【概要】ゲーム実況動画の著作権者について

近年、YouTube等では、ゲーム実況が人気コンテンツとなっています。

PlayStation、Wiiなどの家庭用テレビゲーム機や、ゲームセンターに設置されている業務用テレビゲーム機で、ゲームソフトをプレイすると、影像と音声を含む動画(この記事では「プレイ動画」といいます)が画面に表示されます。プレイ動画は、著作権法上は「映画の著作物」として取り扱われることが多いです。

プレイ動画には著作権が発生することが多いので、これを著作権者に無断で複製、翻案などすることは、原則的にはできません

ゲーム機によって表示されるプレイ動画を録画・編集して動画(この記事では「実況動画」といいます)を作成する際に、プレイ動画とは異なる新たな創作的表現を付与している場合には、実況動画も二次的著作物としての保護を受け、作成者は新たに付与した創作的部分についての著作権者となります。

他方で、プレイ動画をそのまま録画した場合は単なる複製ですので二次著作物とはならず、録画した人に著作権は生じません。

ただし、実況動画が二次的著作物になるとしても、作成する際にプレイ動画を複製、翻案することになりますので、原則的には作成やアップロードには著作権者(ゲーム会社等)の許諾が必要です。ゲーム会社によって、実況動画の作成を推奨している会社、黙認している会社、禁止している会社などさまざまですので、よく確認しないと著作権侵害になりかねません。

詳細は以下をご覧下さい。

プレイ動画の著作物性

ゲームの種類にもよりますが、ゲームソフトをプレイすると、影像、効果音、音楽等が再生されます。これが「映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され」ている場合には、映画の著作物となります(著作権法2条3項)。過去の裁判例では、ストーリー性のあるゲームそのものやその映像部分を映画の著作物であると判断したものが多いです。

他方で、ストーリー性がなく動きの少ないゲーム(シミュレーションゲームや、将棋・チェスなどのボードゲームをテレビゲームとしたもの)は、画面構成や音楽等に著作物性が認められることはあるとしても、映画の著作物ではないといえます。シミュレーションゲームを、ユーザーの思考の積重ねに主眼があり、ディスプレイ上の影像の流れを楽しむことを主眼とするものでないとして、映画の著作物とはいえないとした裁判例があります(東高判平成11年3月18日・平成7(ネ)3344・三国志3事件)。

プレイヤーの操作によるキャラクターの動きや選択によって、ゲームで再生される影像などは異なってきますが、プレイヤーの操作によって創作的表現を付与できない限り、プレイ動画の著作権者はゲーム製作会社等になります(この記事では原著作権者といいます)。

例えば、キャラクターを自由自在に操り、創作性のある動き(踊りなど)をさせた場合は、プレイヤーが二次的著作物の著作権者となる可能性はありますが、通常のゲームにおけるプレイヤーの動きはゲーム製作者が予定しているものとならざるを得ません。すなわち、キャラクターの一挙手一投足も全てゲーム会社が作成したものであり、これをプレイヤーが場面に応じて選択しているにすぎませんので、プレイヤーの操作のみで創作性を付与するのは、不可能ではないですがハードルが高いです。

いずれにせよ、ゲームのプレイ動画は著作物といえることが多いでしょう。

実況動画の二次的著作物性

プレイ動画をキャプチャしたりビデオ撮影して作成された実況動画は、プレイ動画の複製又は翻案となります。よって、作成やネットへのアップロードは、原則的には原著作権者の許諾が必要です。ただし、適法な私的複製や引用となる場合には、許諾は不要です。

プレイ動画に、プレイヤーの姿や声、字幕による解説などを追加したりして、一手間加えて実況動画を作成することがあります。プレイ動画にナレーションの追加などをすることによって、実況動画にプレイ動画とは異なる新たな創作的表現が付与されている場合には、そのような実況動画はプレイ動画の二次的著作物となり、新たに付与された創作的部分について作成者等が著作権を有することになります。

