著作物利用許諾と著作権譲渡
イラストや文章といった著作物の作成を外部に委託する際や、アニメや楽曲など既存の著作物を利用したい場合には、著作権の取扱いについて取り決めをすることになります。具体的には、業務委託契約内に著作権に関する条項を設けたり、著作権譲渡契約・著作物利用許諾契約などを締結したりします。
著作権の取扱について定める契約には大別して2種類あります。著作物の利用許諾契約(ライセンス契約)と、著作権の譲渡契約です。
そこで今回は、著作物利用許諾契と、著作権譲渡契約とを比較してみました。
なお、著作権関連の契約条項例はこちらをご覧ください。文化庁による素晴らしいマニュアルです。著作権契約について深く知りたい方は、本記事よりこちらを読むのをお勧めします。
著作物利用許諾契約の特徴
著作物利用許諾契約とは
著作物利用許諾契約とは、一定の条件で著作物を相手方(ライセンシー)に利用させることを許諾する契約です。
外部委託によって作成された成果物の著作権を作成者に留保したい場合や、既存の著作物を利用したい場合には、著作物の利用許諾契約(ライセンス契約)を締結するのが一般的です。
一般条項や、著作権譲渡契約と共通の条項を除けば、著作物利用許諾契約の主な条件としては次のようなものが挙げられます。
- 利用態様(印刷出版、映像化、商品化、翻訳、ノベライズなど)
- 利用範囲(非独占的(通常)利用権か、独占的利用権か)
- 利用対価(ランニングロイヤリティー、一時金)
- 利用期間(1年間、自動更新、永久など)
利用態様
著作物利用許諾契約では、どのような利用を許諾するか、利用の態様、範囲、条件等を契約中であらかじめ定めることになります。著作物の利用の態様は様々であり、マンガを例に挙げると印刷出版、映像化、配信、商品化、翻訳、ノベライズなど様々な利用態様が考えられます。著作権法上の支分権毎の利用だけではなく、複数の支分権が必要となる具体的な行為(例えばマンガのミュージカル化)を指定した条件とすることもあります。
さらに、利用の地理的範囲(日本国内か、外国も含めるか)や、著作物に依拠した新たな著作物の作成・利用を許すか否か、といったような条件を規定することもあります。
当然ですが、契約に規定された利用態様を超えて、著作物を利用することはできません。例えば、マンガの出版のみが許諾されている契約で、マンガのグッズを作成したり、ミュージカルの興行を行う事はできません。
独占性
著作物を独占的に利用できるとする独占的著作物利用許諾契約が締結されている場合、独占的利用権者以外は著作物を利用できません。非独占的(通常)著作物利用許諾契約の場合は、複数のライセンシーが存在することになります。
独占的著作物利用許諾契約が締結されている場合であっても、特許の専用実施権と異なり、物権的な効力はありません。よって、独占的ライセンシーは第三者の著作権侵害に対して損害賠償請求ができるに留まり、利用差止めはできないといわれています。非独占的ライセンシーの場合はどちらもできませんので、契約にそのような場合の著作権者の対応義務、例えば、第三者の著作権侵害を覚知した場合の差止め義務等を定めておくことがあります。
利用対価
著作物利用許諾契約の場合は、対価をランニングロイヤリティーで定めることが多いですが、一時金で定めることがないわけではありません。
例えば、印刷出版を許諾した場合には、部数に応じたランニングロイヤリティー、すなわち印税を得る場合と、買い切り(買いきりと言っても必ずしも著作権は譲渡されません)とする場合などがあります。著作権譲渡の場合にはランニングロイヤリティーとすることはごく希です。
利用期間
著作物利用許諾契約では利用期間の定めがあり、また、契約が有効な期間のみ著作物の利用が可能です。利用期間は一年かつ自動更新であったり、永久であったり、自由に定めることができます。利用期間が永久の場合、著作権譲渡と効果が類似してきますが、何らかの理由で契約が終了ことはあり得ますので、必ずしも著作権譲渡と同一とまではいえません。
その他の特徴
著作物利用許諾契約の場合、特に規定がなければ第三者に対する利用許諾(再利用許諾)はできません。
たとえ永久ライセンス契約であっても、契約違背の際には契約解除をできるようにしておくことが多いですので、著作権者側である程度ライセンシーの利用行為をコントロールできることになります。
著作物利用許諾契約は、譲渡契約と比較すると、著作権者側、クリエーター側が有利なことが多く、クリエーター側の立場が有利な場合(人気マンガ、楽曲など)に締結されることが多いといえます。
著作権譲渡契約の特徴
業務委託契約等の成果物や、既存の作品に関する著作物に関する著作権の一部又は全部を譲渡する契約です。著作権の全部を譲渡した場合には権利関係がクリアになりますので、委託業務の発注者などにとっては成果物を使いやすくなります。一方で、クリエータは著作財産権をすべて移転してしまいますので、譲渡後は著作物の利用態様のコントロールができなくなります(著作者人格権に関するものを除く)。また、基本的にはクリエータ自身も著作物を利用できなくなります。
著作権譲渡契約特有の主な条件としては、次のようなものが挙げられます。
- 譲渡する権利内容
- 対価
- 譲渡登録
譲渡する権利内容
