1.リーチサイトの問題点

著作権者の許諾を得ていないマンガの画像ファイル(いわゆる海賊版)を違法にサーバにアップロードし、閲覧させていた漫画村の運営者が逮捕されました。

漫画村のようにサーバーにアップロードされたファイルを閲覧させるようなサイト(本記事では便宜上「海賊版サイト」といいます。)だけではなく、様々なサイトやアップローダにアップロードされたファイルへのリンクのみを提供するようなサイト、すなわちリーチサイトも問題となっており、逮捕者も出ています。

海賊版アダルトビデオ(AV)のサイトへ誘導するリンクを張るなどした「リーチサイト」を開設して、視聴できるようにしたなどとして、京都府警は18日、大阪府大阪狭山市の会社員内海和幸(47)、京都市伏見区の無職岩間秀樹(44)両容疑者を著作権法違反(侵害とみなす行為)と名誉毀損(きそん)の疑いで逮捕し、19日発表した。内海容疑者は否認し、岩間容疑者は認めているという。

海賊版AVに誘導のリーチサイト開設 容疑の男2人逮捕:朝日新聞デジタル

リーチサイトの場合、運営者が違法コンテンツのファイルをアップロードするとは限らず、様々なユーザーがサイト内での特典に釣られてアップロードしたファイルに、リンクを提供しているにすぎない場合もあります。よって、リーチサイト運営者は著作権法上の複製権や公衆送信権等を侵害するわけではなく、規制が難しいという問題点がありました。しかし、著作権者、閲覧者からすれば海賊版サイトも、リーチサイトも、どちらも違法コンテンツの閲覧をさせるものであることにかわりはありません。

改正著作権法は、ダウンロード違法化を図って、違法コンテンツの利用を制限しています。

また、リーチサイト等を規制する規定を設けて、違法コンテンツへのアクセスを困難として、違法コンテンツの提供防止に実効性をもたせています。

2.リーチサイト規制の概要

著作権法では、一定の要件を充足するリーチサイトの運営・リーチアプリの提供行為や、違法コンテンツであることを知りながらリンク情報等を提供する行為は、著作権を侵害するとみなされます(みなし著作権侵害行為)。

そのような行為は著作権を侵害する行為として、損害賠償請求、リンク等の削除、掲載停止といった差止請求の対象となります。また、みなし侵害行為に故意のある場合には刑事罰が科されます。

3.リーチサイト・リーチアプリとは

著作権法で規制されるリーチサイト・アプリとはどのようなものでしょうか。著作権法では、次のようなものがリーチサイト、リーチアプリとされています。

なお、ウェブサイトとは共通のドメイン名を有するウェブページのまとまりや、ウェブページのまとまりの一部をいいます(113条4項)。つまり、同一のドメイン全体がリーチサイトであったり、その一部が違法コンテンツへのリンクを掲載している場合(掲示板の一部に、違法リンクが集中的に掲載されている場合)などをいい、1ページやごく少数のページは対象とされません。

3.1 リンクの提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等にことさらに誘導するウェブサイト・アプリ等(113条2項1号イ、同2号イ)

サイト運営者が、侵害コンテンツに閲覧者を誘導するために、デザインや表示内容を工夫しているような場合を想定しています。

公衆を侵害著作物等にことさらに誘導するものか否かは、侵害著作物へのリンクの利用を促す文言が表示されている、侵害著作物へのリンクが強調されているといった、侵害コンテンツへのリンク提供の態様に照らして判断します。

3.2 主として公衆による侵害著作物等の利用の為に用いられるウェブサイト・アプリ(113条2項1号ロ、同2号ロ)

掲示板などの投稿型サイトで、違法リンクを多数掲載し、結果として侵害コンテンツへの利用を助長するような場合を想定しています。

主として侵害著作物の利用の為に用いられるものかどうかは、違法コンテンツへのリンクの数、これがリンク総数に占める割合、リンクを利用しやすくするような分類や整理といった、侵害コンテンツへのリンク提供の態様に照らして判断します。

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著作権法

(侵害とみなす行為)

第百十三条

(略)

