BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使って著作権を侵害した結果、プロバイダから「発信者情報開示請求に係る意見照会書」と共に「訴状」と書かれた書類が届くことがあります。
この「訴状」はプロバイダが著作権者より提起された「発信者情報開示請求訴訟」に関するものです。すなわち、あなた自身が訴えられているわけではありません。
あなた自身はこの訴訟に対応する必要はありませんが、情報開示に同意するか否かについてはプロバイダに回答するのが無難でしょう。
1.プロバイダから届いた訴状
BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトを使った結果、意図せずとも著作権侵害をすることがあります。そのような場合、プロバイダからの書類「発信者情報開示請求に係る意見照会書」に「訴状」と書かれた書類が同封されていることがあります。
この「訴状」には「訴訟物の価額 160万円」と記載されていることがあります。これはどのような訴訟に関するものなのでしょうか?負けた場合には160万円を払わなくてはならないのでしょうか?
2.訴状が届いた理由
プロバイダから届いた書類をよく見て状況を整理しましょう。
「訴状」にはあなたの名前は記載されていないはずです。「原告」として記載されているのは知らない会社、「被告」として記載されているのはあなたが使っているインターネット回線のプロバイダの会社のはずです。
また「訴状」は「発信者情報開示請求に係る意見照会書」に同封されていたと思います。意見照会書はあなたか、あなたの身内(インターネットプロバイダとの契約者)宛になっているのではないでしょうか。
状況を整理すると、あなたがBitTorrentで動画ファイルなどの著作物をダウンロードし著作権を侵害したとして、著作権者があなたに対して損害賠償請求をしようとしています。そして損害賠償請求の相手方としてのあなたを特定するため、著作権者が、インターネットプロバイダに対して、あなたの情報を開示するよう「発信者情報開示請求訴訟」を提起している段階です。
3.そもそもなぜ発信者情報開示請求をされるのか
BitTorrentなどのファイル共有ソフトを使用すると、著作物をダウンロードするだけで著作権侵害を引き起こすことがあります。
著作権者が発信者(あなた)に対し損害賠償請求をするには、発信者がどこの誰であるかを特定する必要があります。そのため、著作権者はまずプロバイダに対して「発信者情報開示請求」を行います。
発信者情報開示請求は、訴訟外の手続きで行うこともできますし、また、訴訟を提起して裁判所に「発信者情報開示請求命令」をさせるような手続きで行うこともできます。著作権者はプロバイダに対し、まずは訴訟外の手続きで発信者情報開示請求をして、開示を拒絶された場合に訴訟手続きに進行することが多いです。
しかし、訴訟外の発信者情報開示請求において、プロバイダが情報開示を拒否した場合、著作権者は改めて訴訟手続きをする必要があり、二度手間になってしまいます。このような手間を省くため、訴訟外の手続きを省略して最初から発信者情報開示請求訴訟を提起する著作権者が増えています。
4.発信者情報開示請求訴訟とはどのような訴訟か
発信者情報開示請求訴訟は、発信者(あなた)の氏名、住所等の情報を開示するようプロバイダに求める訴訟です。著作権者がプロバイダを訴えますのでこの両者で争われることになり、発信者は当事者ではありません。つまり、あなたが弁護士を雇ってこの訴訟を遂行する必要はありません。
なお、「訴訟物の価額」の160万円は、あなたへの損害賠償の金額とは無関係で、この金額をあなたに請求しているわけではありません。「訴訟物の価額」は裁判所に支払う手数料の算出の基礎となる金額で、お金の支払い(例えば貸金や売買代金)を請求するような「財産上の請求」の場合は請求金額と同額になります。しかし、発信者情報の開示を求める訴訟はお金を請求しているわけではなく「情報の開示」という行為をするよう請求しています。このような「財産上の請求でない請求」の場合、「訴訟物の価額」は160万円であると法律で定められています(民事訴訟費用等に関する法律第4条第2項)。
5.発信者情報開示請求に係る意見照会とは何か
発信者情報開示請求訴訟を提起されたインターネットプロバイダは、まずあなたに情報開示に同意するか、情報開示を拒否するか、の意見を求めます。
あなたが情報開示に同意すれば、インターネットプロバイダが著作権者にあなたの情報を開示し、ひとまず訴訟は終了します。ただし、著作権者はあなたに損害賠償請求をしてくるでしょう。
あなたが情報開示に同意しない場合、インターネットプロバイダと著作権者は、情報開示が認められるか否かを裁判所で争うことになります。
6.開示を拒否した場合、発信者情報は開示されるのか
近年、おびただしい数の発信者情報開示請求訴訟が提起されています。しかしBitTorrentを使用したことによる著作権侵害で発信者情報の開示が認められなかったケースはここ2~3年で数えるほどしか見当たらず、特に令和4年以降にはほとんどありません。
これは、数多くの訴訟を通じて発信者情報開示請求が認められるための要件や手法が明確化され、訴訟の帰趨を正確に見通せるようになっていることを意味します。換言すれば著作権者にとって、発信者情報開示請求訴訟はルーティン化しているといえます。
よって、発信者情報開示請求訴訟を提起されている場合、あなたが開示を拒否しても最終的には情報開示が認められてしまう可能性が高いと思われます。
また、プロバイダからの意見照会を放置しておくことも可能ですが、開示拒否の場合と結果はさほど変わらないでしょう。
7.発信者情報が開示されたらどうなるか
発信者情報が開示されれば、著作権者はあなたに対して損害賠償請求をしてくることになります。損害賠償請求の額は状況により千差万別です。
著作権者より損害賠償請求をされた場合、訴訟で争うことも可能ですし、訴訟外で和解(示談)の交渉をすることも可能です。しかし、そのような判断をしたり、訴訟対応や和解交渉をするには専門的な知識が必要です。
発信者情報開示請求に係る意見照会があった場合や、発信者情報がすでに開示され損害賠償請求をされた場合には、弁護士はあなたに代わって著作権者等に対応し、交渉することができます。損害賠償金の減額や適切な対策を講じるアドバイスなどを得ることが可能となります。
よって、あなたが発信者情報開示請求をされた場合には、早急に弁護士に相談することをおすすめします。
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