他人の著作物を無断で転載して大丈夫?著作物の引用が適法になる要件と最高裁判例

著作物は勝手に引用していいのか

まず、許可を得ず他人の著作物を勝手に引用してよいのでしょうか。著作権法では、引用について次のように定められています。

著作権法
著作権法第三十二条

1 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
2 (以下略)

つまり、「公表された著作物」は引用して利用することができます。

ただし、条文中には「公正な慣行に合致」「引用の目的上正当な範囲」「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内」という要件があります。また、著作権法第四十八条でも引用のルール(出所の明示)について規定されています。

なお、引用以外にも、他人の著作物を著作者の承諾なく「例外的な無断利用」ができる場合があります。

参考 著作権なるほど質問箱 著作物等の「例外的な無断利用」ができる場合文化庁ウェブサイト

守らなければならない引用のルール

著作物を引用する場合には適法となる要件(ルール)があります。近年の裁判例では引用が適法とされる要件が変遷しており、また学説状況も混迷していますので、適法な引用の要件については論者によって揺れがあり、定説のようなものはないように思います。

しかし、少なくとも以下の要件を充たしていれば問題ないでしょう。

公表された著作物である

引用する著作物は著作者によって既に公表されたものでなければいけません(著作権法第十八条、第三十二条)。

公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲である

引用は公正な慣行に合致し、正当な範囲内でなければいけません(著作権法第三十二条)。引用をすることによって自説の正当性を補助する目的であるか、引用の量や質が必要な範囲内であるか、など、引用にかかる事情を総合的に考慮して引用が適法か否か判断されます。

区別が明確である

引用する側と引用される側の区別が明確でなければいけません。例えば、引用部分をかぎ括弧でくくったり、図形で囲んだりします。

ウェブページでは<blockquote>タグを用い、次のように引用された文と引用する文との区別を明確にする場合が多いです(なお、下記の例は引用の他の要件を満たしていませんのでご注意ください。夏目漱石の坊ちゃんは著作権保護期間が満了しています)。

親譲おやゆずりの無鉄砲むてっぽうで小供の時から損ばかりしている。小学校に居る時分学校の二階から飛び降りて一週間ほどこしかした事がある。なぜそんな無闇むやみをしたと聞く人があるかも知れぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談じょうだんに、いくら威張いばっても、そこから飛び降りる事は出来まい。弱虫やーい。とはやしたからである。小使こづかいに負ぶさって帰って来た時、おやじが大きなをして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かすやつがあるかとったから、この次は抜かさずに飛んで見せますと答えた。

(夏目漱石 『坊ちゃん』)

主従関係が明確である

引用する側と引用される側には主従の関係がなければいけません。引用する側は単に、引用物より量的に主であるだけでなく、質的にも主でなければいけません。

出典を明示している

著作物を引用する場合には、出典を明示しなければなりません(著作権法第四十八条)。

著作者人格権を侵害しないこと

著作権には、著作人格権と著作財産権があります。引用の規定は著作財産権を制限する規定といえますが、このような制限は著作者人格権には及びません(著作権法第五十条)。つまり、仮に引用が適法であっても、著作人格権を侵害するような態様で行われた引用は違法になります。

著作権法
第五十条 この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

例えば、引用に伴い著作物を改変してしまうと、著作者人格権のひとつである同一性保持権を侵害します。

パロディ・モンタージュ事件(最判昭和55年3月28日)

引用の適法性が問題となった最高裁判例をご紹介します。

この事件は、原告が撮影した雪山の写真を、被告が無断で改変してモンタージュ写真として利用したことについて、著作者人格権を侵害したとして慰謝料を求めたものです。

この事件では、モンタージュ写真が引用にあたるかどうかも含めて争われました。

最高裁判所は、「他人が著作した写真を改変して利用することによりモンタージュ写真を作成して発行した場合において、右モンタージュ写真から他人の写真における本質的な特徴自体を直接感得することができるときは、右モンタージュ写真を一個の著作物とみることができるとしても、その作成発行は、右他人の同意がない限り、その著作者人格権を侵害するものである。」と著作者人格権の侵害を肯定しました。

さらに引用に関し、最高裁判所は「すでに発行された他人の著作物を正当の範囲内において自由に自己の著作物中に節録引用することを容認しているが、ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならないというべきであり、更に、法一八条三項の規定によれば、引用される側の著作物の著作者人格権を侵害するような態様でする引用は許されないことが明らかである。」としました。

そして、裁判所はこの引用の一般論を具体的に本件モンタージュ写真についてあてはめて「本件モンタージュ写真に取り込み利用されている本件写真部分は、本件モンタージュ写真の表現形式上前説示のように従たるものとして引用されているということはできないから、本件写真が本件モンタージュ写真中に法 30 条 1 項第 2 にいう意味で引用されているということもできない」として、著作権法所の引用にあたらないとしました。

参考 最判昭和55年3月28日裁判所ウェブサイト

この事件では、被告のモンタージュ写真は主従性の要件を満たさず引用にあたらない上に、原著作者に無断で改変されているため著作者人格権のひとつである同一性保持権を侵害すると判断されています。

著作物とは
著作権法第二十条

1 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。
2 (以下略)

なお、裁判所は本判決で引用の要件について明らかにしていますが、引用の可否は著作財産権の制限の問題で、著作者人格権侵害の成否には影響を及ぼしません(著作権法五十条)。しかし、本件で争われたのは著作者人格権侵害を理由とする慰藉料支払の請求の可否ですので、どのような位置づけで引用の要件を論じたのかは、今ひとつわかりにくい判決でもあります。

いずれにせよ、一定の要件を満たすよう「引用」することによって、著作者に無断であっても、他人の著作物を利用することができます。一方で、ルールにしたがって引用・利用しなれば、著作権を侵害することになってしまいますので、ご注意ください。