著作(財産)権はその全てを譲渡することも可能ですし、著作物利用契約と同様に一部の著作権(支分権)のみを譲渡することも可能です。例えば、マンガの著作物について、複製権、譲渡権を譲渡しながら公衆送信権を譲渡しない場合には、譲受人紙の書籍や有体物に格納した電子書籍(例えば辞書データを辞書端末に格納するような場合)はできますが、ネットで配信する電子書籍の出版はできないことになります。また、翻案権を譲受けていない場合には翻訳書の出版はできないことになります。
また、特別に記載をされていない限り翻案権(27条)と二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(28条)は譲渡されません(61条2項)。すなわち、契約書に全ての著作権を譲渡する旨の条項があったとしても、27条、28条の権利譲渡が特掲されていない場合には、二次的著作物を作成したり、翻案・翻訳したりすることができなくなってしまいます。著作権譲渡契約には「甲は乙に関し、●●の全ての著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む)を譲渡し、乙はこれを譲り受ける」などと特掲する必要があります。一方で、著作物利用許諾契約の場合には翻案は利用許諾の対象となりますので、通常は翻案行為を具体的に契約書に特定することになります。
なお、著作権の譲渡をすると著作者であっても著作物の利用ができなくなります。著作者には著作物の利用権を留保しておく契約もあり得ます。
対価
著作権譲渡の場合にはランニングロイヤリティー的な取り決めをすることはほぼありません。レベニューシェア的な文脈の契約はあり得るかもしれませんが、著作権譲渡の対価としてのレベニューシェアなのかは議論のあるところでしょう。
一般的な対価は一時金、すなわち譲渡代金です。
著作権移転登録
著作権譲渡が生じた場合には、著作権移転の登録が可能となります。しかし、登録の効果は限定的です。
その他の特徴
著作権の譲受人は、ライセンシーと異なり、著作権を侵害する第三者に対して差止め請求ができますし、譲り受けた著作権を転売することもできます。もちろん、第三者に対してライセンスすることも可能です。これに対し、著作物利用許諾契約の場合には差止め請求権がなく、第三者に利用許諾するには著作権者の許諾(再利用権の設定)が必要となります。
著作権譲渡契約は、権利関係がわかりやすくクリアになりますので、外注の成果物、イラスト、文章の原稿、プログラムなどの著作権を全て買い取るような契約に利用されることが多いです。一方で、著作者側のコントロールができなくなってしまいますので、著作者側の立場が強い場合には利用されにくいです。
著作者人格権の処理
著作者人格権は一身専属の権利であり、譲渡することができません(59条)。著作者人格権には公表権(18条)、氏名表示権(19条)、同一性保持権(20条)が含まれますが、著作者人格権の保有者にその行使を許すと、著作権を譲渡したり著作物の利用を許諾しているにもかかわらず、ある程度は著作物の利用をコントロールできてしまいます。
例えば、キャラクターのイラストの作成を業務委託されたクリエーターが成果物の著作権を全て委託者に譲渡したような場合でも、委託者がそのイラストに基づいて別のポーズのイラストを作成したり、これを3次元化してフィギュアを作ると、同一性保持権の侵害になりかねません。また、委託者が当該キャラクターを利用した作品を公表する場合には、クリエーターは自身の氏名を表示するよう請求することができてしまいます。
そのような場合に備えて、著作権譲渡契約には、譲渡後にも著作者が著作者人格権を行使しないように定める、著作者人格権不行使特約を設けるのが一般的です。しかし、法で著作者人格権の譲渡が禁止されていながらその行使を契約で制限することができるか否かには諸説あり、いくつか裁判例はあるものの決め手はありません。少なくとも著作者人格権を行使した著作者に対し契約違背を主張して損害賠償請求をできるような債権的な効果はあると思われますので、一定の抑止力にはなるでしょう。
一方で、著作物利用許諾契約にも、行為の態様として公表、氏名表示の態様、及び、翻案を認めるか否かを特定します。契約の条項として著作者よりこれらの行為を許諾することになりますので、その場合は著作者人格権の問題はおこりません。
表明・保証
これらの著作権に関する契約では、対象となる著作物の利用が第三者の著作権を侵害しない旨の表明・保証が付されることがあります。
一般的に特許・商標に関してはこのような表明・保証は慎重であるべきですが、著作権の場合には事情が異なります。
特許権侵害の場合には、たとえ被侵害特許権・商標権の存在を知らなくとも侵害者の過失が推定されます(特許法103条、商標法39条)。よって、先行特許や登録商標の調査が不十分な場合、侵害者は損害賠償や差止め請求をされてしまいます。
一方で、著作物の場合には、創作の際に既存の著作物への依拠をしていない限り、著作権侵害とはなりません。よって、基本的には著作者自身が気を付ければ著作権侵害をコントロールすることが可能です。要するに、基本的にはマネをしなければ大丈夫です。
特許等の場合、先行する権利の調査には多大な費用がかかり、費用をかけたとしても権利範囲の解釈次第で他人の権利を侵害する可能性があるため、非侵害に万全を期すことは困難です。著作者は基本的には自身の行為だけで万全を期すことができますので、非侵害の表明・保証をしても、特許等と比べると低リスクです。そのような事情の違いにより、著作権に関する契約では表明・保証がされやすい傾向にあります。
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