ポイント

特許権侵害の警告書には決まった書式はありません。しかし、記載すべき事項はある程度決まっていますので、記載例を挙げて、その意図と効果についてご説明します。

末尾にひな形がありますので、ご活用下さい。

1.特許権侵害の警告書とは

折角取得した特許権が侵害されている!そんな場合にはどうしたらよいでしょうか?

相手方が特許権の存在を知りつつ侵害しているとは限りません。そこでまずは、特許権を侵害している旨を相手方に知らせる書面を送付し、侵害行為の停止などの対処を求めるのが一般的です。

そのような書面は、特許権侵害の「警告書」や「通知書」とよばれています。また、もう少し対決姿勢を弱めてソフトな表現にしたいときには「お伺い」「情報提供」といった題名の書面にすることもあります(本記事では「警告書」に統一します)。

2.警告書の記載事項

特許権侵害の警告書は裁判所等の行政機関が関与するわけではなく、当事者間で送付するものですので、特に決まった書式はありません

しかし、一般的には次のような事項を記載することが多いです。

2.1 権利の特定

特許権者が、どの権利を侵害されたと考えているかを伝える必要がありますので、侵害されたと考える特許権を特定して記載する必要があります。

通常、特許権の特定は、特許番号、発明の名称などを記載して行います。なお、出願日、公開日などを更に記載することもありますが、少なくとも特許番号さえ記載すれば特許権を特定できますし、これらの記載事項に万が一齟齬があっても困りますので(出願番号と特許番号が対応していないなど)特許番号と発明の名称ぐらいにしておくのが無難かと思います。

記載例

 当社は、次の特許権(以下、「本件特許権」といいます。)を保有しています。

   特許番号 特許第●●●●●●●号
   発明の名称 ●●●●●●●●

2.2 被疑侵害物品や方法の特定

特許権を侵害していると思われる相手方の製品や方法(被疑侵害物件・方法)を特定しないと、相手方もどのように調査・検討をすればよいか分かりません。よって、被疑侵害物件・方法を何らかの形で特定して記載します。

被疑侵害物件が製品の場合には、製品名や製品の型番で特定することが多いでしょう。方法の場合には、個別の行為を挙げて特定するか、役務としての方法であれば役務の名称や実施日時、例えば、●月●日に実施された●●工事というような表現で特定するなど、工夫をする必要があります。

2.3 侵害行為の特定

特許権を侵害するのは製品や方法そのものではありません。特許発明の実施となる、製品の販売、販売の申出、方法の使用といった具体的な行為が特許権を侵害します。

よって、被疑侵害物件・方法を特定するだけでは不十分な場合があります。具体的にどのような行為が特許権を侵害しているのかを特定する必要があります。

また、侵害行為の地が裁判管轄と関連してきますので、その意味でも侵害行為の特定は重要です。

記載例

当社の調査によれば、貴社は次の製品(以下、「本件製品」といいます。)を、貴社ウェブサイト(http://●●.co.jp)にて販売し、また、販売の申出をされています。

   製品名 ●●●●●●●●●●
   製品番号 ●●●●●●●●●●

2.4 侵害と考える理由

警告書において、特許権が侵害されていると考える理由、すなわち、被疑侵害物件・方法が特許発明の技術的範囲に属すると考える理由を説明をすることがあります。しかし、侵害の理由を説明するには技術的な事項に立ち入ることになりますし、図などを記載できない内容証明郵便では、込み入った説明を紙幅が許さないこともあります。

よって、警告書は単なる交渉の端緒とするにとどめ、その後の交渉等で技術論を交わすことにして、端的に侵害である旨だけを指摘することも多いです。

なお、ソフトな対応が望ましい場合には、侵害と断定せず、被疑侵害製品・方法が特許権と「関連」していると思われるため、相手方に見解を求める、といった表現がよいでしょう。

記載例

その1 
当社は、本件製品は、本件特許権の請求項1に記載の発明の技術的範囲に属し、その販売及び販売の申出は本件特許権を侵害すると考えます。

その2 
当社は、本件製品は本件特許権の請求項1に記載の発明と関連があると考えます。

2.5 相手方に求める対応

警告書には、特許権侵害を指摘するにとどめる場合と、具体的に相手方に何を求めるのかを記載する場合があります。相手方への請求は、例えば、製品の製造・販売停止ライセンス契約の締結損害賠償金の支払いなどが考えられます。

損害賠償金を請求するためには損害額の算定が必要ですが、警告段階で損害賠償金まで算出していることはむしろ希かと思います。そのような場合には、損害賠償額の算定根拠となる数字(販売数量、売上高など)を開示するよう求めることが多いでしょう。

また、具体的な請求ではなく、特許権侵害を通知し、相手方の見解を求めるに留めることもあります。

記載例

その1 
よって、当社は、貴社に対し、本書をもって、本件製品の販売及び販売の申し出を直ちに停止するよう請求します。

その2 
よって、当社は、貴社に対し、本件特許発明と貴社製品との関係についての見解を求めます。

2.6 回答期限

警告書には回答期限を設けることが多いです。相手方としては期限内に回答や対応をする義務はありませんが、訴訟等を避けて穏便に解決したい場合には何らかの回答をしてくるでしょう。

回答期限には特に法的な拘束力はありません。しかし回答期限を設けないと、相手方が回答準備をしているのか、単に無視しているのかの判断がつきにくいため、あえて期限を設けることが多いです。

回答期間としては、14日~30日程度を指定することが多いように思います。技術的に複雑な発明ですと特許請求の範囲の解釈や、侵害の有無の検討に時間がかかる場合がありますので、まずは期限を延長する旨の回答がくることも多いです。

それなら最初から長めの期間、例えば30日を指定すればよいと思われるかもしれませんが、消滅時効中断の効果が6か月しかありませんし、相手方が最初から対決姿勢の場合には、端的に特許権侵害を否定する文書を送ってくるはずです。よって、当職の場合は、まずは14日程度を指定することが多いです。

記載例

つきましては、本書が貴社に到達してから14日以内に、貴社のとられるご対応を書面にてご回答下さい。

3.警告書の効果

警告書には、特許権の存在を相手方に知らせ、一定の対応を求めるという事実上の効果があります。それでは、法的な効果としてはどのようなものがあるでしょうか。

まず、警告書を送ることによって損害賠償請求債権の消滅時効を中断する効力が生じる場合があります。ただし、警告書の到達より6か月以内に訴訟等を提起する必要があります。

また、補償金請求権行使の前提になりますし(特許法65条1項)、警告書送付によって知情間接侵害(特許法101条2号、5号)の「その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら」の要件を充足することがあります。

詳しくはこちらの記事もご覧下さい。

4.警告書の送り方

上記のとおり警告書には時効の起算点となるといった法的な効果がありますので、警告書が相手方に届いた日(到達日)を立証できる方法で送付するのが望ましいです。少なくとも配達証明を付して、できれば配達証明付内容証明郵便を用いるべきでしょう。

電子内容証明サービスを利用すると、ネット経由で内容証明郵便を差し出すことができるので便利です。以下のひな形は、電子内容証明サービス用のひな形です。

5.警告書ひな形

上記をまとめた警告書(題名は「ご通知」としました)のひな形は次のとおりです。ご覧いただいた上でお役に立ちそうでしたら、ご自由にお使い下さい。

なお、このひな形についてはいかなる保証もできません。このひな形を使用したことにより損害等が生じても、一切の責任を負えませんので、ご了承のうえ、お近くの専門家にご相談いただくか、自己責任でお使い下さい。

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警告書(ご通知)の例
笠原 基広