1 著作権の対象となる著作物について
1.1 著作物とは
そもそも、家具は、著作物といえるのでしょうか?
まず、著作権が認められる「著作物」は、著作権法の定義によると
- 思想又は感情を
- 創作的に、
- 表現したものであって、
- 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの
であるとされています。
第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。(略)
家具は実用品ですし、「思想又は感情を」「創作的に」表現したものなのか、また、文芸、学術、美術又は音楽のうち、どの範囲に属するのか、判断が難しいところです。
1.2 「純粋美術」と「応用美術」
ここで、絵画、版画、彫刻といった、もっぱらそれ自体の鑑賞が目的となり実用性を有さない創作物は「純粋美術」とよばれ、これが著作権法の保護対象となる「著作物」となることに異論はありません。
一方で、純粋美術は実用性に乏しいので、工業的(機械的、手工業的)生産過程を経て反復生産され、量産される物品のデザインを保護する意匠法による保護は受けにくいといわれています。
家具のような、実用に供されあるいは産業上利用される美的な創作物は、「純粋美術」の対立概念としての「応用美術」にカテゴライズされ、意匠法による保護がなじみやすいとわれています。意匠法施行規則にも物品の区分として「家具(18類)」があることからも、法は、家具については、まず意匠法による保護を念頭においているといえるでしょう。
しかし、意匠権は設定登録後20年で満了します(2018年現在。なお、意匠法改正により、保護期間が延長されるかもしれません)。また、意匠権は登録型の知的財産権であることから権利取得に費用がかかり、無数のデザインが存在するなかで、売れるかどうかもわからない全ての物品について意匠登録出願をするのは現実的とはいえません。
それでは、応用美術といえるような家具の場合に、著作権は発生するのでしょうか。
2 応用美術の著作物性
2.1 従来の裁判例
従来の裁判例は、応用美術の著作物性には厳しい姿勢をとっていました。
多くの場合、裁判所は、審理対象となる応用美術が、純粋美術と同じ程度の高度の芸術性を有している場合にのみ、著作物性を認めていましたので、実用性のある工業製品について著作物性が認められるのは、かなり困難でした。
2.2 TRIPP TRAPP事件(知高判平成27年4月14日)
ところが、近年、裁判所は応用美術の著作物性について、「応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべき」として、幼児用の椅子の著作物性を認め、これが「美術の著作物」に該当するとしました(TRIPP TRAPP事件・知高判平成27年4月14日)。
TRIPP TRAPP事件は、幼児用椅子の製造・販売者等が、これと形態的特徴が類似する別の製品を製造等する相手方に対し、著作権等を侵害するとして製品の製造、販売等の差止め等を求めた事件です。
裁判所は、応用美術の著作物性について、
「応用美術は、装身具等実用品自体であるもの、家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの、染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり<中略>、表現態様も多様であるから、応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」とし、問題の幼児用椅子についても「作成者である控訴人O社代表者の個性が発揮されており、「創作的」な表現というべきである。したがって、控訴人製品は、前記の点において著作物性が認められ、「美術の著作物」に該当する。」として、著作物性を認めました。
ただし、両製品の類否については、一定の共通点を認めたものの、「椅子の基本的構造に関わる大きな相違」があり、「その余の点に係る共通点を凌駕する」として、非類似として、著作権侵害を否定しました。
判決全文には、両製品の写真等が掲載されていますので、興味のあるかたは是非ご覧下さい。
3 著作権法侵害の判断手法
このように、作成者の個性が発揮されている、といった場合には、家具のような応用美術にも著作権法の保護が認められる可能性があります。
ここで、製品Yの販売等が、著作物である製品Xの著作権を侵害すると主張されている場合を考えてみましょう。
著作権侵害の判断においては、製品Xと製品Yの同一性を有する部分を抽出した上で、同一部分に創作性があるか否かを判断する手法(濾過テストといわれています)と、まず製品Xの創作性のある部分を認定してから、製品Yに製品Xの創作的表現が再生されているか判断する手法(二段階テストといわれています)の、2種類のアプローチがあります。
上記裁判例(TRIPP TRAPP事件)では、裁判所は、まず著作物とされる製品の創作性のある部分がどこであるか認定し、次にこの部分について相違を認めて、著作権侵害を認めませんでした。なお、審理において、相当数の需要者が両製品は類似するとの意見・感想を述べた旨の証拠が提出されていますが、これを裁判所は、著作物性が認められる点に着目したものであるか否かは不明であるとして一蹴しています。このことからも、裁判所は、上記裁判例においては、二段階テストを採用したと思われます。
実用品には一定の用途があり、デザインにも用途から当然導かれる一定の制約が生じます。よって、実用品において、作成者の個性を発揮することが可能な部分というのは限定されてくるはずです。上記裁判例のアプローチによれば、著作物の類否判断においては、そのような創作性のある部分の類否に着目する必要がありますので、一般人の類否の感覚とはまた異ってくる可能性があることに、注意が必要です(現に、裁判手続き中でも、一般人の意見・感想は参考にされていません。)。
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