著作権侵害の損害額はどのように算定されますか?損害賠償額の推定等について

著作権侵害の損害

著作物を創作した著作者は、原則的には著作権(著作財産権、著作者人格権)を取得します。また、著作者から著作財産権を譲り受けた譲受人も、著作財産権を取得することになります。著作者人格権は譲渡できませんので、そのような場合には、著作財産権を有する者と、著作者人格権を有する者が別々に存在することになります。

このような著作権や、著作者人格権、出版権、著作隣接権(以下、本記事では著作権等といいます)といった権利を有する者(以下、著作権者等といいます)は、自身の権利が侵害された場合に、損害賠償を受けることができます。

この損害賠償の額はどのようにして算出されるのでしょうか。

損害賠償請求権

故意又は過失によって他人の権利を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。著作権等もこの「他人の権利」に該当しますので、著作権等を故意・過失により侵害された著作権者等は、侵害者に対し、損害の賠償を請求できます。

しかし、著作権等の侵害によって生じた損害の立証は容易ではありません。

例えば、自身の著作物であるマンガが無断複製されて、ネットにアップロードされたような場合を考えてみましょう。

マンガを電子ファイル化したり、サーバにアップロードすると複製権侵害となりますし、ネットにアップロードしたりサーバより送信すると公衆送信権侵害となります。さらに、マンガに翻訳や改変をした場合には、同一性保持権といった著作者人格権の侵害となります。

複製権や公衆送信権というような著作財産権の侵害によって被った損害としては、本来売れるはずであったマンガが売れなくなったことによる逸失利益、侵害者の調査に要した調査費用、発信者情報開示請求手続等に要した実費と弁護士費用などを挙げることができます。

しかし、損害額の立証は容易ではありません。

損害の推定

著作権侵害行為(複製行為、アップロード行為)と因果関係のある著作者の減益額がどのぐらいになるのかは、立証が困難です。著作権侵害行為が無い場合の売上を算出し、現実の売上との差額から、著作権侵害行為と相当因果関係のある金額を算出する必要があるためです。そもそも著作権侵害が無かった場合にどれぐらい売れていたかの立証は極めて困難で、仮定に仮定を重ねることになってしまいます。

そこで、著作権法は、著作権侵害時の損害額の立証を容易にするために、損害額の推定等の規定を設けています(著作権法114条)。

譲渡等数量×著作権者の単位数量あたり利益額

著作権者は、違法複製された著作物の譲渡数量や違法ダウンロードされた複製物の数量等に、著作権者等の単位数量当たりの利益の額を乗じた額を損害額とすることができます。ただし、著作権者等の販売能力に応じた額を超えることはできません(著作権法114条1項)。

例えば、通常は販売1冊あたり150円の利益となるマンガが違法アップロードされ、100万回ダウンロードされた場合には、著作権者は、150円x100万部=1億5千万円を損害とすることができます。ただし、通常は5万部しか売れないような雑誌でしたら、損害額は5万部分の利益額(150円×5万部=750万円)を超えることはできません。

出版社が、少年マガジン等の電子書籍をキャプチャしたファイルをネットに違法アップロードした行為を複製権、公衆送信権侵害として損害賠償を請求した事件では、雑誌の販売利益率が45%、ダウンロードが100万回余りとして、1億5千万円余りの逸失利益と、この10%の1500万円余りの弁護士費用相当額が損害額として認定されています(大地判令和元年11月18日・令和1(ワ)6020)。

被告には弁護士がついていなかったとはいえ、違法アップロードは複製等の回数が多くなりますので、損害額も巨額になってしまいます。

侵害者の利益額

侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、著作権者は、侵害者の利益額を損害額とすることができます。

なお、ここでいう利益とは、粗利や経常利益等ではなく、製品を追加的に売り上げる際の売上から追加費用(変動費用)を除外した、いわゆる「限界利益」とされています。

例えば、他人の著作物を勝手にコピーして、1部100円で1000部販売する際に、コピー代が1部10円、紙代が1部5円とすると、1部を追加的に販売するために要する追加費用は15円となります。これ以外にもオフィス代、人件費、宣伝費等が経費として必要となりますが、これらの経費は1000部販売する時と1001部販売する時とでは変わらず、変動費用とはいえませんので、限界利益の算出では考慮されません。よって、侵害者の限界利益率は85%、限界利益の額は100円×1000部×85%で、8万5千円となります。

プリント教材を複製して販売する行為が著作権侵害とされた事件では、月額の売上12万円より、複写権使用料として5%,文具費(主として紙代)として10%,発送・通信費として15%が変動経費として控除され、限界利益率は70%とされました。なお、被告は複写機リース料,複写機カウンター料金,電気料金,発送業務・事務管理費バイト料も経費として控除すべきと主張しましたが、これらは限界利益にて考慮される変動経費としては認められませんでした。

そして、10年弱の利益額が12万円×12ヵ月×(9 年+342 日/365 日)×0.7=1001万6482円であり、著作権者には同額の損害が生じたと認定されています(大地判平成28年2月8日・令和1(ワ)6020

ライセンス相当額

著作権者が受けるべきライセンス相当額を、著作権者の損害額とすることができます。通常は、侵害品の売上額にライセンス料率を乗じた額となります。

例えば、20万円のソフトウェアの違法コピー100個をダウンロード販売した場合に、ライセンス料率が50%であるとすれば、著作権者の損害は20万円×100個×0.5=1000万円とすることができます。

販売価格が19万9500円のソフトウェアが違法に56回ダウンロード販売された事件では、裁判所は実施料率に関する統計データや、事案の悪質性を考慮し、ライセンス料率を50%とし、558万6000円(19万9500円×56×0.5)の損害を認定しています(東地判平成27年2月12日・平成26(ワ)33433)。

相当な損害額の認定

上記規定にもかかわらず、損害額の立証が難しい場合があります。

損害額の認定が損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができます。

慰藉料

上記のような著作財産権侵害と異なり、著作者人格権の侵害の場合には精神的損害(慰藉料)の請求をすることができます(民法710条)。財産権侵害と異なり、人格権侵害の慰藉料の算出には、上記のような推定等の規定は適用されません。また、著作財産権侵害の場合には、財産的損害の賠償によって精神的損害も回復されるのが通常ですので、さらに慰藉料が認められるのは難しいと思われます。

その他の救済

著作権者は、損害賠償請求以外にも、不当利得返還請求(民法703、704条)、差止請求(著作権法112条)、名誉回復請求(民法723条、著作権法115条)といった民事的救済を求めることが可能ですし、刑事罰を求めて告訴をすることもできます(なお、著作権侵害罪の一部は非親告罪です)。