社長
社長
コピーライターに新商品のキャッチフレーズを作ってもらったんですよ。これは、著作物として保護されますか?
弁護士
弁護士
ありふれた表現か否かによりますね。ありふれた表現に独占権を与えると、弊害が大きいですから。
社長
社長
独創性はあると思いますが、難しいところですね。

キャッチフレーズの著作物性

キャッチフレーズ

多くの企業が商品を販売する際に、各広告・宣伝活動において、消費者の購買意欲を刺激するために、キャッチフレーズを用いています。お菓子の「やめられないとまらない♪」や、物置の「100人乗っても大丈夫!」等は、誰もが知る名キャッチフレーズの代表例ですね。短い文句でストレートに商品の良さを謳うもので、当該商品の売れ行きを左右する一因になっているでしょう。

そうしますと、キャッチフレーズは、よくよく考え抜かれてつくられたものといえ、著作権の対象として保護されて然るべきだと思えますよね。

著作物

著作権が認められる「著作物」とは、著作権法2条1項1号により、以下のように定義されています。

著作物とは
①思想又は感情を、
②創作的に、
③表現したものであって、
④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属する、
もの

創作性があるのか

キャッチフレーズは、簡略で短い表現であることから、②「創作」性があるのかが問われます。

「創作」性とは、厳密な意味で、独創性の発揮されたものであることまでは求められませんが、何らかの個性が表現されている必要があると解されています。そして、ありふれた表現であれば、何らかの個性の表現とはいえないと判断されます。

この点について、比較的新しい裁判例として、英会話教材のキャッチフレーズの著作物性が争われたものが参考になります。

スピードラーニング事件

事案の概要

原告は、英会話教材としてよく知られている「スピードラーニング」の販売会社で、新聞広告や自社ウェブサイトでキャッチフレーズを使用して同教材を販売していました。被告は、同じく英会話教材「エブリデイイングリッシュ」を販売している会社で、原告が使用しているキャッチフレーズと似たキャッチフレーズを使用していました。

原告は、被告が、従来から原告が使用しているキャッチフレーズを使用して広告・宣伝活動をしていることは、著作権侵害であるとして、その使用の差止めと損害賠償を請求しました(営業の混同を生じさせるものとして不正競争防止法2条1項1号の問題にもなりますが、今回は著作権侵害の問題に絞ってご説明します)。

争いの対象となったキャッチフレーズは、次のとおりです。

原告が使用していたキャッチフレーズは、①「音楽を聞くように英語を聞き流すだけ 英語がどんどん好きになる」、②「ある日突然、英語が口から飛び出した!」、③「ある日突然、英語が口から飛び出した」です(②と③の違いは、最後に「!」がつくかどうかだけです)。

一方で、被告が使用していたキャッチフレーズは、①「音楽を聞くように英語を流して聞くだけ 英語がどんどん好きになる」②「音楽を聞くように英語を流して聞くことで上達 英語がどんどん好きになる」③「ある日突然、英語が口から飛び出した!」④「ある日、突然、口から英語が飛び出す!」です。

東京地裁の判断(東京地判平成27年3月20日)

第1審である東京地裁は、原告キャッチフレーズ①について「17文字の第1文と12文字の第2文からなるものであるが、いずれもありふれた言葉の組合せであり、それぞれの文章を単独で見ても、2文の組合せとしてみても、平凡かつありふれた表現というほかなく、作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない」として創作性を否定しました。

そして原告キャッチフレーズ②③についても「ごく短い文章であり、表現としても平凡かつありふれた表現というべきであって、作成者の思想・感情を創作的に表現したものとは認められない」として創作性を否定しました。

原告は、原告キャッチフレーズ②(実質的には③も同じでしょう)については、(字余りを含みますが)575の俳句調であることや、あえて「英語」を主語にしていること等を理由に創作性があると主張し、控訴しました。①については特に主張していません。

知財高裁の判断(知財高判平成27年11月10日)

控訴審である知財高裁は「キャッチフレーズのような宣伝広告文言の著作物性の判断においては、個性の有無を問題にするとしても、他の表現の選択肢がそれほど多くなく、個性が表れる余地が小さい場合には、創作性が否定される場合があるというべき」との一般論を展開した上で、原告キャッチフレーズ②について「劇的に学習効果が現れる印象を与えるための「ある日突然」という語句の組合せの利用や、ダイナミックな印象を与えるための「飛出した」という語句の利用」は「他の表現の選択肢はそれほど多くないといわざるを得ない」もので「語句の選択は、ありふれたもの」だと判断しています。

つまり、創作性が否定される基準である「ありふれている」かどうかは、宣伝広告文言として他に表現する選択の幅がどれぐらいあるのかを考慮すべきだとした上で、原告キャッチフレーズ②は、英会話教材の学習効果やダイナミックな印象を与えるための宣伝広告文言として、その幅の狭いなかから選んだものに過ぎないので、「ありふれている」と結論づけています。

なお、原告は上告しましたが、最高裁は、上告不受理の決定をしました(最決平成28年3月22日)。

「ありふれた」キャッチフレーズは保護されない

苦心して捻りだしたキャッチフレーズが「ありふれたものだ」と一刀両断されてしまい、著作物として保護されないのは、残念な気がしますね。しかし著作権法は、知的創作活動を奨励する目的がある一方で、他者の表現の自由を過度に制約するように解釈・適用してはならないこともまた重要なのです。

なお、商品に関するキャッチフレーズではありませんが、交通標語「ボク安心 ママの膝より チャイルドシート」という短いフレーズについて、創作性を認めた裁判例があります(東京地判平成13年5月30日)。

この事案は、原告がつくったものと実質的に同一の交通標語が被告により作成されテレビ放映されたとして、原告が被告に対して著作権侵害に基づき損害賠償請求をしたものです。東京地裁は、同交通標語について「3句構成からなる5・7・5調(正確な字数は6字、7字、8字)調を用いて、リズミカルに表現されていること、「ボク安心」という語が冒頭に配置され、幼児の視点から見て安心できるとの印象、雰囲気が表現されていること、「ボク」や「ママ」という語が、対句的に用いられ、家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば、筆者の個性が十分に発揮されたものということができる」として、創作性を認めました

英会話教材の宣伝文句よりは交通標語の方が語句の選択の幅が広く、原告が作成した交通標語はよくありがちな交通標語とはいえず個性的なものといえるでしょうから、「スピードラーニング事件」との結論の違いは基本的には是認できます。

したがって、商品のキャッチフレーズの場合には、いわば「その類の商品の宣伝なら大体そう言うよね」と判断されてしまい、創作性が否定され、著作物として保護されるケースは多くないといえます。

社長
社長
確かに、商品の宣伝ですから、表現の幅は狭いですね。あまり突飛なコピーで変なイメージを与えてしまっては本末転倒ですし。
弁護士
弁護士
交通標語で創作性が認められた事案はありますが、広告コピーですと短い上に表現上の制約がありますから、なかなか難しいところですね。
笠原 基広