この記事のまとめ

BitTorrent(ビットトレント)などのP2Pソフトウェアで著作物を違法に共有した場合の損害賠償額は、

(ダウンロードされたファイル数)×(ファイル1つあたりの利益額)

で算出することが可能です。

1.BitTorrent(ビットトレント)でファイルをダウンロードすると著作権を侵害する

BitTorrentを利用して漫画や動画などのファイルをダウンロードすると、併せてそのファイルの一部をアップロードすることにもなります。通常、漫画、動画などには著作権が発生していますので、そのようなファイルを著作者に無断でアップロードすると、公衆送信権などの著作権を侵害します。

すなわち、BitTorrentなどのP2Pソフトウェア利用して著作物をダウンロードするだけでも著作権侵害を引き起こすことがあります。

権利を侵害された著作権者は、発信者情報開示請求や法的手続きによって著作物を違法アップロードした人(発信者)を特定し、損害賠償の請求をすることができます。

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2.著作権侵害による損害額の推定等

著作権侵害の損害額はどうやって算定するのでしょうか?

動画といったコンテンツであれば、著作権侵害行為によって生じたコンテンツ売り上げの減少などが損害額として想定されます。しかし、売上減少には様々な要因がありますので、著作権侵害行為に起因する売り上げ減少の額を立証するのは大変困難です。

立証を容易にするため、著作権法は損害額の推定等に関する規定を設けています(著作権法141条)。この規定によれば、著作権侵害に基づく損害賠償額は、次のように推定等することができます。

損害賠償額の推定等
  1.  譲渡等数量×著作権者の単位数量あたり利益額
  2.  侵害者の利益額
  3.  ライセンス料相当額

3.BitTorrentによる損害賠償額の算定

BitTorrentを利用して著作物を共有したことによる著作権侵害の場合、損害賠償額はどのように算定されるでしょうか。

BitTorrentを使用して完全なファイルをアップロードした人(いわゆる「シーダー」)はもちろん、ダウンロードしただけの人(いわゆる「リーチャー」)も共同不法行為者として著作権侵害の法的責任を負うことになります。リーチャーは著作物のファイルを細分化したファイルの「ピース」をダウンロードしますが、ダウンロードしたピースをさらにアップロードしてしまうからです。

BitTorrentを利用してファイルをアップロードした人(シーダー)については、ファイルのダウンロード数がそのまま上記の❶の算出方法の「譲渡等数量」となるはずです。

またリーチャーについても、ある裁判例ではファイルを細分化した一部である「ピース」を他のユーザーに送信できることができる間(=BitTorrentをネットに繋いでいた期間中)に、ネットワーク全体で当該ピースがダウンロードされた数に応じた損害について責任を負うとされています。

この事例では、リーチャーの責任が、ネットワーク全体でダウンロードされた完全なファイルの数ではなく、特定のピースのダウンロード数を基準として算定されています。ピースをダウンロードした人は、他のピアからその余のピースをダウンロードすることによって完成ファイルを得ることができますので、リーチャーが特定のピースを送出することにより他のピースを送出する人と共同して不法行為をしたことになる、という理屈のようです。

4.リーチャーの損害賠償額の具体例

4.1 損害賠償額は裁判例ではどのように算定されているか

リーチャーが与えた損害額を上記の❶に基づいて算出するならば、損害の額は、上記のダウンロードされたピースの数に、ファイル1つあたりの著作権者の利益額を乗じた額と算出できそうです。

BitTorrentによる損害賠償額

(ファイルのダウンロード数)×(1ファイルあたりの著作権者の利益額)

リーチャーがBitTorrentをネットに繋いでいた期間にダウンロードされたファイルの数は、どのように算出されるでしょうか。

それぞれのリーチャーについて毎日のダウンロード数についての正確なデータを計測していれば、そのようなファイル数を算出することは容易です。しかし、著作権者といえども常にネットワークを監視しているわけではありませんから、そのような正確なデータを保有しているとは限りません。もし、そのような正確なデータが無ければダウンロード数の立証としては不十分、ということになれば、損害賠償請求自体が不可能になってしまいます。

