店舗外観を保護する法律
チェーン店などは、一目で何のお店かわかるように、外観を統一していますよね。しかし、他の事業者が店舗の外観を真似した場合には、お客さんも、同じ事業者が営業していると誤解するかもしれません。
このように、店舗の外観に顧客誘因力が生じている場合、模倣を防ぐ法律はあるでしょうか?
まず、物品の外観を保護する法律としては、次のものが考えられます。
- 著作権法
- 意匠法
- 商標法
- 不正競争防止法
この中でも、この記事では著作権法による店舗外観保護の可能性について、考えてみましょう。
なお、不正競争防止法による保護についてはこちらをご覧下さい。
著作権法による店舗外観の保護
店舗の外観は、著作物として保護されるでしょうか。
まず、著作権が認められる「著作物」は、著作権法の定義によると
-
- 思想又は感情を
- 創作的に、
- 表現したものであって、
- 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する、
もの
であるとされています。
条文を見る
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
二 (略)(e-Gov法令検索)
著作物性を充足する一部の建築物は、いわゆる「建築の著作物」(著作権法10条1項5号)として著作権法で保護されます。それでは、どのような建築物が著作物にあたるでしょうか。
建築の著作物の創作性
建築物は、その実用性・機能性からデザインに一定の制約があります。実用的な建築物は、誰がデザインしても大筋では似たようなものになりますから、ありふれたものとして創作性を欠くことになります。
従来は、建築物はいわゆる「建築芸術」とみられるような美術性、芸術性がないと、著作権法上の「著作物」には該当しないといわれてきました。もっとも、近年の応用美術についての裁判例からは「建築芸術」とまではいえないものについても、著作物性が認められる余地があるかもしれません。
これについて、店舗外観の著作物性が問題となった裁判例では「創作的に表現されたものであるというためには、作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要し、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえない旨判示しています(店舗外観デザイン事件。東地判平成29年4月27日)。
この裁判例は、従来の「建築芸術とみられるような美術性、芸術性」という判断枠組みではなく、家具のような実用性のある応用美術と同様の「作成者の何らかの個性が表現として表れている」か否かという判断枠組みを示していますので、店舗外観に著作物性を認める余地は(ハードルは高いにせよ)あると考えられます。
裁判例を見る
本件は、被告が設計図面を作成した店舗建物について、建築設計業の原告が「外観デザイン監修」をしたにもかかわらず、被告がその建物の著作権者である旨の表示をし、そのように表示された賞を受賞したため、人格権を侵害されたとして、慰藉料の支払いなどを求めた事件です。裁判所は、店舗建物の著作物性について、次のように判示しました。
「著作権法は、著作物の対象である著作物の意義について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(同法2条1項1号)と定義しており、当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には、当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方、思想、感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては、著作物に該当せず、同法による保護の対象とはならないものと解される。また、当該作品等が創作的に表現されたものであるというためには、作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要し、表現が平凡かつありふれたものである場合には、作成者の個性が表現されたものとはいえず、創作的な表現ということはできない。」
裁判所が、「作成者の何らかの個性が表現として表れている」ことをもって、著作物の創作性が肯定されるのか、さらに「建築芸術とみられるような美術性、芸術性」を求める上での必要条件にすぎないと考えているかは定かではありません。しかし、応用美術に関する裁判例と照らし合わせると、純粋芸術に比肩するだけの芸術性を求めているわけではなく、「作成者の何らかの個性が表現として表れている」ことをもって創作性を肯定している、と評価することも可能です。
判決全文はこちら
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