侵害検討の流れ
特許侵害が疑われる製品やサービスが発見された場合、以下のような流れで検討します。
(2)特許請求の範囲の分説
(5)均等侵害の検討
その1 第1要件
(6)無効理由の存否の検討
今回は、「(2)特許請求の範囲の分説」と「(3)被疑侵害製品(方法)の分説」について説明します。
特許請求の範囲の分説
被疑侵害製品が特定されると、特許発明と被疑侵害製品を比べて、被疑侵害製品が特許請求の範囲(クレーム)を充足しているかを検討します。
その手法として、特許請求の範囲を意味のある構成ごとに細かく分け、それぞれの構成について被疑侵害製品の構成が当てはまるかどうか判断していくという方法がとられています。実務上、特許請求の範囲を細かく分けたものを「構成要件」といい、分ける作業を「構成要件に分説する」などといいます。
~構成要件への分説の具体例~
※ここに掲げる特許発明は、例示のために、東京地裁判決平成29年11月30日(平成29年(ワ)第393号)で争われた、特許第5450943号「衣服の汚れ防止シート」の特許発明をモデルにした、仮想の特許発明を挙げています。
【発明の名称】衣服の汚れ防止シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布シートに20~200個/cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に成形すると共に、その表面に乾燥剤を付着させた保護シートと、この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と、から構成される衣服の汚れ防止シート。
【請求項2】
前記不織布シートに芳香剤又は清涼剤を含有させたことを特徴とする請求項1に記載の衣服の汚れ防止シート。
上記のクレームを構成要件に分説すると、次のようになります。
【請求項1】⇒これを以下「本件発明1」といいます。
A-1 不織布シートに20~200個/cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に成形すると共に、
A-2 その表面に乾燥剤を付着させた保護シートと、
B この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と、
C から構成される衣服の汚れ防止シート。
【請求項2】⇒これを以下「本件発明2」といいます。
D 前記不織布シートに芳香剤又は清涼剤を含有させた
E ことを特徴とする請求項1に記載の衣服の汚れ防止シート。
A~Eのように分けられた個々のまとまりを「構成要件」と呼び、それぞれ「構成要件A」「構成要件B」などといいます。構成要件の分説に決まったルールがあるわけではありません。日本語としてのまとまりや技術的な意味を勘案して分説します。
被疑侵害製品(方法)の分説
構成要件に分説したら、被疑侵害製品のうち構成要件に対応する構成を当てはめ、それぞれの構成要件を充足するか否かを評価する作業を行います。
このとき、下のような対比表を作成すると分かりやすいです。これは実務上もよく作成され、「クレームチャート」などとよばれています。
本件発明1 | 相手方製品 | 充足(理由)※ | |
A-1 | 不織布シートに15~200個/cm2という多数の微小孔を形成してメッシュ状に成形すると共に、 | 不織布シートは、概ね16個から20個の約1.2mmの孔があり、メッシュ状に成型されている。 | 〇~△ 1.2mmの孔は「微小孔」といえるか? |
A-2 | その表面に乾燥剤を付着させた保護シートと、 | 不織布の表面上に、均一にではないが、ところどころに何らかの物体が付着しているのが観察された。相手方製品を切り取って処理した試料からはシリカが検出された。したがって、表面にシリカが付着しているものと考えられる。 | △ 表面に観察された物体がシリカまたは乾燥剤であるとの確証は得られていない。 |
B | この保護シートの裏面に形成した粘着剤層と、 | 保護シートの裏面にアクリル系粘着剤層が形成されている。 | ○ |
C | から構成される衣服の汚れ防止シート。 | 衣服の汚れ防止シートである。 | ○ |
D | 前記不織布シートに芳香剤又は清涼剤を含有させた | 不織布シートに、「アロマタイプ」には芳香剤が、「クールタイプ」には清涼剤が含有されている。 | ○ |
E | ことを特徴とする請求項1に記載の衣服の汚れ防止シート。 | 上記A~Dのとおり。 | ○~△ 上記A~Dのとおり。 |
※〇は充足、△は検討の余地あり、×は非充足を表す。
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