前述の裁判例では、必ずしもリーチャーがBitTorrentをネットワークに繋いでいた期間でなくとも、事後のダウンロード数より日割計算して、1日あたりのダウンロード数を求めて、これをリーチャーがBitTorrentを繋いでいた日数に乗じてファイルのダウンロード数として推計することを認めています。

ダウンロード数の推計

(一定期間のダウンロード数÷同期間の日数)×(BitTorrentをネットに繋いでいた日数)

4.2 具体例1 知高判令和4年4月20日債務不存在確認請求控訴事件

例を挙げてみましょう。前述の裁判例では、あるリーチャーはBitTorrentを89日間ネットワークに繋ぎ、動画ファイルのピースであるファイル1をアップロードしていました。そして、その後に著作権者が調べたところファイル1がダウンロードされた数は596日間あたり501ファイルでした。1日あたりでいうと501÷596=0.84のファイルがダウンロードされたことになります。

これにリーチャーがネットワークにつなげていた期間89日を乗じることによって、当該期間にダウンロードされた数を推定することができます。

(501÷596)×89=74 (小数点以下切上げ)

ファイル1つあたりのダウンロード及びストリーミング販売価格は、通常版が980円、HD版が1,270円であり、利益率は38%とされています。よって、ファイル1つあたりの利益額は

通常版につき372円(=980×0.38)、HD版につき482円(=1,270×0.38)

となります。よって、ダウンロード数にこのファイル1つあたりの利益額を乗じた額が損害額となります。

損害額計算の具体例1
  • ダウンロード数 501回(596日間)
  • ビットトレントの接続期間 89日間
  • ファイル1つのダウンロード価格 1270円
  • 利益率38%

損害額=ダウンロード回数×ダウンロード1回あたりの利益額
(ここで、ダウンロード回数=一定期間のダウンロード数÷同期間の日数×ビットトレントの接続日数=501回÷596日×89日=74回、ダウンロード1回あたりの利益額=ダウンロード販売価格×利益率=1,270円×0.38=482円)

∴ 損害額=74回×482円=35,668円

4.2 具体例2 令和5年8月31日債務不存在確認請求事件

また別の裁判例では、ビットトレントの利用者がパソコンをインターネットに接続してビットトレントを通じて動画ファイルをダウンロードしていたのは約3時間に限られ、その後動画ファイルを削除したのだから、ビットトレントを通じて動画ファイルを他のユーザーに送信可能な状態にあったと認められるのは、動画ファイルをダウンロードしていた3時間に限られると判断しています。

その上で、当該ファイルの1日のダウンロード数が547回、動画ファイルのダウンロード価格が1450円、利益率が38%であるとして、次の計算式で損害を認定しています。


損害額計算の具体例2
  • 1日のダウンロード数 547回
  • ビットトレントの接続時間 3時間
  • ファイル1つのダウンロード価格 1450円
  • 利益率38%

損害額=ダウンロード回数×ダウンロード1回あたりの利益額
(ここで、ダウンロード回数=1日あたりのダウンロード数×ビットトレントの接続時間÷24、ダウンロードあたりの利益額=ダウンロード販売価格×利益率)

∴ 損害額=547回×3÷24×1450円×38%=3万7675円

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5.損害額の算定方法はケースバイケース

上記の裁判例はあくまでも一例にすぎません。他の算出方法が許されないわけではなく、著作権者としては最も立証が容易な計算方法を採用し損害賠償金の額を計算した上で、請求することができますので、あくまでも金額はケースバイケースで算定されることになります。

また、ファイルをアップロードした人を突き止めるために発信者情報開示請求訴訟をした場合、その手続の費用(弁護士費用など)をも損害として認めた裁判例もあります。

著作権侵害の損害賠償請求を受けた場合には、専門家に相談することを強くおすすめします

笠原 基広