概要

BitTorrent(ビットトレント)などのファイル共有ソフトウェアで、漫画、ビデオなどの他人が著作権を有する著作物のファイルをダウンロードすると、著作権侵害を引き起こすことがあります。

著作権者は、ファイル共有をした人(発信者)を特定して損害賠償などをするためにプロバイダに対し「発信者情報開示請求」を行います。プロバイダは発信者に対して、発信者の氏名などの情報を開示することに同意するか否か、意見を確認します。この発信者の意見を求めるための書類が「発信者情報開示請求に係る照会書」です。

あなたに「発信者情報開示請求に係る照会書」が届いたら、個人情報の開示に同意するか否かについて意思決定をする必要があります。

また、あなたの個人情報が著作権者に開示された場合、損害賠償請求をされることになりますので、その時点で和解交渉をするか、訴訟に持ち込むかの意思決定も必要となります。

これらの意思決定をするには専門的な知識が助けになります。発信者情報開示請求に係る意見照会書を受け取った時点で、早急に弁護士に相談することをお勧めします

1.ファイルのダウンロードだけでも著作権侵害になる

1.1 ダウンロードだけで意見照会書が届く

BitTorrent(ビットトレント)のようなファイル共有ソフトウェアでマンガや動画のファイルをダウンロードしたら、インターネット回線を提供しているプロバイダから発信者情報開示請求についての意見照会書が届く場合があります。

ファイルをダウンロードしただけなのに、なぜこのような意見照会書が届くのでしょうか?

1.2 BitTorrent(ビットトレント)ではファイルのダウンロードだけをすることはできない

BitTorrent(ビットトレント)とはピアツーピア(P2P)でファイルを転送するソフトウェアやプロトコルのことをいいます。P2PとはPeer to Peerの略で、中央集権的なサーバを通さず、ネットワークに繋がっているコンピュータ(ピア、peer)同士でファイルをやりとりすることをいいます。

外部リンク
BitTorrent

BitTorrent(ビットトレント)は価値中立的なソフトウェア(プロトコル)で、それ自体は特に違法なものではありません。しかし残念ながら、BitTorrent(ビットトレント)では多くの著作物が違法に共有されています。

他人の著作物をアップロードした人は、もちろん著作権侵害に問われます。それでは、他人の著作物のファイルをダウンロードしたにすぎない人も著作権侵害をしたことになるのでしょうか?

一般的に動画コンテンツのファイルはサイズが大きく、一気にダウンロードすると時間がかかってしまいますし、ビットトレントネットワークに接続している相手方のコンピュータ(ピア)が途中で接続を解除するかもしれません。そこでビットトレントは、大きなファイルをピース(piece)とよばれる小さなファイルに分割したうえで、ビットトレントネットワークに接続されている複数のピアからピースをダウンロードして、このピースから元のファイルを再構成する方法を採用しています。

ビットトレントネットワークでファイルのピースがアップロード・ダウンロードされる概念図

ビットトレントネットワークでは、自分が他のピアからピースを受け取るために、自分もピースを他のピアに渡す仕組みになっています。すなわち、ファイルをダウンロードする場合、必ず自身もファイルを他人にダウンロードさせることになってしまいます。

用語:アップロード・ダウンロード

用語

BitTorrent等のファイル共有ソフトウェアでは、ファイルを共有する際に自身のクライアントコンピュータからファイルをダウンロードさせることになり、サーバ等に「アップロード」するわけではありません。

しかし、他人のコンピュータにファイルを送信しますので、裁判例等ではこれを「アップロード」といっているようです。本稿でもこれに従い「アップロード」といいます。

1.3 ダウンロードで著作権侵害に

BitTorrent(ビットトレント)を使用してファイルをダウンロードする場合、ファイルの一部(ピース)をアップロードすることにもなります。しかし、完全なファイルのダウンロードが終了してすぐにファイルを削除したり接続を切ったりした場合には、自分のピアはピースのみをアップロードしたにすぎず、完全なファイルのアップロードをしていないかもしれません。

しかし、多くの裁判例はピースも著作物であると判断し、著作物をアップロードしたとして公衆送信権の侵害を認めています。よって、BitTorrentを使用して他人の著作物をダウンロードするだけで、結果的に他人の著作権(公衆送信権等)を侵害することになります。

