ポイント

著作物を創作した者、すなわち著作者(著作権法2条1項2号)は、著作権(著作財産権、著作者人格権)を原始的に取得します。著作権者、すなわち著作者又は著作者から著作(財産)権を譲り受けた者は、著作権を侵害する者に対し、差止請求権(112条)、損害賠償請求権(114条)を有します。

しかし、著作者となるには、創作行為に実質的に関与していなければなりません。

論文について、その骨子を提供したのみで、具体的な表現に関与していない者は、共同著作者とはならないとする近時の裁判例をご紹介します。

著作者とその権利

著作者とは、著作物を創作する者をいいます(2条1項2号)。著作物の著作者は、著作財産権、著作者人格権を取得します。著作権を取得するためには著作物を創作するのみでよく、届出や認可等の一切の手続きは不要です。

著作財産権は譲渡可能ですので、著作権を著作者から譲り受けた者は著作権者になります。ただし、著作者人格権は人格的な権利ですので著作者の一身に専属し、他人に対し譲渡をすることができません(59条)。

著作権法

第六十一条 著作権は、その全部又は一部を譲渡することができる。

 著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。

著作権者、すなわち著作者や、著作者から著作権を譲り受けた者は、著作権を侵害する者に対し、差止請求権(112条)、損害賠償請求権(114条)を有します。

このように、著作者は創作と同時に強力な権利を取得しますので、著作者が誰であるかは重大事です。

著作権者の認定

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したもの(2条1項1号)ですから、そのような創作的な表現に実質的に関与した者が著作者となります。

また、著作物に著作者として表示されている者は、その著作物の著作者と推定されます(14条)

著作権法

第十四条 著作物の原作品に、又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に、その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号、筆名、略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は、その著作物の著作者と推定する

しかし、これはいわゆる「法律上の推定」にすぎません。法律上の推定は、前提となる事実(ここでは氏名等が著作者名として通常の方法により表示されていること)がある場合に、法令の規定(ここでは著作権法14条の規定)によって、推定事実(ここでは、著作物の著作者であること)が推定されることです。推定事実の存在についての証明責任が転換されるにすぎませんので、相手方が推定事実の不存在を立証することにより、推定を覆滅することができます。

よって、著作権者として別の者の氏名が表示されている場合であっても、真の著作者が自己が著作者である旨を立証することで、推定の覆滅が可能です。

どのような行為をもって、著作的な表現に関与したことになるかは、著作物の種類や、個別の事案によって異なる実質的な判断になります。特許法における「発明者」の認定と同様、著作者の認定については、トラブルが絶えません。

東地判令和3年6月11日・平成31(ワ)10623

それでは、論文について、その中核となるアイデアを骨子として記載した者と、これを論文として仕上げた者では、どちらが著作者となるのでしょうか。

著作権法は「アイデア」を保護せず、創作的な「表現」を保護するという伝統的な考え方によれば、著作者は具体的な表現を加えて論文を仕上げた者のようにも思えます。しかし、論文は内容が重要であり、その発想等に関与していない者を著作者とするのは、酷なようにも思えます。

参考となる裁判例をご紹介します。

事案の概要

この事件は、パワーポイント等で作成した資料を用いて学会発表を行った被告が、発表内容を論文にする際に、原告及びその友人C(以下、原告ら)に原稿執筆への協力を依頼し論文を完成させ発表したところ、原告らが著作者であることを主張し、被告に対し著作権侵害に基づく損害賠償等を請求したものです。

被告は、論文作成にあたり時間がなく、かつ論文を英語で作成する必要があったことから、英語ネイティブである原告らに協力を依頼したものです。そして、この論文は原告やCの専門分野におけるものではなく、その執筆はその経済的利益やキャリアにかかわるものではありませんでした。

原告は論文の骨子を作成し、ネットの共有フォルダでこれを原告らと共有し、この骨子を基に原告らが論文を執筆しました。被告は最後に加除訂正をし、被告名で論文を発表しました。

原告と被告は論文作成当時は夫婦であり、夫婦関係を解消してから、本件訴訟になっています。

著作権者は誰か

本件では論文(本件著作物)の著作権者が誰であるかが争点となっています。裁判所はひとまず、本件著作物に被告氏名が著作権者として表示されているから、被告が著作権者と推定されると認定しています。