 送信元識別符号又は送信元識別符号以外の符号その他の情報であつてその提供が送信元識別符号の提供と同一若しくは類似の効果を有するもの(以下この項及び次項において「送信元識別符号等」という。)の提供により侵害著作物等(著作権(第二十八条に規定する権利(翻訳以外の方法により創作された二次的著作物に係るものに限る。)を除く。以下この項及び次項において同じ。)、出版権又は著作隣接権を侵害して送信可能化が行われた著作物等をいい、国外で行われる送信可能化であつて国内で行われたとしたならばこれらの権利の侵害となるべきものが行われた著作物等を含む。以下この項及び次項において同じ。)の他人による利用を容易にする行為(同項において「侵害著作物等利用容易化」という。)であつて、第一号に掲げるウェブサイト等(同項及び第百十九条第二項第四号において「侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等」という。)において又は第二号に掲げるプログラム(次項及び同条第二項第五号において「侵害著作物等利用容易化プログラム」という。)を用いて行うものは、当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合には、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。

 次に掲げるウェブサイト等

 当該ウェブサイト等において、侵害著作物等に係る送信元識別符号等(以下この条及び第百十九条第二項において「侵害送信元識別符号等」という。)の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるウェブサイト等

 イに掲げるもののほか、当該ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該ウェブサイト等において提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該ウェブサイト等における侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるウェブサイト等

 次に掲げるプログラム

 当該プログラムによる送信元識別符号等の提供に際し、侵害送信元識別符号等の利用を促す文言が表示されていること、侵害送信元識別符号等が強調されていることその他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の態様に照らし、公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するものであると認められるプログラム

 イに掲げるもののほか、当該プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の数、当該数が当該プログラムにより提供されている送信元識別符号等の総数に占める割合、当該侵害送信元識別符号等の利用に資する分類又は整理の状況その他の当該プログラムによる侵害送信元識別符号等の提供の状況に照らし、主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるものであると認められるプログラム

(略)

違法リーチサイトの例
違法リーチサイトの例

4.どのような行為が違法となるか

リーチサイト・アプリで次のような行為をすると著作権侵害とみなされます。

4.1 侵害コンテンツへのリンク提供行為

まず、リーチサイト、リーチアプリで、次のように侵害コンテンツへのリンク提供をすると、著作権侵害とみなされます(113条2項)。

みなし著作権侵害
  • リンク情報、リンク情報と同一・類似の効果を有する情報を提供して
  • 侵害著作物等の
  • 他人による利用を容易にする行為であって
  • 当該行為に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つていた場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合

リンク情報の提供だけではなく、リンク情報と同一・類似の効果を有する情報の提供も含まれます。リンク情報の一部を●、☆などの記号に置き換えたものや、コンテンツへの到達を容易にするボタンの提供がこれにあたります。例えば、http://chizai-faq.c●m、みたいな表記ですね。

侵害著作物とは、著作権、出版権、著作隣接権を侵害して送信可能化が行われたものをいい、著作権者の許諾無くデジタルコンテンツをアップロードするような場合がこれにあたります。ただし、翻訳以外の二次的著作物はこれに含まれません(後述)。

なお、侵害著作物へのリンク等は故意・過失によって提供されていることを要します。

4.2 サイト運営者等がリンク提供を放置する行為

さらに、リーチサイト、リーチアプリが侵害著作物へのリンク情報等を提供している場合、サイト運営者等がそれを放置するような次の行為も侵害とみなされます(113条3項)。

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著作権法

(侵害とみなす行為)

第百十三条

(略)

 侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等の公衆への提示を行つている者(当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等と侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等において、単に当該公衆への提示の機会を提供しているに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していることその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)又は侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等を行つている者(当該公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等とそれ以外の相当数のウェブサイト等とを包括しているウェブサイト等又は当該侵害著作物等利用容易化プログラム及び侵害著作物等利用容易化プログラム以外の相当数のプログラムの公衆への提供等のために用いられているウェブサイト等において、単に当該侵害著作物等利用容易化プログラムの公衆への提供等の機会を提供しているに過ぎない者(著作権者等からの当該侵害著作物等利用容易化プログラムにより提供されている侵害送信元識別符号等の削除に関する請求に正当な理由なく応じない状態が相当期間にわたり継続していることその他の著作権者等の利益を不当に害すると認められる特別な事情がある場合を除く。)を除く。)が、当該侵害著作物等利用容易化ウェブサイト等において又は当該侵害著作物等利用容易化プログラムを用いて他人による侵害著作物等利用容易化に係る送信元識別符号等の提供が行われている場合であつて、かつ、当該送信元識別符号等に係る著作物等が侵害著作物等であることを知つている場合又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合において、当該侵害著作物等利用容易化を防止する措置を講ずることが技術的に可能であるにもかかわらず当該措置を講じない行為は、当該侵害著作物等に係る著作権、出版権又は著作隣接権を侵害する行為とみなす。

