ポイント

映画を10分程度に短縮したり字幕を付したりして編集した「ファスト動画」の製作・アップロードは、映画の著作権者の複製権、翻案権、同一性保持権、公衆送信権などを侵害し、製作・アップロードをした者は民事・刑事上の責任を問われます。

「ファスト映画」を製作・アップロードすることにより複製権、翻案権、公衆送信権を故意に侵害すると、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処され、またはこれが併科されます。また、同一性保持権侵害は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処され、またはこれが併科されます。

侵害者が法人の場合には、行為者以外に法人も3億円以下の罰金に処されます(重罰規定)。

ファスト映画とは

「ファスト映画」とは、映画を10分程度に短縮したり、字幕を付したりして編集した動画のことをいうようです。映画のあらすじ版というところでしょうか。

先日、「ファスト映画」を制作し動画共有サイトにアップロードした人が著作権法違反で逮捕されたという報道がありました。

では、「ファスト映画」の作成・アップロードには著作権法上、どのような問題があるのでしょうか?

著作権法上の問題点

「ファスト映画」に関する著作権法上の問題点は、概ね次の3つです。

著作権法上の問題点
  • 原映画の入手・複製の問題点
  • ファスト映画作成の問題点
  • ファスト映画アップロードの問題点

それぞれの問題点について以下に検討します。

原映画の入手・複製の問題点

「ファスト映画」の元となる映画(原映画)は、DVD等から動画を抽出する(いわゆるリッピング)、違法な動画サイトからダウンロードする、適法な動画サイトからダウンロードした原映画にDRM(Digital Rights Management)等を回避するような措置をする、適法・違法な動画ストリーミングをキャプチャするなど、様々な入手ルートが考えられます。

いずれにせよ、「ファスト映画」を製作するには、著作者に無断で原映画を複製することになります。

複製権侵害

著作権法は個人的又は家庭内で他人の著作物を複製しても私的複製として著作権を侵害しない旨規定しています。しかし、そもそも「ファスト映画」を製作して公開する目的で原映画を複製する行為は、私的複製にはあたりません。よって、そのような行為は著作権者の複製権を侵害します。

複製権を侵害した場合、損害賠償といった民事上の責任を負います。また、複製権を故意に侵害した場合には「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する」という刑事罰の対象となります。

複製権侵害の刑事罰

10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する

個人的にファスト映画を作成する場合(そんな人がいるかどうかはさておき・・・)

そのような場合が現実にあるかどうかはさておき、「ファスト映画」を個人的鑑賞目的で作成することを目的として、適法に入手した動画を私的複製するのであれば、複製自体は著作権を侵害しません。

しかし、通常、適法に入手できる映画の動画ファイルにはアクセスコントロール技術、コピープロテクト技術によって著作権保護がされています。このような著作権保護手段は、著作権法上の「技術的保護手段」・「技術的利用制限手段」にあたります(著作権法1項20号、21号)。

私的複製目的であっても、「技術的保護手段」や「技術的利用制限手段」を回避して可能となった複製行為や、その結果に障害が生じないようになった複製行為をその事実を知りながら行う場合、私的複製から除外されます(30条1項2号)。よって、著作権保護手段を回避して動画を複製する行為は、私的複製の目的で行ったとしても、複製権侵害となります。

この場合、損害賠償責任といった民事的な責任を負いますが、刑事罰はありません。

詳細は、次の記事もご覧下さい。

私的複製目的であっても、違法にアップロードされた動画を、違法アップロードと知りながらダウンロードすると、複製権を侵害します。動画の複製は私的複製の範囲内で行う限り基本的には適法ですが(30条1項柱書)、違法アップロードされた動画を違法アップロードと知りながらダウンロードする場合については、私的複製の範囲からは除外されるからです(30条1項3号、4号)。

この場合、損害賠償責任といった民事上の責任を負いますし、正規版が有償で提供されていることを知っていながら行った場合「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」とされています。

詳細は、次の記事もご覧下さい。

ファスト映画作成の問題点

入手した映画をもとに「ファスト映画」を製作するには、著作権者に無断で原映画を編集することになります。

翻案権侵害

著作権者は著作物を翻案する権利を専有します(27条)。長い映画を編集して短縮したり、字幕を付したりするのは映画の翻案に該当する場合があり、映画の著作権者以外がこれを行うことはできません。よって、「ファスト映画」の製作は映画の著作権者の翻案権を侵害することがあります。

同一性保持権侵害

さらに、著作者はその著作物の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けません(20条1項)。「ファスト映画」の作成の際に、原映画を勝手に切り刻んで短縮したり、字幕を付したりする行為は、まさに著作者の意に反する変更・切除・改変といえますので、著作者の同一性保持権を侵害します。

侵害者の責任

著作権者の翻案権、著作者の同一性保持権を侵害した者は、民事上の責任と、次のような刑事上の責任を負うことになります(119条1項、2項)。

翻案権・同一性保持権侵害の刑事罰

翻案権侵害:10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する

同一性保持権侵害:5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する

ファスト映画アップロードの問題点

「ファスト映画」は映画を編集し短縮したものですので、もとの映画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されていれば、映画の著作物の二次的著作物になります。なお、そのような創作的表現が付与されていない場合には、映画の著作物の複製物になります。

なお、二次的著作物については、原著作物を翻案した者も追加された創作的部分については著作権を取得しますが、だからといって、原著作物(ここでは原映画)の著作権者に無断で翻案ができるわけではなく、第三者に対して自分の著作権を主張できるだけです。

著作権者は、著作物の複製物や翻案物を公衆送信(公衆送信可能化を含みます)する権利を専有します。よって、著作権者の許諾無く著作物を動画サイトにアップロードすることはできません。

よって、「ファスト映画」を動画サイトにアップロードすると、著作権者の「公衆送信権」(公衆送信可能化権)を侵害します。

公衆送信権を侵害した者は、損害賠償責任といった民事上の責任と、次のような刑事上の責任を負います。

公衆送信権侵害の刑事罰

公衆送信権侵害:10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する

ファスト映画は原映画の「引用」にあたるか

なお、「ファスト映画」に映画の紹介をする目的があるのは否めません。よって、「ファスト映画」が適法な引用といえるかが一応は問題となります。

引用が適法といえるためには、次のような引用の要件を充たすことが必要です。

引用の要件
  • 公表された著作物であること
  • 公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲であること
  • 区別が明確であること
  • 主従関係が明確であること
  • 出典を明示していること
  • 著作者人格権を侵害しないこと

しかし、原映画を短縮等して自身のコンテンツとしてアップロードしているわけですから、自己の著作物部分が「主」で引用部分である原映画が「従」とは評価できません。また、映画を編集してあらすじを短縮することは、引用の公正な慣行に合致しているとも、目的上正当な範囲内ともいえません。

さらに、ひとまとまりの著作物である映画の著作物を短縮等して、字幕等を付している場合、著作者人格権を侵害することになります。

よって、あくまでもケースバイケースではありますが、「ファスト映画」が正当な引用と認められる可能性は低いでしょう。

ファスト動画の作成・公開は著作権法違反

上述のとおり、「ファスト映画」の作成・公開は、複製権、翻案権、公衆送信権を侵害するため、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処され、またはこれが併科されます。

なお、侵害者が法人などの場合には行為者に上記の刑事罰が科され、法人にも三億円以下の罰金刑が科されます(両罰規定、著作者人格権侵害を除きます)。

これらは非親告罪ですので、著作権者の告訴がなくとも公訴提起されます。