その上で、本件骨子がA4サイズ3ページであったのに対し、本件著作物が14ページであったこと、両者の一致する部分はごくわずかであることなどを理由に、原告らが本件骨子に創作的な表現を付加しこれを修正、変更したことにより、本件骨子の表現上の本質的な特徴の同一性が失われているというべきであり、被告の思想又は感情が本件骨子を介して本件著作物に創作的に表現されたと認めることは困難であるとしています。

また、本件著作物の作成における客観的な行為をみても、被告は原告らに具体的な指示をしたとは認められないとして、原告らが創作的表現を最終的に確定させる行為を行ったとしました。

よって、本件著作物には被告の思想又は感情が創作的に表現されたとは認められないというべきであるから、被告が著作者であるとする推定は覆滅され、原告とCが共同著作者であると認定しています。

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本件著作物は、本件骨子とタイトルや複数の見出しが同一であり、本文の記載の一部が一致するものの、本件骨子の4倍強の分量に至るまで加筆がされており、このうち本文の記載が一致する部分は1頁の約5分の1相当とごくわずかであるといえる。そうすると、原告及びCが、本件骨子に創作的な表現を付加し、これを修正、変更等したことにより、本件著作物においては、本件骨子の表現上の本質的な特徴の同一性が失われているというべきであり、被告の思想又は感情が本件骨子を介して本件著作物に創作的に表現されたと認めることは困難である。(中略)

本件著作物が完成するまでに、被告がGoogleドキュメントのクラウド上に保存した本件骨子のデータファイルの編集作業を行ったことや、原告及びCに対して本件著作物の表現について具体的に指示したことを認めるに足りる証拠はない。(中略)

本件著作物は、その作成に原告、被告及びCといった複数の者が関与したものといえるが、その作成過程における客観的な行為を検討すれば、原告及びCが創作的表現を最終的に確定させる行為を行ったものということができる。したがって、本件著作物は、原告及びCの思想又は感情が創作的に表現されたものであり、被告の思想又は感情が創作的に表現されたとは認められないというべきであるから、本件著作物の著作者に関する前記アの推定は覆滅されるというほかはない。

引用元 : 東地判令和3年6月11日・平成31(ワ)10623

被告の行為は著作権侵害か

しかし、この依頼内容からすると、被告は発表を前提として原告らに論文作成を依頼したといえます。よって、本件著作物の著作者である原告らは被告に対し、複製や、氏名非表示に関する許諾をしていたとして、著作権侵害は認められませんでした。

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これらによると、原告及びCは、被告作成の論文としてIAFORに対して提出され、被告のみの作成名義で本件ウェブサイト内に掲載されることを前提として、被告がACSETで発表した内容を英語でまとめた本件著作物を作成したものであり、原告の氏名を著作者名として表示することなく公衆

に提示されることを認識しつつ、被告のためにこれを作成したものというべきである。したがって、本件著作物の著作者である原告及びCは、被告に対し、被告が本件著作物を複製することを許諾し、当該複製物の公衆への提示に際し、原告の氏名を著作者名として表示しないことを合意したと認めるのが相当である(著作権法65条2項、63条1項、64条1項)。

引用元 : 東地判令和3年6月11日・平成31(ワ)10623

著作権者としての行為とは

本件裁判例では、骨子と論文の一致点が少なかったこと、分量的にも骨子より論文が圧倒的に多かったこと、などを基に、論文を現実に執筆した原告らを著作権者と認定しています。

しかし、現実に原告は口頭での発表を行っているぐらいですから、論文の内容となる発想はすでに固まっていたでしょう。判決文は、被告が「原告及びCに対して本件著作物の表現について具体的に指示したことを認めるに足りる証拠はない」という微妙な表現になっていますが、原告と被告とは夫婦だったのであり、論文は被告のアイデアを反映したものであったものであったとしてもおかしくはありません。

本件は、従来の「著作権法はアイデアを保護しない」という原則どおりに判断された事案といえますが、他方で、5年前の平成28年における夫婦間のコミュニケーション内容を立証するのはなかなかハードルが高いですよね。結果的には著作権侵害が認められなかったとはいえ、考えさせられる事案でもあります。