写真にまつわる4つの権利
企業の営業活動において、パンフレットやチラシ広告などの紙の出版物やサービス紹介ウェブサイトを作成することは企業規模を問わず日常的に行われる行為です。しかし、それらを作成する際に使用する「写真」の権利について、制作担当者任せにしてしまっている場合、使用開始後にトラブルを招いてしまうおそれがあるため注意が必要です。
まず、写真自体には著作権が発生し、撮影者であるカメラマンなどが著作権者となるため、使用許可を得る必要があります。加えて、写真の被写体の権利についても同様に注意すべきポイントがあります。被写体が美術作品などの著作物の場合には被写体の著作権、被写体が人物の場合には被写体の肖像権、さらに、被写体の人物が有名人である場合にはパブリシティ権などの確認が必要です。
- 写真自体の著作権
- 被写体の著作権
- 被写体の肖像権
- 被写体のパブリシティ権
被写体の著作権
彫刻や銅像など著作物を写真にした時は、写真自体の著作権のほか、被写体の著作権についての確認が必要です。
これにはいくつか例外があり、著作権者に利用許諾を得ずとも写真撮影をしたり、撮影した写真の利用ができる場合があります。
公開の美術の著作物、建築の著作物の場合
公園、広場などのパブリックスペースにアートが設置されている場合、写真を撮ると著作権侵害になるようでは、おちおち撮影もできませんよね。また、珍しい建築物を撮影して著作権侵害になるようでは困ります。
著作権法は、そのような場合を例外として規定しています。すなわち、美術の著作物の原作品が一般公衆の見やすい屋外の場所に恒常的に設置されている場合や、建築の著作物の場合には、基本的には誰でもその写真を撮って利用(複製、翻案など)することができます。
いわゆる「写り込み」の場合
上記例外は美術の著作物の原作品と、建築の著作物の場合だけです。しかし、それ以外の著作物、例えばポスターやテレビ画面が背景に写り込んでしまったような場合に、著作権侵害を問われるのも困ります。
著作権法はそのような写り込みに関する例外規定をおいており、令和2年10月1日施行の改正著作権法で、さらに要件が緩和されました。
写真撮影をするにあたって、主たる被写体に付随して写り込んだ著作物については、軽微な構成部分に留まるものであれば、正当な範囲内で、どのような方法でも利用できます。ただし、著作権者の利益を不当に害することはできません(著作権法30の2)
条文を見る
第三十条の二 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。2 前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
すなわち、写真への「写り込み」が著作権侵害にならないのは以下の要件を満たす場合です。
- 主たる被写体に付随していて写り込んでいること
- 軽微な構成部分にとどまること
- 正当な範囲内であること
- 著作権者の利益を不当に害さないこと
付随性
対象著作物を目的として撮影するのではなく、主たる被写体に付随して撮影する場合でなくてはなりません。なお、従前は被写体と対象著作物が「分離困難」であることが必要とされていましたが、著作権法の改正により分離困難性の要件は不要となりました。
軽微性
写真の中で著作物の占める割合、写真における著作物の再製の精度その他の要素を考慮して軽微性を判断します。
正当範囲性
写り込んだ著作物の利用により利益を得る目的の有無、被写体と写り込んだ著作物の分離の困難性の程度、写り込んだ著作物が果たす役割その他の要素に照らして判断します。
著作権者の利益を不当に害さないこと
写り込んだ著作物の種類及び用途や、利用の態様に照らして判断します。
「写り込み」の場合に許諾が要らない例、必要な例
文化庁は著作物の「写り込み」について、著作権者の許諾が要らない例、必要な例を次のように挙げています。
- 写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
- 街角の風景をビデオ収録したところ、本来意図した収録対象だけでなく、ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれる場合
- 絵画が背景に小さく写り込んだ写真を、ブログに掲載する場合
- ポスター、絵画や街中で流れていた音楽がたまたま録り込まれた映像を、放送やインターネット送信する場合
- 本来の撮影対象として、ポスターや絵画を撮影した写真を、ブログに掲載する場合
- テレビドラマのセットとして、重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し、これをビデオ収録した映像を、放送やインターネット送信する場合
- 漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で、写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合