(略)

みなし侵害行為
  • リーチサイト運営者・リーチアプリ提供者が
  • リンク情報等に係る著作物等が侵害著作物であることを知っている・知ることができた場合
  • 侵害著作物利用容易化を防止する措置を講ずることが技術的に可能であるにもかかわらず、講じない行為

リーチサイト運営者・リーチアプリの提供者は、侵害著作物へのリンクを自身で掲載しなくとも、リンクを削除可能であるにもかかわらず削除しないような場合には、みなし侵害となります。すなわち、ユーザー参加型のリーチサイトにおいて、自分はその場所を提供しただけ、というような言い訳は通用しません。ただし、サイト運営者等の行為がみなし侵害となるのは、侵害著作物へのリンク情報であることを知っているか、知ることができた場合に限られます。

4.3 二次的著作物の例外

二次創作、パロディなどの二次的著作物は、翻訳物を除き、侵害著作物に含まれません。

原則的には、二次創作・パロディであっても、原著作権者に無断で複製、アップロードすると、原著作者の著作権を侵害する可能性があります。しかし、そのような場合であっても、リーチサイト規制における侵害著作物にはあたらないものとされました。すなわち、二次的著作物の著作権者がアップロードした二次創作・パロディへのリンクの提供は、みなし著作権侵害となりません。

なお、二次的著作物のうち翻訳物はこれに含まれず、リーチサイト等において、勝手に翻訳されたマンガへのリンクを提供するとみなし著作権侵害となります。また、二次創作等をその著作権者以外の者がアップロードした場合には普通の違法アップロードですので、そのようなコンテンツへのリンク提供もみなし著作権侵害となります。

4.4 プラットフォームサービス提供者の例外

YouTubeやTwitterなど汎用のサービスにおいても、ユーザーが侵害著作物へのリンク情報等を提供することが可能であり、形式的にはリーチサイトに該当するような状態になり得ます。しかし、そのような単に公衆への提示の機会を提供しているに過ぎない者(いわゆるプラットフォームサービス事業者)は、リーチサイト運営者から除外されます。ただし、プラットフォームサービス事業者も、侵害コンテンツへの削除要請を正当な理由無く相当期間に亘って放置するなど、悪質な場合には規制が及びます。

5.みなし著作権侵害をするとどうなるか

上記のようなみなし著作権侵害となる行為は、差止請求(112条)、損害賠償請求(民法709条)等の対象となります。

すなわち、著作権者は、リーチサイト、リーチアプリの提供を停止したり、削除するような差止請求をすることができます。また、リーチサイト、リーチアプリによって生じた損害の賠償を、リンク提供者やリーチサイトを放置していた者に対し請求できます。

さらに、リーチサイト運営者、リーチアプリ提供者でリンク情報を放置してみなし著作権侵害とされた者は、5年以下の懲役、500万円以下の罰金、又はこれらの併科となり(119条2項4号、5号)、リンク情報を提供してみなし著作権侵害とされた者は、3年以下の懲役、300万円以下の罰金、又はこれらの併科となります(120条の2、3号)。これらは告訴がなければ公訴を提起することができない親告罪です。

6.違法コンテンツ利用の根絶を目指して

改正著作権法で、ダウンロード違法化と併せて、リーチサイトを規制することによって、違法コンテンツ・海賊版のアクセス及び利用の制限がより実効性のあるものとなりました。

違法コンテンツの利用は、著作権者の利益機会を不当に奪い、クリエーター産業に打撃を与えます。クリエーターが心血を注いだ創作が報われる世の中になることを祈ります。

笠原 基広