1 競走馬の馬名について

最近、競走馬を擬人化したゲームが流行っており、有名馬の馬名が使用されているようです。

それでは、競走馬の馬名は、馬主等の関係者に許諾を受けなくとも使用することができるでしょうか。

2 著作権法による保護

まず、競走馬の馬名は著作権で保護されるでしょうか。

著作権の対象となる著作物とは、次のものをいいます。

著作物とは

①思想又は感情を、
②創作的に、
③表現したものであって、
④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する、
もの

競走馬は生き物であり、様々な方の愛情を受けて育まれています。ゲーム中では擬人化もされているほどです。

しかし、法的には、動物は「物」として取り扱われます。よって、この問題を整理すると「物」の名称に著作権(著作物性)が認められるか、ということになってしまいます。

一般的には「物」の名称は、思想や感情を創作的に表現したものとはいえませんので、著作物性は認められません。下級審の傍論ではありますが、裁判例は次のとおり言及しています。

物の名称等は、思想、感情の表現でなく、著作物性が認められないから、著作権法(著作隣接権を含む。)の保護を受けない。

名古屋地判平成12年1月19日・平成10(ワ)527(ギャロップレーサー事件・第一審)
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3 パブリシティ権による保護

競走馬の馬名には、著名人の名称等が有するのと同様の顧客吸引力を有するものがあり、経済的価値を有するときがあります。著名人の名称や風貌が有する顧客吸引力は人格権の一種である「パブリシティ権」として保護されますが、競走馬の名称にも「パブリシティ権」が認められるでしょうか。

パブリシティ権とは、氏名、肖像から顧客吸引力が生じる著名人が、この氏名・肖像から生じる経済的利益ないし価値を排他的に支配する権利をいいます。

しかし、競走馬は法的には「物」です。よって「物」に「人格権」の一種であるパブリシティ権が認められるかが問題となります。

最高裁は、ゲーム内で競走馬の名称を使用した事案について、次のとおり判示し、「物」のパブリシティ権を否定しました。

現行法上、物の名称の使用など、物の無体物としての面の利用に関しては、商標法、著作権法、不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律が、一定の範囲の者に対し、一定の要件の下に排他的な使用権を付与し、その権利の保護を図っているが、その反面として、その使用権の付与が国民の経済活動や文化的活動の自由を過度に制約することのないようにするため、各法律は、それぞれの知的財産権の発生原因、内容、範囲、消滅原因等を定め、その排他的な使用権の及ぶ範囲、限界を明確にしている。

上記各法律の趣旨、目的にかんがみると、競走馬の名称等が顧客吸引力を有するとしても、物の無体物としての面の利用の一態様である競走馬の名称等の使用につき、法令等の根拠もなく競走馬の所有者に対し排他的な使用権等を認めることは相当ではなく、また、競走馬の名称等の無断利用行為に関する不法行為に成否については、違法とされる行為の範囲、態様等が法令等により明確になっているとはいえない現時点において、これを肯定することはできないものというべきである。したがって、本件において、差止め又は不法行為の成立を肯定することはできない。
最小判平成16年2月13日・平成13(受)866等(ギャロップレーサー事件・上告審)

このように、有名馬といえども、その馬名にはパブリシティ権も認められません。

4 馬名の商標権

なお、馬名には商標権は認められます。アーモンドアイ(商標登録第6213447号)、オグリキャップ(商標登録第2474115号、第4824574号)などは商標登録されているようです(馬主による登録とは限りませんし、指定商品もおもちゃ等の競馬とは直接関係のないものが多いようです。)

5 馬名の法的保護

上記のとおり、馬名には著作権もパブリシティ権も認められません。

商標登録をすれば、指定商品における保護は認められます。しかし、登録商標といえども、必ずしも競走馬の関係者が保有するものとは限りません。

笠原 基広