適法な引用とは

他人の著作物を勝手にブログに掲載すると、原則的には著作権侵害となります。たとえば、他人がアップロードした動画のスクリーンショットを撮ることは動画の一部分の複製となり、これを勝手に自身のブログ等にアップロードすると、複製権(著作権法21条)、公衆送信権(23条)を侵害することになります。

しかし、著作権法は著作権についていくつかの制限を定めており、「引用」もその一つです。すなわち、著作権法は「公表された著作物」は引用して利用することができる旨を規定しています(32条1項)。よって、適法な引用であれば、他人の著作物をブログ等に掲載しても著作権侵害となりません。

引用が適法とされるためには、種々の要件があります。この要件は、裁判例によって若干の変遷をみせていますが、以下の要件を遵守すれば概ね適法な引用であるといわれています。

引用の要件
  • 公表された著作物であること
  • 公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲であること
  • 区別が明確であること
  • 主従関係が明確であること
  • 出典を明示していること
  • 著作者人格権を侵害しないこと

これらの要件については、次の記事もご参照下さい。

それでは、ブログに転載した著作物の件数が多すぎる場合には、適法な引用といえるでしょうか。今回はブログにおける転載が適法な引用とされなかった裁判例をご紹介します。

東地判令和3年3月26日・令和2(ワ)15010

本件は、動画の著作権を有する原告が、その動画から作成した静止画(スクリーンショット)を掲載する記事(本件記事)をブログに掲載したブログ投稿者の行為が複製権侵害・公衆送信権侵害であるとして、インターネット回線を提供するいわゆる経由プロバイダーに対し、ブログ書き込み時のIPアドレスを利用した者について発信者情報開示請求をした事件です。

なお、本件は、著作権者(原告)が、ブログに画像を掲載したブログ投稿者を訴えたものではなく、当該ブログ投稿者を特定するために、経由プロバイダーに情報開示を求めた事件です。

裁判所は、ブログ記事が原告の複製権・公衆送信権を侵害するものであると認定しました。

被告は、本件記事が動画の紹介であり、引用に当たると主張していましたので、裁判所はかような被告主張についても判断をしています。

裁判所は、1記事あたり30~60枚のスクリーンショットが貼り付けられているが、投稿者の感想は概括的なもので10数行~20数行であることを指摘し、次のとおり、引用の成立を否定しました。

これらに照らせば,本件各記事には,本件各動画の内容を紹介する面やそれを批評する面がないわけではない。しかしながら,本件各記事において,本件各動画のスクリーンショットの静止画は,1記事当たり相当な枚数であり,量的に本件記事において最も多くを占めるといえるのに対し,投稿者の感想は相当に短い。また,本件各記事の最後に記載された投稿者の感想の内容に照らしても,それらの静止画の枚数は,感想を述べるために必要な枚数を大きく超えるといえるものである。

以上によれば,本件各記事における本件各動画のスクリーンショット静止画の掲載は,仮に引用ということができたとしても,引用の目的との関係で正当な範囲内のものとはいえない。したがって,本件各記事による本件各動画のスクリーンショットの掲載について,著作権法32条1項により適法となることはない。
東地判令和3年3月26日・令和2(ワ)15010

転載部分が多すぎると適法な引用にならないのでご注意

この裁判例では、転載した静止画像の枚数が多い割に、感想等が少なかったため、画像の掲載は引用の目的上正当な範囲であったとは認められず、適法な引用とはされませんでした。

すなわち、動画を紹介したり批評したりする目的で画像を掲載したのではない、と判断されたものと思われます。

ただし、この訴訟は、発信者情報開示のために、原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか否かを審理したものです。よって、ブログ投稿者ではなく、インターネットプロバイダが被告となっています。

原告は、開示された発信者情報に基づいて、ブログ投稿者に対して損害賠償請求をすることになると思われます。ブログ投稿者にはそこで初めて反論の機会が生じます。

自身が著作権侵害をしたわけでも、損害賠償責任を負担するわけでもない、インターネットプロバイダ(経由プロバイダ)がこのような訴訟を遂行するモチベーションがいかなるものかは、筆者には想像がつきませんが、投稿者の反論は、経由プロバイダの反論とはまた異なることもあり得ますので、要注意です。

笠原 基広