この記事のまとめ

書店やコンビニエンスストアなどで、未購入の書籍をスマホなどで無断撮影することは、俗に「デジタル万引き」などといわれています。

「デジタル万引き」とはいっても、財物を窃取するわけではないですので、刑法上の窃盗にはあたりません。

しかし、書店などで販売されている書籍等には文章、写真、イラストなどが掲載されており、これらは第三者の著作物であることがほとんどです。よって、これらを撮影すると、著作権者の専有する複製権を侵害するおそれがあります。ただし、個人的に使用する目的での撮影として「私的複製」(著作権法30条)に該当する場合、著作権を侵害しません

なお、著作権を侵害しないからといって、そのような行為が常に許されるわけではありません。

詳しくは以下をご覧下さい。

1.書籍の撮影行為は窃盗罪を構成するか

書店やコンビニエンスストアなどで、未購入の書籍の紙面をスマホなどで無断撮影することは、俗に「デジタル万引き」などといわれています。

一般的に「万引き」とは、店舗で売られている商品を対価を支払うことなく無断で持ち去る行為のことをいいます。万引きは刑法の「窃盗罪」(刑法235条)を構成する犯罪で、10年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます。

万引きは犯罪です
刑法235条

第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

それでは「デジタル万引き」はどうでしょうか?結論からいうと「万引き」とはいえども「デジタル万引き」は窃盗罪を構成しません

デジタル万引きは売り物の書籍などの紙面を無断撮影しますので、書籍に掲載されている情報を盗んでいる、といえるかもしれません。また、デジタル万引きによって行為者は書籍の情報を得ることができますので、万引きしたのと同様にその書籍を購入する必要がなくなるかもしれません。よって「デジタル万引き」は書店やコンビニエンスストア、そして、書籍の販売元に損害を与えかねない行為であり、窃盗と同様に取り締まるべきという意見も一理あります。

しかし、刑法における「窃盗罪」は「他人の財物を窃取」することが構成要件となっています。書籍の紙面の情報は経済的な価値を持っていますので「財」の側面はありますが、情報は有体物(物理的に空間の一部を占めて有形的存在をもつ物)ではありませんので「物」には該当しません。よって、紙面を無断撮影しても「他人の財物を窃取」することにはなりません。

なお、刑法は「物」でない「電気」も窃盗罪における「財物」とみなす旨の規定をわざわざおいています(刑法第245条)。法律がわざわざこのような規定をおいてまで有体物でない「電気」を窃盗罪の対象としているのは、逆に、法がわざわざ規定しない限り有体物でない情報などは「窃盗罪」の対象とならないからです。

刑法245条

第二百四十五条 この章の罪については、電気は、財物とみなす。

よって「万引き」は窃盗罪を構成しますが、「デジタル万引き」は「財物を窃取」するわけではありませんので窃盗罪を構成しません。

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2.書籍の撮影行為は著作権侵害となるか

2.1 複製権侵害のおそれ?

「デジタル万引き」が窃盗にあたらないにしても、財産的価値のある紙面を無断で撮影するのだから著作権侵害にあたらないでしょうか?

書店などで販売されてる雑誌や書籍の写真、文章、イラスト、記事などは著作物であることがほとんどであり、これをスマホなどのカメラで撮影すると著作物を電子的に複製することになります。

著作物の電子的複製行為

著作権者はその著作物を複製する権利を専有します(著作権法21条)。「専有」というからには、著作権者と、著作権者から許諾を受けた者以外は、著作物を複製する権利を持っていません。よって、基本的には著作権者に無断で著作物を複製することはできません。この権利は著作財産権の一種であり複製権といわれています。

著作権法

第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

よって、著作権者の許諾を得ずに、書籍のページを無断撮影する行為は、複製権という著作権を侵害するおそれがあります。

では「デジタル万引き」は常に著作権侵害になってしまうのでしょうか?

2.2 著作権の制限

著作権法は一定の場合には著作権者の権利を制限して著作物を自由に利用できるという規定を置いています。著作権の制限は多岐にわたり、例えば私的利用のための複製、適法な引用、図書館における複製、試験問題としての複製など、著作権法の要件を満たしていれば、本来は著作権を侵害する著作物の無断複製行為も違法とはなりません。

著作権の制限のひとつとして、著作権法は「私的利用のための複製」(私的複製)の場合には、著作物を自由に利用できる旨を定めています。

「私的利用のための複製」とはどのようなものでしょうか。著作権は、著作物を個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、著作物を使用する者が複製をできる旨を規定しています。

一定の要件を充たしている限り、私的領域における複製行為が複製権侵害とならないのは、私的な領域において行われる限り複製行為が権利者に及ぼす影響は小さいと思われ、また、法が私的な領域に入り込むのはなるべく避けるべきだからです。

著作権法

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。(以下略)

私的複製が許されるのは「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」における使用を目的とする場合に限られます。これに個人が該当するのは明らかですが、集団であってもメンバー相互間に強い個人的結合関係があるような場合、すなわち、家庭に準ずる程度の人数で、かつ、「特定」された集団は、これに該当するといわれています。

また、「使用する者」が複製をすることが必要ですので、業者に頼んで複製をやらせるような場合はこれに含まれません。例えば、書店における撮影ではないですが、書籍の電子化について“自炊”代行業者のスキャン行為は、私的複製としての適法性を備えないとされています。

2.3 書籍の撮影は私的複製か

書籍の紙面を撮影する行為が私的複製行為にあたる場合には、著作権を侵害しません

例えば、立ち読みした雑誌の情報をメモすることを目的として書店で雑誌などの誌面を撮影する行為は、個人的な使用を目的として、使用する人が書籍の紙面を撮影する行為といえますので「私的利用のための複製」に該当し著作権を侵害しない場合が多いでしょう。

他方で、多人数で共有する目的や、会社の業務に使用する目的でスマホで書籍を撮影するような場合は、私的複製には該当せず、複製権を侵害するため違法です。

なお、私的複製として許されるのは複製行為だけであり、撮影した写真をブログにアップロードすると公衆送信権を、プレゼンテーションスライドに表示すると上映権を侵害する可能性がありますし、そもそもそのような目的で撮影をしている場合には、私的複製に該当しません。

3.複製権侵害にならないのなら、書籍の撮影は自由か?

少なくとも個人が私的に使用する目的で、書籍のページを撮影する行為は、複製権を侵害しません。

しかし、複製権を侵害しないからといって、書店やコンビニエンスストアで雑誌などを自由に撮影してもよいわけではありません。

いうまでもなく、そのような行為はモラルやエチケットに反します。書店やコンビニエンスストアに陳列されている書籍は、販売のために陳列されているものだからです。

雑誌は販売のために陳列されています

また、書店やコンビニエンスストアでは、そのような行為を禁止していることがほとんどです。書店の入り口や書籍の棚などに、書籍をスマホで撮影することを禁止するような張り紙があったり、撮影禁止、デジタル万引き禁止というような表示がされていたりします。

これを無視して撮影をすると、書店等の管理権を侵害することになり、侵害者は民事上の責任を負う可能性があります

さらに、撮影目的で書店等に立ち入るような場合には、店舗の管理権者の意思に反して立ち入ることになりますので、建造物侵入罪(刑法130条)に該当する可能性はあり得るでしょう。

笠原 基広