特許訴訟における専門委員と裁判所調査官について

専門家

特許訴訟は裁判所の専門部で審理されます

特許の対象となる発明は基本的には最先端技術に関するものです。したがって、特許訴訟では発明の内容に関する技術的、専門的な理解が必要となります。技術の内容といっても様々であり、IT、機械、化学、製薬、生化学と、全く違う技術分野に関する特許訴訟が、裁判所では日々審理されています。

民事訴訟法の規定により、特許権等に関する専門訴訟は、東京地裁か大阪地裁の知的財産専門部で審理されます。

民事訴訟法
第六条 特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前二条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
一 東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所東京地方裁判所
二 大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所大阪地方裁判所

東京地方裁判所の知財部は民事第29部、第40部、第46部及び、第47部、大阪地裁の知財部は第21部、第26部です。特許訴訟が提起されると、これらの知財部のいずれかに配点されることになります。ただし、控訴審や審決取消し訴訟は知財高裁の1~4部に配点されます。

特許庁の審査官、審判官と異なり、裁判所の裁判官には特に専門技術分野があるわけではありません(そもそも審査官・審判官と比べて絶対数が少ないです)。裁判官は、配点された事件がどの技術分野であるかにかかわらず審理をすることになります。また、典型的な裁判官は法学部を卒業し(予備試験、ロースクールを経由し)司法試験をストレートで合格し、司法研修所でその優秀さが認められ、また自らも希望して裁判官になる方が多いように思います(あくまでもイメージです)ので、理系教育を受けられた方はまれかと思います。知財部に配属される裁判官も例外ではありません。

それでは、裁判所では技術的な論点をどのように理解しているのでしょうか。

知財事件の審理を充実させる制度として、専門委員制度、調査官制度があります。

専門委員制度について

専門委員とは

専門委員は、知財訴訟に限らず医療、建築といった専門訴訟に、裁判所の求めにより関与する専門家です。大学教授、研究者、弁理士等、各専門分野の第一人者から約200名が任命され、任期は2年です。

専門委員は、個別の事件ごとに、裁判所の決定によって指定され、争点及び証拠の整理等の手続、証拠調べの手続、和解の手続等に関与します(民事訴訟法第92条の2~7)。決定の際には当事者への求意見があります。

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民事訴訟法
第九十二条の二 裁判所は、争点若しくは証拠の整理又は訴訟手続の進行に関し必要な事項の協議をするに当たり、訴訟関係を明瞭にし、又は訴訟手続の円滑な進行を図るため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、専門委員の説明は、裁判長が書面により又は口頭弁論若しくは弁論準備手続の期日において口頭でさせなければならない。
2 裁判所は、証拠調べをするに当たり、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするため必要があると認めるときは、当事者の意見を聴いて、決定で、証拠調べの期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。この場合において、証人若しくは当事者本人の尋問又は鑑定人質問の期日において専門委員に説明をさせるときは、裁判長は、当事者の同意を得て、訴訟関係又は証拠調べの結果の趣旨を明瞭にするために必要な事項について専門委員が証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発することを許すことができる。
3 裁判所は、和解を試みるに当たり、必要があると認めるときは、当事者の同意を得て、決定で、当事者双方が立ち会うことができる和解を試みる期日において専門的な知見に基づく説明を聴くために専門委員を手続に関与させることができる。

専門委員の関与

専門委員の関与できる手続きは法定されており、例えば判決にかかる判断等には関与しませんし、その発言は判決の基礎とできる証拠とはなりません。あくまでもアドバイザー的な関与ができるに留まります。

専門委員は各手続きに立ち会ったり、当事者に発問することができます。その上で、裁判官の求めに応じ、技術的事項について説明をします。

専門委員専門委員について(裁判所ウェブサイト)

裁判所調査官

裁判所調査官とは

裁判所の審理を充実させるためのもう一つの制度として裁判所調査官の関与があります。裁判所調査官は裁判所の常勤職員で、専門的事項を調査します。知的財産に関する調査官は東京・大阪地裁、知財高裁併せて20名程度で、主に特許庁からの任期付移籍や弁理士会の推薦による弁理士のようです。

専門委員については指定の際に当事者に求意見されますが、調査官の場合には特にそのような手続きはありません。ただし、その両方について、当事者は除斥、忌避の申立が可能です。

裁判所調査官の関与

専門委員が事件毎に関与するのに対し、裁判所調査官は常勤職員ですので、知財事件全般に関与します。口頭弁論期日等での発問も可能です(民事訴訟法92条の8~9)。

調査官は、裁判官に対し、口頭や文書により調査報告をします。この報告書は非公開であり、判決文に調査官の氏名が記載されることもありません。

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民事訴訟法
第九十二条の八 裁判所は、必要があると認めるときは、高等裁判所又は地方裁判所において知的財産に関する事件の審理及び裁判に関して調査を行う裁判所調査官に、当該事件において次に掲げる事務を行わせることができる。この場合において、当該裁判所調査官は、裁判長の命を受けて、当該事務を行うものとする。
一 次に掲げる期日又は手続において、訴訟関係を明瞭にするため、事実上及び法律上の事項に関し、当事者に対して問いを発し、又は立証を促すこと。
  イ 口頭弁論又は審尋の期日
  ロ 争点又は証拠の整理を行うための手続
  ハ 文書の提出義務又は検証の目的の提示義務の有無を判断するための手続
  ニ 争点又は証拠の整理に係る事項その他訴訟手続の進行に関し必要な事項についての協議を行うための手続
二 証拠調べの期日において、証人、当事者本人又は鑑定人に対し直接に問いを発すること。
三 和解を試みる期日において、専門的な知見に基づく説明をすること。
四 裁判官に対し、事件につき意見を述べること。

両者の接近

一つの事件に専門委員と裁判所調査官の両方が関与することもあるようです。

両者はその立場を異にしますが、民事訴訟法の改正によりそれぞれの役割は接近してきているようで、どのように役割分担をしていくかには議論があるようです。