他人の発明について正当な権原を有しない者(発明者でも、発明者から特許を受ける権利を承継した者でもない者)が特許出願人となっている出願を、冒認出願といいます。また、特許を受ける権利が共有にかかる場合に、共有者全員で出願されていない場合も、特許を受ける権利を有しているにもかかわらず、他人が勝手に出願をしていることになります(共同出願違反)。

このような冒認、共同出願違反は拒絶理由となり(特許法49号2号、7号)、また特許された場合も無効理由となります(123条1項2号、6号)。

真正な出願権者は、出願がまだ特許されておらず特許庁に係属している場合には、特許を受ける権利の確認請求を経て、特許出願の名義変更が可能です。また特許後は、特許権ないし共有持分権を回復するために特許権移転請求(74条1項)をすることができます。

詳細は以下をご覧下さい。

冒認出願・共同出願違反とは

特許を受けることができるのは発明者か、発明者から特許を受ける権利を承継した者のみです(特許法29条1項柱書)。また、特許を受ける権利が共有にかかる場合には、各共有者は他の共有者と共同でなければ特許を受けることができません(38条1項)。

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特許法
第二十九条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。(以下略)
第三十八条 特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。

特許を受ける権利を有しない者の特許出願は、拒絶理由(49条7号)、無効理由(123条1項6号)となります。また、共同出願要件に反する出願も、拒絶理由(49条2号)、無効理由(123条2項)となります(本記事ではこれらを併せて「冒認出願等」といいます)。

ただし、冒認出願等による特許権に対し無効審判を請求できるのは、特許を受ける権利を有する者のみです(123条2項)。

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特許法
第四十九条 審査官は、特許出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一(省略)
二 その特許出願に係る発明が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定により特許をすることができないものであるとき。
三~六(省略)
七 その特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき。
第百二十三条 特許が次の各号のいずれかに該当するときは、その特許を無効にすることについて特許無効審判を請求することができる。この場合において、二以上の請求項に係るものについては、請求項ごとに請求することができる。
一(省略)
二 その特許が第二十五条、第二十九条、第二十九条の二、第三十二条、第三十八条又は第三十九条第一項から第四項までの規定に違反してされたとき(その特許が第三十八条の規定に違反してされた場合にあつては、第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
三~五(省略)
六 その特許がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき(第七十四条第一項の規定による請求に基づき、その特許に係る特許権の移転の登録があつたときを除く。)。
2 特許無効審判は、利害関係人(前項第二号(特許が第三十八条の規定に違反してされたときに限る。)又は同項第六号に該当することを理由として特許無効審判を請求する場合にあつては、特許を受ける権利を有する者)に限り請求することができる。

真正な権利の回復

上記のように、冒認出願等は拒絶、無効となる可能性があります。

しかし、冒認出願等をされてしまった者は、冒認出願等が拒絶・無効になったとしても自身が特許権を得られるわけではありません。よって、冒認出願等をした方もされたほうも、どちらも権利を得られず、誰も得をしないことになってしまいます。

従前は冒認出願等をされた場合の権利回復についての規定が特許法になく(新規性喪失の例外を用いた特許出願が可能ではありましたが、特許出願公開から6か月以内という制限がありました)、実務上の権利回復が認められているにすぎませんでした。

そこで、平成23年特許法改正によって、特許法が整備され冒認出願等にかかる特許権の移転請求権が創設されました。

特許権の移転請求権とは

冒認出願をされた真の権利者は、冒認出願等にかかる特許権の移転を請求することができます。この移転請求が奏功し特許権が移転された場合には、最初から特許権者であったものとみなされます(特許法74条)。これは、共有持分権であっても同様です(以下同)。

特許法には、特許権の移転を請求することができるという規定となっていますが、実務上は真の権利者か否かを決定するのは訴訟による必要があります。

特許権の移転請求訴訟においてには、移転を請求する者(原告)が、真の発明者であること(又は、そのような者から特許を受ける権利を承継したこと)を主張・立証する必要があり、さらに、冒認出願の場合には、冒認出願者が発明者(ないし特許を受ける権利の承継者)でないことも立証する必要があります。

発明者の立証には、次のような事項が必要となってきます。単なる補助者、助言者、資金提供者、命令を下した者は発明者とはいえません。

発明者とは
  • 特許請求の範囲の記載によって具体化された特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想した者であること
  • 上記着想を具体化することに創作的に関与した者であること

医薬品に関する発明について、共同発明者性を争った事件でも、同様の判断基準が採用されています。

特許前に移転を請求する場合

特許法74条は「特許権」の移転請求ですので、特許権の取得前、すなわち特許を受ける権利については、特許法上に規定がありません

平成23年改正前から、特許出願が特許庁に係属中の場合には、特許を受ける権利の確認請求訴訟を提起し、確定判決をもって特許庁に手続きをすることが実務上認められていました。

上記の特許権の移転請求とは異なり「特許を受ける権利の移転請求」とはならないのは、出願名義の変更は新権利者(冒認者から権利が移転された真の権利者)の単独手続となりますので、冒認出願等をした者に対する手続の請求とはならないからです。

権利内容のコントロール

特許の権利内容は、特許請求の範囲の記載の仕方によって、大きく異なってきます。発明をどのように把握するかによって、また、特許戦略の方向性によって、特許出願の内容もかわってきます。

冒認出願の場合には、既に他人が出願した内容に基づいて権利の移転が認められるにすぎません。出願後に特許請求の範囲を補正するにしても、当初明細書に記載されていない事項を追加することはできませんので、結局は、冒認出願者が作成した当初明細書を超える権利は取得できません。

そう考えると、特許権移転請求や、特許を受ける権利の確認請求はあくまでも救済手段にとどまります。

これらの制度によっても万全な権利が回復されるわけではありませんので、重要な発明をしたときには早めに特許出願をしておくにこしたことはありません。