cssファイルの著作権法上の保護

ウェブデザイナーは多大な労力をかけてHTMLファイル(ないしそのテンプレート)やcssファイルを作成します。

このようなファイルは著作権法で保護されるでしょうか?

本記事では、cssの意味と、cssファイルの著作権法上の保護について取り上げました。

cssとは

css(Cascading Style Sheets、カスケーディング・スタイル・シート)とは、HTMLと組み合わせて、ウェブページの要素をどのように修飾するかに関する記述を行う仕様です。HTMLタグにも要素を修飾する機能はありますが、HTMLタグは要素の意味を指定するにとどめ、細かい修飾はcssに任せるというのがHTMLの本来の思想にマッチしていることや、HTMLタグよりも細かい指定ができることから、近年ではHTMLをcssによって修飾するのが主流となっています。

今日、ウェブページがHTMLのタグのみで作成されることがないわけでもないですが、HTMLのみでは表現に限界があるため、大抵のウェブページはcssを用いて作成されています。もちろん知財FAQもHTMLとcssを用いています。

ちなみにHTMLのみで作成されたウェブページとしては、阿部 寛さんのホームページが有名ですね。

cssの記述例

ウェブページの文字を修飾するには、HTMLソースコード内で文字に対する要素にクラスを指定して、cssにそのクラスの修飾の内容を記載します。ブラウザはHTMLソースコード内に指定されているクラスの内容(以下では太字、赤字)を、別途ダウンロードしておいたcssファイルから見つけて、記述のとおりに修飾してレンダリングします。

以下のコードでは、<div>ブロックレベル要素タグで囲まれた「太字、赤字にします」という文字列に、「futoji-akaji」というクラスを指定しています。クラス「futoji-akaji」の内容はcssに「color:red; font-weight:bold;」すなわち、赤色・太字にする旨が記述されています。これをHTMLファイルとは異なるcssファイル(大抵はサイト全体に共通です)に別途記述します。

<div class="futoji-akaji">太字、赤字にします</div>
.futoji-akaji{     color:red;      font-weight:bold;}
太字、赤字にします

cssのまるごとコピーは著作権侵害か

cssはプログラムか

ウェブデザインのキモとなるcssですが、ウェブサイト全体に同一のcssを適用するために、これをまとめて1つ(ないし少数)のファイルに記載することが多いです。cssファイルはダウンロードが容易で、複製、盗用が簡単にできてしまいます。

それでは、他人の作成したcssファイルをまるごとコピーして盗用した場合には著作権侵害となるでしょうか。cssファイルの記述に著作権が発生しているか否かが問題となります。

著作権法において保護の客体となる著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されています(著作権法2条1項1号)。

アイデアなど表現それ自体でないものや、ありふれた表現など表現上の創作性がないものは、著作権法による保護は及びません。

では、cssが著作権で保護されるとしたら、どの類型の著作物としてでしょうか?

まず、プログラムの著作物について検討します。

著作権法上のプログラムの定義は次のとおりです。

著作権法
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

(略)

十の二 プログラム 電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。

著作権法の著作物として「プログラムの著作物」が例示されていることから、コンピュータプログラムが著作権法における著作物になり得ることに争いはありません(著作権法10条1項9号)。

著作権法
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
  一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
  二 音楽の著作物

(略)

  九 プログラムの著作物

(略)

3 第一項第九号に掲げる著作物に対するこの法律による保護は、その著作物を作成するために用いるプログラム言語、規約及び解法に及ばない。この場合において、これらの用語の意義は、次の各号に定めるところによる。
  一 プログラム言語 プログラムを表現する手段としての文字その他の記号及びその体系をいう。
  二 規約 特定のプログラムにおける前号のプログラム言語の用法についての特別の約束をいう。
  三 解法 プログラムにおける電子計算機に対する指令の組合せの方法をいう。

cssファイルの記述も、「電子計算機を機能させて」文字を太字・赤色にするというような修飾について「一の結果を得ることができるように」するものとはいえます。しかし、プログラムは「指令を組み合わせたもの」である必要があり、cssファイルに格納されているのは「指令」ではなく、指令に与えられるデータに過ぎません。

