官公庁では膨大な量の文書が作成されていますが、その財源はいうまでもなく税金です。それでは、納税者であればこのような文書を自由に利用する権利があるのでしょうか?

今回は官公庁の作成した著作物の利用について取り上げました。

1 著作権の及ばない官公庁の著作物とは

1.1 著作権の及ばない著作物がある

誰が創作したかを問わず、著作物には著作権が発生するのが大原則です。

しかし、官公庁の作成する文書は、国民に何かを伝達したり、文書自体を国民に自由に利用させることを目的とするものがあります。そのような文書に著作権を認め、その利用を著作権者に独占させるのは適当とはいえません。

そこで著作権法は、官公庁が作成する一定の文書は著作権の目的にならないと規定しています(著作権法13条)。

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著作権法

第十三条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利の目的となることができない。

一 憲法その他の法令

二 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの

三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの

四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

1.2 著作権の及ばない著作物の種類

官公庁の作成した著作物のうち、著作権の目的とならないのは次のようなものです。

著作権の目的とならない著作物
  • 憲法、法令
  • 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
  • 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
  • 上記に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

よって、納税者であろうとなかろうと、法律や判決などは自由に利用することができます。知財FAQも判決を自由に利用させていただいております。

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2 転載できる官公庁の著作物とは

2.1 引用と転載

原則的には、著作権者に無断で著作物を転載すれば複製権等の侵害となります。しかし、一定の要件を備える適法な引用であれば、著作権者に許諾を得ることなく著作物を利用することが可能です。

さらに、適法な引用でなくとも、著作権法は一定の官公庁の著作物について、定められたルールの下での転載を認めています(32条2項)。これは、官公庁の作成する著作物の円滑な利用を図るために著作権法が認めた著作権の制限のひとつです。

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著作権法

第三十二条

(略)

2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。

転載可能な著作物は、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物です。政府が発行する白書(エネルギー白書、原子力白書、防災白書など)、各種報告書(年次報告書、意識調査報告書など)などがこれにあたります。

なお、国などが「一般に周知させることを目的として作成」したものであることを要しますので、官僚が内部資料として作成したメモなどはこれに該当しません。また、公表を前提としない著作物もこれにあたりません。

2.2 転載が適法となる条件

官公庁が作成した上記の著作物は「説明の材料として」転載する事が可能です。よって、そのような官公庁の著作物であっても、まるごと転載するような場合はこれにあたらず許されません。

さらに、転載を禁止する表示(禁転載表示)のある場合には、著作権者に無断で転載できません。なお、禁転載表示のある場合であっても、適法な要件を充たす引用をすることは可能です。

なお、転載する際には、著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければなりません(48条)。

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著作権法

第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。

一 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十三条の三第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条第一項の規定により著作物を複製する場合

(略)

2.3 違反時の処罰規定

転載の際に出所表示をしなかった者は50万円以下の罰金に処せられますので注意が必要です(122条)。

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著作権法

第百二十二条 第四十八条又は第百二条第二項の規定に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。

3 官公庁の作成した著作物といえどもルールを守って利用を

このように、一定のルールに従えば、官公庁の著作物を著作権者に無断で利用することができます。

そもそも引用の要件を充足していれば、著作権者の許諾は不要です。しかし、官公庁の作成した著作物については、その円滑な利用を図るため、転載が適法とされる要件が引用より緩和されています。

しかし、ルールを守らなければ違法となり、罰金に処せられることがありますので、注意しましょう。

笠原 基広