この記事を書いた人
笠原 基広
弁護士(第一東京弁護士会所属)・弁理士

東京都千代田区神田の弁護士法人AK法律事務所にて、主に知的財産法務と企業法務を中心とする業務に従事しています。

この記事のまとめ

BitTorrentなどのP2Pソフトウェアで著作物を違法に共有した場合の損害賠償額は、ダウンロードされたファイル数×ファイル1つあたりの利益額で計算することが可能です。

BitTorrentで著作物のファイルをダウンロードすると著作権を侵害する

BitTorrentを利用して、漫画や動画などのファイルをダウンロードすると、併せてそのファイルの一部をダウンロード可能とする(アップロードする)ことにもなります。通常、漫画、動画などには著作権が発生していますので、そのようなファイルを著作者に無断でアップロードすると、公衆送信権などの著作権を侵害します。

すなわち、BitTorrentなどのP2Pソフトウェア利用して著作物をダウンロードするだけで著作権侵害を引き起こすことがあります。

権利を侵害された著作権者は、発信者情報開示請求や訴訟によって著作物を違法アップロードした人(発信者)を特定し、損害賠償の請求をすることができます。

著作権侵害による損害額の推定等

著作権侵害の損害の額はどうやって算定するのでしょうか?

著作権侵害に基づく損害賠償額の立証は難しく、立証を容易にするため、著作権法は損害額の推定等に関する規定を設けています(著作権法141条)。これによれば、著作権侵害に基づく損害賠償額は、次のように推定等することができます。

損害賠償額の推定等
  1.  譲渡等数量×著作権者の単位数量あたり利益額
  2.  侵害者の利益額
  3.  ライセンス料相当額

BitTorrentによる損害賠償額の算定例

BitTorrentを利用して著作物を共有したことによる著作権侵害の場合、損害賠償額はどのように算定されるでしょうか。

シーダーとリーチャー

シーダーとリーチャーの概念図

BitTorrentでは完全なファイルをアップロードした人(シーダー)から、ファイルの一部分(ピース)をダウンロードした人(リーチャー)が、さらに他の人にそのピースをダウンロードさせます。リーチャーが他のリーチャーより全てのピースをダウンロードすることによって、そのリーチャーは完全なファイルを取得することになります。

シーダーの責任

BitTorrentを利用してファイルをアップロードした人(いわゆるシーダー)については、当該ファイルのダウンロード数がそのまま上記の❶の算出方法の「譲渡等数量」となるはずです。

しかし、ファイルをダウンロードしたに過ぎない人(リーチャー)は、完全な著作物のファイルではなくファイルの一部分(ピース)をアップロードしたにすぎません。著作物の完全なファイルは、多数のリーチャーがアップロードしたピースをダウンロードすることによって完成することになります。

そのようなリーチャーはどのような損害に責任を負う事になるでしょうか?

リーチャーの責任

裁判例においては、まず、リーチャーは動画ファイルの一部をアップロードしたにすぎないとしても、他のリーチャーと共同して著作権を侵害する(共同不法行為)とされています。

損害の範囲については、リーチャーがファイルを他のユーザーに送信できることができる間(=BitTorrentをネットに繋いでいた期間中)に、ネットワーク全体でダウンロードされたピースの数に応じた損害について責任を負うとされています。

すなわち、動画ファイルのピースを多数のユーザーがアップロードどしていたとしても、そのユーザー全員が共同不法行為者であり、個々のユーザーが、ダウンロードされたファイルによって生じた損害全額について責任を負うとされています。これは、多数のユーザーが「共同不法行為」によって著作権侵害をしているとされているからです。

共同不法行為について、民法は「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う」と規定しています(民法719条1項)。すなわち、共同不法行為者は、それぞれの責任割合にかかわらず、それぞれが損害の全額を賠償する義務を負うことになります。

この民法の規定からしても、多数に人による同じファイルのアップロードについては、ネットワーク全体でダウンロードされたファイルの数に応じた損害の全額を、それぞれが連帯して賠償する事になりそうです。

一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1~3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1~3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたということができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。(中略)

一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをダウンロードしてから、BitTorrentの利用を停止するまでの間の本件各ファイルのダウンロードによる損害の全額について、共同不法行為者として責任を負うと認めることが相当である。

引用元:知高判令和 3年 8月27日・令2(ワ)1573号

損害額を上記の❶に基づいて算出するならば、損害の額は、リーチャーがBitTorrentをネットに繋いでいた期間にダウンロードされたファイルの数に、ファイル1つあたりの著作権者の利益額を乗じた額と算出できそうです。

BitTorrentによる損害賠償額

(ファイルのダウンロード数)×(1ファイルあたりの著作権者の利益額)

ダウンロード数の算出

リーチャーがBitTorrentをネットに繋いでいた期間にダウンロードされたファイルの数は、どのように算出されるでしょうか。

それぞれのリーチャーについて毎日のダウンロード数についての正確なデータを計測していれば、そのようなファイル数を算出することは容易です。しかし、著作権者といえども常にネットワークを監視しているわけではありませんから、そのような正確なデータを保有しているとは限りません。もし、そのような正確なデータが無ければダウンロード数の立証としては不十分、ということになれば、損害賠償請求自体できなくなってしまいます。

これを裁判例では、必ずしもリーチャーがBitTorrentをネットワークに繋いでいた期間でなくとも、事後のダウンロード数より日割計算して、1日あたりのダウンロード数を求めて、これをリーチャーがBitTorrentを繋いでいた日数に乗じてファイルのダウンロード数と推計することを認めています。

ダウンロード数の推計

(一定期間のダウンロード数÷同期間の日数)×(BitTorrentをネットに繋いでいた日数)

例を挙げてみましょう。前述の裁判例では、リーチャーX1は、平成30年6月12日から平成30日9月8日までの89日間、BitTorrentをネットワークに繋ぎ、動画ファイルのピースであるファイル1をダウンロード可能としていました。そして、令和1年10月1日から令和3年5月18日までの596日間にファイル1がダウンロードされた数は501でした。

裁判例では、リーチャーX1が寄与したダウンロード数は、次の式で求められています。

(501÷596)×89=74 (小数点以下切上げ)

著作権者はファイル1つあたり482円の売上げを得ており、上記ダウンロード数にこれを乗じた額35688円が損害額とされています。

損害額の算定方法はケースバイケース

上記の裁判例はあくまでも一例にすぎません。他の算出方法が許されないわけではなく、著作権者としては最も立証が容易な計算方法を採用し損害賠償金の額を計算した上で、請求することができますので、あくまでも金額はケースバイケースで算定されることになります。

また、ファイルをアップロードした人を突き止めるために発信者情報開示請求訴訟をした場合、その手続の費用(弁護士費用など)をも損害として認めた裁判例もあります。

著作権侵害の損害賠償請求を受けた場合には、専門家に相談することを強くお勧めします