もっとも、二次的著作物であっても原著作物を翻案することに変わりはないので、その作成、ネットへのアップロード等には原著作権者の許諾が必要です。

ゲーム実況動画については、原著作権者の対応がまちまちです。ゲーム実況動画の作成を推奨する会社、黙認する会社、禁止する会社など様々ですので、ゲーム実況をする場合には原著作権者の対応について確認しておかないと、著作権侵害に問われかねません。

裁判例 東地判令和3年4月23日・令和2(ワ)5914

ゲームの動画の二次的著作物性を判断した裁判例をご紹介します。

原告は、ゲームショウにてプレイされた業務用ゲームの影像と音が、会場内のプロジェクターで表示されているのを手持ちの撮影機材で撮影し、これを編集して動画を作成した上でネットにアップロードしました。なお、ゲームショウ会場で表示された動画を本件プレイ動画、原告がアップロードした動画を本件原告動画といいます。

この本件原告動画が、原告に無断で一部改変されニコニコ動画にアップロードされていたため、原告はニコニコ動画の運営者である株式会社ドワンゴより、投稿者のIPアドレスやアカウント情報の情報開示を受けました。

そこで、原告は、インターネットプロバイダである被告に対し、投稿者に損害賠償等を請求することを目的として、プロバイダ責任制限法に基づいて当該IPアドレスの発信者情報の開示を求めました。

裁判所は、本件原告動画が二次的著作物として著作物性を有するためには、本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されていることを要するとしました。

これを前提に、本件原告動画には、原告の個性が表れるような創作的表現が付与されているとはいえないとして、原告の請求を棄却しました。

原告は、本件原告動画は①本件プレイ動画を撮影した動画から、本件ゲームを紹介する記事として適した部分を抽出して、不要な部分を削り、②当時のインターネット通信環境下で公開するのに適した画素数に調整し、③音声部分のノイズカットを施すなどの編集を行って作成したものとして、創作性を有する旨主張しました。

しかし、裁判所は、①は本件プレイ動画の忠実な再現の域を出るものではなく、原告の個性の発現は認められない、②は本件プレイ動画の表現自体を実質的に変更するものではない、③は本件プレイ動画をできる限り忠実に再現する行為の域を出るものではないとして、いずれも創作的表現を付与するものではないとして、本件原告動画の二次的著作物性を否定しました。

「二次的著作物」については、「著作物を」「翻案することにより創作した著作物」であると定義されており(著作権法2条1項11号)、二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じる(最高裁判所平成4年(オ)第1443号同9年7月17日第一小法廷判決・民集51巻6号2714頁参照)。そうすると、本件原告動画が本件プレイ動画の二次的著作物として著作物性を有するといえるためには、本件プレイ動画の具体的表現に修正、増減、変更等を加えることにより、本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されていることを要するものと解するのが相当である。(略)

本件原告動画は、本件ゲームショーでの本件ゲームのプレイ状況を取材する一環として、本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像すなわち本件プレイ動画が映し出された会場内のプロジェクターの画面を撮影して、動画として保存し、これをもとに作成されたものである。このような本件原告動画の作成状況に照らすと、上記①のように、本件プレイ動画に加えて機材が映り込み、また、その余の画面の部分が黒一色となるという点や、上記②のように、来場者の話し声が入り、フラッシュによって映像が白くなることがあるという点は、本件原告動画を作成する者の意図とは関係なく加わったものであるといえる。そうすると、上記の①及び②の点は、いずれも、作成者の個性が現れたものとはいえないから、本件プレイ動画に対し、その創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められず、二次的著作物としての創作性を生じさせるような事情とはならないというべきである。東地判令和3年4月23日・令和2(ワ)5914

原告は、相応の手間をかけて本件原告動画を作成しています。しかし、著作権は作成者の汗(労力)を保護するものではありませんので、作成に要した労力や費用は著作物性を判断する事情とはなりませんでした。

笠原 基広