールは今後変更される可能性があります。また、この使用方法は良いがその使用方法はダメといった具合に線引きが分かりづらい点も多く存在していますので、気づかぬうちに違法行為をしてしまっていないか、事前によく確認することが大切です。
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