1 映画は巨大ビジネス

巨額な制作費を必要とする映画・アニメなどの映像ビジネスにおいて、1作品ごとに確実な収益を上げることは難しいことから、リスクを分散するために複数社から出資を受けて映画を製作する製作員会方式を多く採用しています。ここで、製作とは企画・資金調達・配給・宣伝を意味し、制作とは実際に作品を作る費用(監督・映画スタッフ・俳優のギャラ、舞台装置や小道具にかかる費用など)を意味します。

低予算映画の興行収入における大ヒットは難しいといわれています。日本の映画製作の場合、通常数千万円~数億円の製作費がかかり、人気作品の興行収入は数億円~ですが、これまで日本国内で100億円以上の興行収入作品は37作品(2021年2月現在)でした。製作費を回収できず、赤字になる作品も多々あります。

多額な興行収入は3部門(製作、配給、興行)に分配されます。一般的には興収の50%ずつを興行会社と配給会社が受け取り、配給側の興収50%から配給手数料(一般的に30~40%)を引いた額が製作に分配されるため、1作品ごとの製作費負担を減らすために製作委員会方式が採用されることがあります。

2 製作委員会方式とは

製作委員会方式とは、出資による資金調達の方法として複数の企業が映画作りに参与し、共同で製作・興業を行う方式のことです。主に映画配給会社、テレビ局、出版社、広告代理店、映画制作会社、映像ソフト販売会社、ゲームメーカー、おもちゃメーカー、レコード会社などが出資と共に各社のビジネスを展開します。新聞社、書籍流通業者、芸能プロダクションも、製作委員会に参画するケースがあります。この場合、著作権は製作委員会に帰属することになります。

日本の映画だけではなく、世界各国にある仕組みで、クラウドファンディングで個人から資金を募るケースもあります。

製作委員会は、民法上の組合のため法人格はありません。各組合員が組合契約を締結し製作費を出資します。各組合員は対外的には直接無限責任を負うにことなり、機関投資家や金融関係者などが参加し難いため、出資先を広げ難いとされています。また、出資者に作品の著作権が分散された結果、各種メディアでの事業展開の際に権利処理が煩雑になったケースもあります。

3 製作委員会方式における著作権処理

通常は製作委員会の幹事会社が共同著作権行使の代表者となり、著作権の処理を行います。原作の出版社、映画製作者、映画製作会社が幹事会社となるケースが多くあります。

製作委員会の中で権利自体は共同製作者全員が共有し、各用途の窓口権を共同製作者が有するよう、窓口権の行使の範囲を契約によって規定し、枠組みを作ることもあります。

窓口権というのは法律で規定されたものではないですが、一般的には各事業の担当分野の窓口となり契約や著作権処理を行う権利とされています。製作委員会を構成する各事業者は、幹事会社が主体となり、共同事業契約書を締結し製作委員会を発足させます。

著作権使用料は製作委員会へ支払われ、他のライセンサーから支払われた著作権使用料を合算し、持分比率によって製作委員会の参加企業に分配されます。

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4 製作委員会方式の課題とリスク

製作委員会方式では、参画した企業が契約違反した場合や、契約解除の際には問題が多く発生します。途中から出資者が製作委員会に参画することは困難なことが多く、資金調達が困難となってしまう場合があるからです。

また、吸収合併などにより参画企業に組織変更が生じることもあります。金融関係の会社が参画企業を吸収合併した場合などは、エンタテインメント産業に関わってない会社が、映画製作会社として担っていた役割を継続できるかも課題となるでしょう。

製作委員会のリスクとしては、まず、参画した企業が倒産等した場合には著作権の共有持分がどこかに売却されかねず、他の出資者が想定していない著作権の流出が発生する可能性があります。また、そのような倒産等の結果、権利が誰に帰属しているかがわからなくなり、使用許諾が取れなくなってしまう事があります。製作委員会には、そのような場合に著作物の利用が困難になってしまうというリスクがあります。

5 製作委員会と法人格

特別目的会社(SPC)や有限責任事業組合(LLP)を事業主体とすることも一般化してきました。これらを事業主体とすることにより出資者は有限責任となり、資金の運用状況も透明化されることが期待できます。そのため、機関投資家や金融関係者などが出資しやすくなります。様々な出資者が参画することによって製作予算が増え、出資者も多様化します。さらに、SPCやLLPに著作権処理が一本化されるため、著作権を利用した事業をさらに展開する際に、簡便かつ柔軟な対応が可能となります。

製作委員会は、民法上の組合ではなく、商法上の匿名組合を使って資金を調達する場合もあります。出資を集めて事業や投資を行い、収益を出資者に分配する場合、原則として金融商品取引法の適用対象となり、金融庁への登録または届出が必要となります。製作委員会方式による映画製作等のコンテンツ事業については、出資者全員が事業の少なくとも一部に従事するなど一定の要件を満たす場合には、金融商品取引法の適用除外となることから、製作委員会の運営の多くはこの例外規定に基づいて行われています。

6 製作委員会方式と新方式

製作委員会方式は、リスクの分散に優れていますが、製作委員会に出資する原資を持たない制作会社等は、二次利用による収益の分配を受ける権利を持つ事が出来ないため、制作費のみ受注し制作するため収益率が悪く、制作スタッフ人件費の問題を抱えることになります。一方で、1社で製作費を負担し制作する場合、一元的に権限を運用出来るメリットはありますが、製作費の金額が少ない作品では宣伝の規模が限られ、大ヒットを生み出すことが難しいのです。

新方式としてパートナーシップ方式が提唱されています。制作会社等がクリエイティブとビジネスの両方を主導し、出資ではなく使用料を支払い許諾を得るものですが、制作以外の配信・グッズ制作・劇中音楽等の二次利用を行う部門機能が必要となります。

笠原 基広