肖像権とは
肖像権は、人が自己の肖像をみだりに写真に写されたり、絵に描かれたり、写されたり、描かれたりした自己の肖像を、他者に勝手に使用されない権利とされています。肖像権は日本の法律において明文化はされていません。しかし、判例によって広く認められる人格権やプライバシー権の一種とされています。
写真の被写体の人物や、写真に映り込んでしまった人物から使用許可を得ずにブログなどに掲載してしまった場合、後で被写体の人物から掲載停止を求められたり、肖像権の侵害として損害賠償を求められる場合もあります。
例えば、センセーショナルな英単語が書かれたTシャツを着て公道を歩く女性の写真を無断で撮影し、サイトに掲載した行為が、被写体の女性の肖像権を侵害するとして、30万円の慰藉料が認められた裁判例があります(東地判H17年9月27日)。
パブリシティ権とは
スポーツ選手や芸能人などの著名人を商品やサービスのPRのために起用することは、販売促進効果があり、著名人の肖像や名前自体には経済的利益・商業的価値があるとされています。この著名人の肖像や名前から生じる経済的利益・商業的価値を本人が独占し、他者に無断で使わせないようにする権利をパブリシティ権といいます。
著名人の写真や名前を語って、商品のPR広告を作成したりすると、パブリシティ権の侵害として本人や所属事務所などから訴えられる可能性があります。
例えば、韓国の有名俳優であるペ・ヨンジュン氏の写真を雑誌に掲載し、販売した行為が同氏のパブリシティ権を侵害するとして、440万円の損害賠償が認められた裁判例があります(東地判H22年10月21日)。
気をつけたいトラブル
SNSが盛んな現代において、企業が著作権などの侵害行為をしてしまった場合、一般人からの指摘において問題が明らかになるケースもあります。
例えば、下記のようなケースは担当者の認識不足・確認不足を理由に起こり得ます。
- 「フリー素材」を自由に使用して良いものと勘違いし使用してしまった
- 使用許可を得ていなかった場所で撮影していた写真を使用してしまった
- 知人から提供してもらった写真が、被写体の人物から肖像権の使用許諾を得ていなかったことが後から判明した
特に、インターネット上に公開・拡散された写真は、完全に削除することは困難なため、自社サイトに掲載する写真に付随する権利については、公開前に適切なチェックを実施することが大切です。
素材写真の購入時に気をつけたいこと
インターネット上には、フリー素材と言われる写真が掲載されているサイトがありますが、利用規約を確認せず使用してしまうと、写真の使用許諾範囲を超えてしまい、後で権利者からの指摘によって問題点が明らかになることがあります。
インターネット上で写真を入手することは手軽な方法ではありますが、手軽である分、認識不足などよって問題点を見落としがちになります。そこで、特に写真素材販売サイト利用時にあらかじめ理解しておくべき言葉を紹介します。
まず、基本的な用語として「ライツマネージド」と「ロイヤリティフリー」の2つがあります。「ライツマネージド」は、都度使用する毎に使用許諾の取り決めを行うライセンス形式のことで、使用履歴が管理されるため、写真素材の独占契約も可能になる方法です。一方、「ロイヤリティフリー」は、一度使用料を支払うことで、その後、使用許諾範囲内において回数や使用期間を問わず何度でも写真を使用できるというライセンス形式で、リーズナブルな価格で写真素材の利用が可能になります。
これら2つの言葉とは別に、よく使われる言葉に「フリー素材」があります。使用料無料の意味で使われていることが多いものの、その素材の使用範囲についてはサイトの利用規約等で条件が規定されていることが多いため、利用前には利用規約や運営管理者への使用申請などが必要であり油断は禁物です。
また、先に挙げた被写体の著作権や肖像権の問題を確認するために重要なのが、「プロパティリリース」と「モデルリリース」です。
「プロパティリリース」は、写真の撮影者以外が所有・管理するものを写真に収める際に、被写体の所有者にストック素材としての販売に同意してもらう許諾書のことを指し、「撮影物使用許諾書」とも言います。また、「モデルリリース」は、素材の被写体となるモデル本人・代理人にストック素材としての販売に同意してもらう許諾書のことを指し、「肖像権使用同意書」とも言います。
写真素材販売サイトで購入した写真は一見安全に使用可能なようにも思えますが、写真の撮影者・販売者自身、または写真の購入者自身にプロパティリリースやモデルリリースの確認があると明記されていることもあるため、購入した写真だからと言って、安易に使用しないよう注意することが望ましいと言えます。
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