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1.4 ピースは著作物か

上述の通り、多くの裁判例ではピース自体が著作物であるという立場を採用しています。

しかし、近時の裁判例には、ピアが保有しているピースに著作物性があるかどうかは明らかでないと判断しているものもみられます。詳細は次の記事をご覧ください。

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2.発信者が特定される流れ

2.1 著作権者は損害賠償などのために発信者を特定する

BitTorrent(ビットトレント)で著作物をダウンロードすることにより、そのファイルの一部がBitTorrentネットワークにアップロードされてしまいます。そうすると、漫画や映画を無料でダウンロードすることが可能になり、著作権者は売上げが減ってしまうといった損害を被ります。

著作権者はアップロードをやめさせたり、自身の著作権が侵害されたために生じた損害の賠償を求めることができます。そのために著作権者は発信者を特定する必要があります。

発信者の特定のため、著作権者はまずプロバイダに発信者情報開示請求を行い、それでも開示がされなかった場合には発信者情報の開示を求める法的手続きを行うことができます。

ビットトレントを使用して他人の著作物を違法共有した者が発信者情報開示請求により特定されるまでの流れ

2.2 著作権者はまずプロバイダに対して発信者の情報開示を請求する

著作権者は、発信者を特定するために、発信者のIPアドレスを特定して、インターネットサービスプロバイダ(ISP)に対して、そのIPアドレスを使用していた人の契約情報を開示するよう請求します。

これがいわゆる発信者情報開示請求です。

著作権者は発信者のIPアドレスを特定し、プロバイダに対し発信者情報開示請求をする
発信者情報開示請求(IPアドレスは例示のためのものです)

BitTorrent(ビットトレント)には匿名性がなく、利用者のIPアドレスは容易に特定可能です。他のP2Pソフトウェア(Winny、Share、PerfectDark、WinMX)にはIPアドレスを秘匿する機能があることが多いですが、最近は専用のツールを用いることによってIPアドレスの特定が容易となりました。

インターネットサービスプロバイダ(ISP)とは

インターネットサービスプロバイダ(ISP)とは、ユーザーにインターネット接続サービスを提供する事業者のことです。主な事業者としては、OCN、BIGLOBE、ASAHI NET、IIJ等が挙げられます。

上記の手続きは裁判所を通さず、著作権者が直接プロバイダとやりとりをして、発信者の情報開示を求めるものです。この開示請求には強制力が無く、プロバイダの判断で情報開示の可否を判断し開示を拒否することもできます。

また、著作権者によっては、プロバイダに対して任意の開示を求めず、いきなり発信者情報開示請求訴訟発信者情報開示命令申立といった裁判所を通じた法的手続をすることもあります。プロバイダが任意の発信者情報の開示を拒否した場合、著作権者としては強制力のある裁判所における法的手続きをせざるを得ませんので、二度手間になるよりは、最初から法的手続きにより開示を求める、という方針のようです。

2.3 プロバイダは発信者に「発信者情報開示請求に係る意見照会書」を送る

著作権者より任意の(裁判所の関与しない)発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、発信者に対して「発信者情報開示請求に関する照会書」を送って、発信者の情報を著作権者に開示してよいか否かを問い合わせます

発信者情報開示請求を受けたプロバイダは、発信者に対して意見照会する
発信者情報開示請求書に係る意見照会

2.4 発信者の同意による情報開示

発信者が発信者情報の開示に同意した場合、プロバイダは著作権者に対し発信者情報(氏名、住所など)を開示します。

著作権者は発信者を特定できますので、著作権侵害によって生じた損害の賠償を請求することが可能となります。

発信者が開示に同意した場合、プロバイダは発信者情報を開示する
発信者情報の開示

2.5 発信者が不同意の場合、プロバイダは情報開示しない

発信者が情報開示に不同意の場合、プロバイダは通常は情報開示に応じません。詳細は次の記事をご覧ください。

しかし、プロバイダが任意の情報開示に応じない場合、著作権者は裁判所で、発信者情報開示を強制するための法的手続きをすることができます。

発信者が発信者情報開示に不同意の場合、プロバイダは発信者情報を開示しないので、著作権者は法的手続きの検討を余儀なくされる
発信者情報の非開示

2.6 発信者情報開示を求める法的手続き

プロバイダが発信者の情報を開示しなかった場合、著作権者は発信者情報開示請求訴訟の提起や、発信者情報開示命令申立てといった法的手続きをして、裁判所がプロバイダに対して発信者情報開示命令をするように求めることができます。

