特許出願は、特許要件を備えているか否かが特許庁において審査された後に、特許権となります。
技術分野や、先行技術の多寡によりますが、審査には一定の期間がかかります。
しかし、特許出願にかかる技術がすでに実施されている場合など、様々な理由で早期の権利化を図りたい場合があります。
そのような場合には、早期審査、スーパー早期審査及び優先審査によって、権利化までの期間を短縮することが可能です。
特許出願から審査請求まで
特許出願は、出願の日から3年以内に審査請求をする必要があります。かかる期間内に審査請求のなかった特許出願は、取下げられたものとみなされます(特許法48条の3)。
特許出願は「早い者勝ち」ですので、通常は出願までに時間的な余裕がありません。また、審査請求時には所定の費用を納付する必要があり、また、審査官との応答にも代理人費用がかかります。
よって、出願後に先行文献の存否や技術の動向などを勘案して、特許出願を権利化するのか否かの意思決定をすることも多いです。審査請求期間は、そのための猶予期間ともいえます。
出願審査請求は出願の日から3年以内であればいつでも可能ですので、早期の権利化を図る場合には出願と同時に審査請求をします。
審査請求から特許登録まで
審査請求された特許出願は、審査官により特許要件を備えているか否か審査されます。しかし、審査官は沢山の案件を抱えており、それを順番に処理していきますので、直ちに審査に着手できるわけではありません。
早期審査
しかし、特許出願人は、権利化(特許権の設定登録)までは権利行使ができませんので、実際に自身や競合他社が関連製品を上市している場合などは、早急に権利化する必要が生じます。なお、特許権の設定登録前の実施についても補償金請求権がありますが(65条)、これも特許設定登録後でなければ行使できません。
よって、一定の要件を充たす特許出願については、出願人の申請により、早期に審査を行う制度、すなわち早期審査制度が用意されています。
早期審査の対象となる出願
早期審査制度の対象となる出願は、次の6種類です。
- 実施関連出願
- 外国関連出願
- 中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
- グリーン関連出願
- 震災復興支援関連出願
- アジア拠点化推進法関連出願
実施関連出願
出願人や、その実施許諾を受けた者が発明を実施していたり、一定期間内に実施予定がある場合です。
外国関連出願
出願人が、海外にも出願している場合です。
中小企業等の出願
中小企業基本法に定める中小企業や、個人、大学等による出願の場合です。
グリーン関連出願
グリーン発明、すなわち、省エネ、CO2 削減等の効果を有する発明に関する出願の場合です。
震災復興支援関連出願
出願人が特定被災地域に住所等を有し、地震に起因した被害を受けた者であったり、地震に起因した被害を受けた事業所を有する企業の場合(当該事業所の事業としてなされた発明であることを要します)です。
アジア拠点化推進法関連出願
出願人等がアジア拠点化推進法(特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法)に基づく認定開発事業計画に従って研究開発事業を行うために特定多国籍企業が設立した国内関係会社であり、特定期間内に出願される場合です。
早期審査の手続き
早期審査には、対象となる出願の要件以外にも、早期審査に関する事情説明書の提出や、代理人の資格制限があります。
スーパー早期審査
早期審査よりさらに迅速に審査が行われる、スーパー早期審査という手続きもあります。
対象となる出願
スーパー早期審査の対象となる出願は、次の3つの要件を充たすものです。早期審査に要件が加重されています。
- 出願審査請求がされている審査着手前の出願(審査請求とスーパー早期審査の申請は同時でも可)
- 実施関連出願かつ外国関連出願であるか、ベンチャー企業による出願であって実施関連出願である
- スーパー早期審査の申請前4週間以降になされたすべての手続をオンライン手続とする出願である
スーパー早期審査の手続き
スーパー早期審査の申請も、早期審査の申請と同様です。
なお、拒絶理由通知書の発送の日から30日(在外者は2月)以内に応答をしなかったり、方式不備等の審査遅延があった場合等には、スーパー早期審査の対象外となり、通常の早期審査として取り扱われます。
優先審査
出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明を実施している場合には、優先審査が可能です(48条の6)。上記の制度と異なり、優先審査は特許法上の制度であり、「出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明を実施している」というやや厳しい要件が必要となります。
ベンチャー企業支援策
さらに、ベンチャー企業による出願かつ実施関連出願の場合には、面接活用早期審査や、ベンチャー企業対応スーパー早期審査といったベンチャー企業支援策を活用することができます。
ここでいうベンチャー企業による出願とは、出願人の一部又は全部が次のいずれかに該当する出願です。
- その事業を開始した日以後10年を経過していない個人事業主
- 常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業に属する事業を主たる事業として営む者にあっては5人)以下で設立後10年を経過しておらず、かつ、他の大企業に支配されていない法人
- 資本金の額又は出資の総額が3億円以下で設立後10年を経過しておらず、かつ、他の大企業に支配されていない法人
面接活用早期審査では、審査官との面接を通じ、特許性に関するアドバイス、特許庁のベンチャー関連施策や知財活用の実例等の紹介等を受けることによって、戦略的な特許の取得につなげることができます。
また、とにかく早期に特許を取得した場合には、スーパー早期審査を活用すべきといえます。
早期審査・スーパー早期審査の効果
2019年度における、出願審査請求から一次審査通知(First Action, FA)までの平均期間は9.5か月、権利化までの平均期間は14.3か月です。
これが、早期審査の申請からFAまでの期間となると平均2.5か月となり、スーパー早期審査の場合は平均0.6月となりますので、大幅に権利化までの期間が短縮されます。
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