インタビュー記事
芸能人が赤裸々に私生活を語ったり、重大事件の関係者が驚くべき事実を暴露したり、各雑誌においてインタビュー記事を目にすることが多いですよね。各企業でも、商品のPRやイベントの告知、はたまた創業の苦労や奇抜な経営者の半生等について、インタビューされることがあるかもしれません。
明確な分類は難しいですが、インタビュー記事というのは、ライターと取材対象者が十分な対話をし、記事の大部分がそれを基に執筆されているものをいうでしょう。単発的なアンケートに答えたり、記事の一部分に関わる情報の伝達に過ぎない場合には、そもそもインタビュー記事とは呼ばれないように思われます。
そうすると、インタビュー記事は、インタビューされた人の関与の度合いが通常の記事に比べて大きいことになりますね。その人が考えたり伝えたりしたことが記事の中核をなしているのだから、記事そのものを執筆したのはライターだとしても、インタビューされた人が(も)著作者になってもおかしくないと思うのではないでしょうか。
著作者とは
著作権法上の規定
「著作者」とは、著作権法第2条第2号において「著作物を創作する者」であると定義されています。「著作者」に当たれば、著作者人格権と著作権を享有することになります(第17条第1項)。
なお、インタビュー記事については、職務著作性・共同著作物性・二次的著作物性なども重要な論点となりますが、今回は、インタビューされた人が著作者として認められるのかについてのみご説明します。
「創作する者」の意義
著作者の認定は、まずは対象が「著作物」に該当することが前提となります。次に、それについて「創作する者」は誰なのかが問題となります。
「創作する者」とは、事実行為として著作物の創作行為をした者をいうと解されています。条文の文言そのままですが、ポイントは、「創作」行為を実際にした人だということです。著作物の定義の1つである「創作」性(第2条第1項第1号)とは、何らかの個性が表現されていることをいいます。つまり、事実として(現実にというほどの意味です)何らかの個性を表現して著作物をつくった者が「著作者」に該当するといってよいと思います。
この解釈論からすると、アイデアや素材を提供したに過ぎない者は、表現行為をしていない以上、「著作者」に該当しないことになります。
インタビューされた人はどう評価されるか
事実として何らかの個性の表現行為をしたといえるかは、著作物はそれぞれ作成過程が異なることから、問題となる著作物によって判断の仕方も変わりますので、一般的な基準を定立することは困難です。もっとも、インタビュー記事におけるインタビューされた人に関しては、記事の執筆はしていないが内容を与えたという点に特徴があるので、表現の素材を提供したに過ぎないのかどうかについて、焦点が絞られます。
この点を判断した「SMAP大研究事件」と呼ばれる先例があります。この事件で裁判所は、インタビューされた人は、記事の編集作業に関与しなければ、記事の素材を提供したに過ぎないといえ、著作者に該当しないと判断しています。
「SMAP大研究」事件(東京地判平成10年10月29日)
事案の概要
原告は、「an・an」等の雑誌の出版社と人気アイドルグループであったSMAPのメンバーです。被告は『SMAP大研究』という書籍の出版社とその社長です。
原告らは、自分たちが発行した雑誌上のSMAPメンバーのインタビュー記事を、被告が同書籍において許諾なく違法に利用したとして、著作権侵害に基づき、その出版差止めや損害賠償等を求めました。
この訴訟では、原告であるインタビューされたSMAPのメンバー各個人が、当該記事の著作者にあたるのかが争点の1つとなりました。
判示内容
東京地裁は、原告らが執筆したインタビュー記事が著作物であることを認定した上で、インタビューされた者の著作者性について、「口述した言葉を逐語的にそのまま文書化した場合や、口述内容に基づいて作成された原稿を口述者が閲読し表現を加除訂正して文書を完成させた場合など、文書としての表現の作成に口述者が創作的に関与したといえる場合には、口述者が単独又は文書執筆者と共同で当該文書の著作者になるものと解すべきである」と判示しました。
すなわち、記事に「創作的に関与した」といえる場合に著作者になるとし、その具体例として、口述の逐語的文書化の場合と、口述者による原稿の加除訂正の場合を挙げています。
続いて、著作者にならない場合として、「あらかじめ用意された質問に口述者が回答した内容が執筆者側の企画、方針等に応じて取捨選択され、執筆者により更に表現上の加除訂正等が加えられて文書が作成され、その過程において口述者が手を加えていない場合には、口述者は、文書表現の作成に創作的に関与したということはできず、単に文書作成のための素材を提供したにとどまるものであるから、文書の著作者とはならないと解すべき」だと論じました。
この判示部分は、「創作的に関与した」とはいえない場合として、執筆者による取捨選択と加除訂正の過程に口述者が関与していない場合を示しており、上記の「創作的に関与した」といえる場合の裏から論じているものだといえます。
そして、SMAPの各メンバーらは、「発言がそのまま文書化されることを予定してインタビューに応じたり、記事の原稿を閲読してその内容、表現に加除訂正を加えたことをうかがわせる証拠はなく、かえって、前記認定の原告記事の作成経過からすれば、原告個人らに対するインタビューは、原告出版社らの企画に沿った原告記事を作成するに際して、素材収集のために行われたにすぎないものと認められる」ことを認定し、具体的な作成経緯に照らして、「創作的に関与した」とはいえない(記事の素材を提供したに過ぎない)ものとして、SMAP各個人は著作者ではないと判断しました。(なお、結論としては原告側が勝訴しており、出版差止めと合計466万円の損害賠償が認められています)
決め手は編集作業への関与の有無
この事件をあえて一言でまとめれば、「SMAPの人らは喋っただけで、書くネタをあげただけなので、著作者じゃないっすね」ということでしょう。
もっとも、インタビューされた人が「創作的に関与した」といえる場合があることを示したことにも重要な意義があります。それは、①逐語的(喋ったとおり)に記事化された場合、②原稿を加除訂正(取捨選択も含んでよいでしょう)した場合です。要するに、編集作業があったか、それに関与したかがポイントになると考えたようです。①の場合のような記事はほとんどないでしょうから、実際の決め手としては、編集作業への関与の有無です。
裁判所は、編集こそが、記事において個性を発揮する表現行為の要であると理解しているようですね。やはり記事というものは、ライターが素材をどのようにまとめるかで仕上がりが異なるといえますので、編集作業への関与に着目することは、支持できるのではないでしょうか。少なくとも、料理に例えれば、材料と完成品の間の調理が重要であることは自明であるといえます。
「SMAP大研究事件」は、インタビューされた人がインタビュー記事の著作者になるのかという問題について一定の指針を示した先例として、極めて重要なものです。そうしますと、SMAPは2016年をもって解散してしまいましたが、ファンの心に残りつづけるだけでなく、著作権法の世界でも重要な論点の主人公として大いに語り継がれていかれていくことでしょう。
- 【セミナーアーカイブ】企業が陥る著作権侵害と対応策解説セミナー - 2024年11月17日
- 映画、アニメの製作委員会契約とは。その特徴と条項例について - 2024年11月16日
- 【DLレポート】特許権侵害警告書雛形 - 2024年7月17日