また、上述のとおり、プロバイダに対する訴訟外の手続きをせず、いきなりこの法的手続きをする著作権者も散見されます。

この発信者情報開示請求の法的手続きには発信者は関与せず著作権者とプロバイダとの間で開示の是非が争われます。具体的には開示の必要性が認められるか、著作権侵害があったかどうかなどが争われることになります。

裁判所において著作権者の主張が認められれば、発信者が特定されることになります。

発信者情報の開示を求める法的手続き
発信者情報開示請求の法的手続き

3.発信者特定後の流れ

発信者の特定によって、著作権者は発信者に損害賠償請求を行うことが可能になります。

通常、著作権者はまずは訴訟外における損害賠償請求を行います。発信者は損害賠償金の額等についての条件を著作権者と交渉することができます。

一方、交渉がまとまらなかった場合、著作権者は発信者に対して、著作権侵害に基づく損害賠償請求の訴訟を提起することも可能です。

発信者が、市販されている漫画やビデオをアップロードしたような場合、すなわち著作権侵害の認識があるような場合には、事態をなるべく穏便に収束させるため、和解(示談)の交渉を申し入れることが考えられます。そのような和解交渉では、損害賠償額について折り合いをつけていくために協議をすることになるでしょう。交渉の結果、発信者と著作権者との間で損害賠償額などについて折り合いがついて、諸条件の合意ができたら、和解契約書(示談書)を締結することになります。

一方で、発信者は著作権侵害をしていないことを主張したい場合もあるでしょう。例えば、そもそも著作物のダウンロード(アップロード)をしていないにもかかわらず発信者情報開示請求をされたような場合です。そのような場合であっても、著作権者とプロバイダに発信者情報開示請求訴訟といった手間をかけさせず、任意の情報開示をしたうえで著作権侵害を否認することが考えられます。

いずれにせよ、著作権者は発信者情報開示請求訴訟等の手間が省けますので、訴訟が提起された場合と比較すれば、和解の交渉が円滑に進むことも期待されます

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4.意思決定が必要

4.1 2つの意思決定

あなたがBitTorrentでファイルをダウンロードした結果、プロバイダから「発信者情報開示請求にかかる照会書」が届いた場合、①発信者情報の開示に同意するか否かという点と、②損害賠償額等の交渉をするか(あるいは訴訟をするか)という点の2つの点について意思決定をする必要があります。

2つの点について意思決定
  1. 発信者情報の開示に同意するか、不同意か
  2. 損害賠償に対して和解交渉をするか、争うのか

4.2 不同意によるメリットとデメリット

発信者情報開示請求に対して不同意とするメリットはどのようなものがあり得るでしょうか。

発信者情報開示に不同意とすることで、著作権者が発信者を特定するためには、発信者情報開示請求の法的手続きによる必要があります。法的手続きの当事者となるのは発信者ではなくインターネットプロバイダですが、インターネットプロバイダの頑張り次第で開示命令が発令されない可能性があります。

また、法的手続きの手間と費用を考えると、著作権者がそこで追求を断念する可能性も皆無ではありません。

他方でデメリットにはどのようなものがあり得るでしょうか。

著作権者は、発信者を特定するために裁判所における発信者開示請求の法的手続きをする必要があります。これによって、発信者が情報開示に同意している場合よりも余計な費用と手間がかかりますので、後の和解交渉などに不利に働く可能性は否定できません。また、現実にも発信者情報開示請求訴訟の弁護士費用を著作権侵害による損害に含めることができるとした裁判例もあります。

よって、デメリットとしては、後に和解をしようにもまとまらなかったり、まとまったとしても開示請求の法的手続の費用が転嫁されて損害賠償額が高額になる可能性が考えられます。

メリット

  • 著作権者が発信者を特定するには法的手続きが必要。
  • 発信者情報の開示命令がされない場合がある。
  • 著作権者が追及を断念する可能性がある。

デメリット

  • 著作権者に費用と手間をかけるので、損害賠償金や和解金に転嫁され高額となる可能性がある。
  • 和解がまとまりにくい可能性がある。
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5.専門家に相談しましょう

このように、発信者情報開示請求をされた場合には、状況に応じて、発信者情報開示請求に同意するか、和解交渉を行うかの判断をする必要があります。また、和解の場合には相手方と交渉する必要も生じます。

したがって、発信者情報開示請求をされた場合には、早めに専門家に相談することをお勧めします。弁護士といった専門家は、発信者の様々な事情や状況を考慮して、最適な対策を講じるための助言をしますし、また、損害賠償金の減額交渉にも強い味方となるでしょう。

笠原 基広