プログラムとデータの区別に関連して、IBF(インストールバッチファイル)がプログラムの著作物に当たるかが争われた事件において、裁判例は次のとおり述べています。

電子計算機によるプログラム処理に当たり、あるシステムにおけるプログラムを稼動させ一定の処理をさせるためには、そのプログラムの他、それに処理情報を与えるデータが必要であるが、システムの効率上、データを本体プログラムとは別個のファイルに記録させることがよく行われる。その場合、該ファイルは、プログラムに読み取られその結果電子計算機によって処理されるものではあるが、電子計算機に対する指令の組合せを含むものではないので、著作権法上のプログラムではない東京高裁仮処分決定抗告事件・平成4年3月31日(IBFファイル事件)

この裁判例と比較しても、ウェブページはウェブブラウザ(Google Chrome、Safari、Edgeなど)が内部の指令に基づいてcssやHTMLを読み込み、レンダリングした上で表示するものですから、cssはデータでありプログラムではないといえそうです。

データとしての著作物性

それでは、cssにはデータとしての著作物性が認められる余地があるでしょうか。

著作物といえるためには作成者の何らかの個性が表現されていればよく、創作物としての高度なものが求められるわけではありません。

そして、プログラムが利用するデータにも様々なものがあります。例えば、本稿の文章も文字データであり、このような文字データについては著作物性が認められるはずです。

しかし、cssの場合には、ある表現態様(太字、赤い色など)を適用することをブラウザに解釈させるために、一定の規則(ルール)に従って記述する必要があります。よって、コードとしての表現の幅は狭く、ほとんど工夫の余地はありません。

すなわち、cssの記述には作成者の個性を表現することは困難ですので、一般的にはcssに著作物性は認められないでしょう。

もちろんcssの機能と関係ないコメント部分に著作物性のある文章を書き込むことは可能です。そのようなcssについては、コメント部分に著作物性が認められ、これを複製などすれば著作権侵害に問われる可能性がありますが、これがcssの著作権侵害といえるかどうかは微妙なところです。

また、wordpressの場合、高速化プラグインを使用するとcssのコメント行が削除される場合が多いですので、あまり意味がないですね・・・

cssに余事記載をした例

.futoji-akaji{/* 僕のcssが無断コピーされてるだって?やれやれ。いったいぜんたい、誰が僕の精魂込めて作ったcssを無断でコピーしても許されると思ったんだ?でも、そんなことは一向に意に介しない様子で、僕の年上の彼女は、はしばみ色の瞳をまっすぐに僕に向けてゆっくりとこう言った。「あなたのcssが無断コピーされたとしても、世界が終わるわけじゃないのよ」彼女はまったくもって解ってないんだ。僕のcss。弁護士が何を言ったって、それは僕の魂の一部が形を変えて記述されたものだし、魂の一部を盗まれて黙っていられる奴なんているはずがないんだ。*/color:red; font-weight:bold;}

cssは全く保護されないのか

著作権法上の保護

上述のように、cssに著作権上の保護を求めるのは難しそうです。それでは、cssは全く保護されないのでしょうか。

wordpressのテーマのような場合には、cssを用いて個別の投稿に統一性のある画面表示をするようになっています。これが「ありふれたもの」でなければ、そのような画面表示に創作性が認められる余地は皆無ではありません。

しかし、wordpressなどのCMSのテーマの表現のバリエーションは限られており、基本的には似たものが多いはずです。よって、ありふれたものではないとして著作物性が認められるためのハードルは高く、また、仮に認められたとしても、デッドコピーに準ずるような態様の複製に対する保護に限られると思われます。

そして、そのような保護がされたとしても保護客体は画面表示です。仮に訴訟になった場合には、画面表示の類否が問題となり(GPLの問題は措くとして)、仮に類似性が認められた場合には、テーマの使用を差し止める限度でcssの使用も差し止められることになるでしょう。

なお、cssファイルの無断コピーに一般不法行為が成立するか否かについては、次の記事をご覧下さい。

笠原 基広