【ひな形あり】特許権、特許を受ける権利の譲渡契約の各条項について

特許権等譲渡契約について

特許権や特許を受ける権利を第三者に譲渡する場合には、譲渡契約書を締結する場合が多いかと思います。

本記事では、そのような契約の条項例と、注意すべきポイントを取り上げました。

特許権や特許を受ける権利(併せて特許権等といいます)を譲渡する契約に含まれる主要な条項は次のとおりです。

主要な条項
  1. 譲渡の対象
  2. 譲渡対価
  3. 移転登録等の手続
  4. 表明・保証
  5. 対価不返還
  6. 費用負担
  7. 協力義務
  8. 不争条項
  9. 一般条項

契約当事者の記載

甲、乙などといった、契約当事者の契約書中での名称は前文で定義する場合が多いです。条項数の多い契約書ですと「定義」条項を設ける場合もあります。

この当事者の記載は、特に権利義務関係に影響するものではないですから、当事者が好きに定義すればよいです。

一般的な契約書で当事者は甲、乙などと記載されていることが多いです。甲、乙は、契約書で最も多く使われて違和感がないですし、契約書ひな形を使い回すときに便利です。さらに、漢字一文字という短い記載ですみます。

しかし、紙に印刷された契約書を使い回す類型の契約(不動産賃貸借とか貸金契約書)であればともかく、ワープロでその都度作成するような契約書であれば、この部分を工夫してわかりやすくすべき、という意見も散見されます。特に、当事者が多い多当事者間の契約で甲乙丙丁と書かれていると、一層わかりにくくなります。

甲乙以外にも契約当事者の記載方法は各種あります。会社名の略称(例えば商号より「株式会社」などを除いた部分や、その頭文字等)で定義する場合や、当事者の地位に基づく記載とする場合(譲渡人・譲受人、賃貸人・賃借人など)があります。また、当事者の地位に基づく記載にする場合には、定義語であることを明確にするため、本譲渡人・本譲受人、というような記載にする場合もあります。

表記例長所短所
記号甲乙丙丁契約書では一般的
コンパクト
契約書を使い回せる
間違えやすい
理解しにくい
会社名等アップル
SCE
理解しやすい使い回せない
略称かつ敬称無しは失礼
地位譲渡人
譲受人
理解しやすい。
契約書を使い回せる
法律用語が難解

本記事では、理解しやすくするため当事者をその地位によって記載することにしました。特許権等を譲渡する当事者を「本譲渡人」、譲り受ける当事者を「本譲受人」とします。

前文例
株式会社●▲■と(以下、「本譲渡人」という。)と、△□○株式会社(以下、「本譲受人」という。)とは、本譲渡人の保有する特許権等の譲渡に関し、次のとおり契約を締結する。

主要な条項と解説

譲渡の対象

本契約における譲渡の対象となる権利を特定します。出願後であれば、出願番号・特許番号と発明の名称、出願前であれば発明の内容を特定できる事項(発明届出番号や概要)で特定します。また、特許権等譲渡契約で最も中核的な権利義務となる、権利の譲渡を明確に記載します。

条文例

本譲渡人は、本譲渡人の保有する次の特許権及び特許を受ける権利(以下、「本特許権等」という。)を、本譲受人に対し譲渡する。

特許番号 特許第1234567号
発明の名称 ●●●を●●●する機器、及びその方法

特許出願番号 特願●●●●-●●●●●●
発明の名称 ××××の製造方法法

譲渡対価

譲渡の対価及びその支払方法・条件を記載します。

条文例
本譲受人は、本譲渡人に対し、本特許権等の譲渡対価として金____円(消費税含)を、本契約締結の日より7日以内に、本譲渡人の別途指定する銀行口座に送金する方法によって支払う。振込手数料は本譲受人の負担とする。

移転登録等の手続

譲渡による特許権の移転は登録原簿に記録されることによって(特許法98条)、出願後における特許を受ける権利の移転は特許庁長長官へ届け出ることによって、法律上の効力が生じます(特許法98条、34条4項)。すなわち、登録や届出が効力発生要件であり、登記が第三者対抗要件である土地の譲渡等とは事情が異なります。

出願前における特許を受ける権利の移転は、特許出願が第三者対抗要件です(34条1項)。

いずれにせよ、譲受人は速やかに必要な手続をする必要がありますので、そのような手続への譲渡人の協力義務を規定しておくのが重要です。以下例文では対価支払いを先履行としています。

なお、書類一式の交付の場所を規定したり、譲渡証といった具体的な書類名を例示列挙しておくのがなお望ましいです。

条文例
本譲渡人は、本譲受人が本特許権等の対価を支払った後直ちに、本特許権等の移転手続に必要な書類及び本特許権等の出願に関する書類一式を、本譲受人に対し交付する。

表明・保証

譲渡人が譲渡しようする特許権、特許を受ける権利に拒絶理由や無効事由がないことを保証することは困難です。

しかし、出願前に実は公に実施していた、というような譲渡人のみが知りうる特許無効理由が隠れていることがありえます。

また、特許について通常実施権が設定されている場合、実施権者は特許権の譲受人にもこれを当然に対抗できます(99条)。単なる通常実施権ではなく、独占的通常実施権や、再実施権付通常実施権が設定されている場合、実施権者がこれを譲受人(新たな特許権者)に対抗できるかどうかは未だ解釈に任されていますが、すくなくともそのような実施権が設定されている特許権の譲渡については、対価の額等がかなり異なってくるものと思われます。

しかし、譲受人は特許権等について無効理由があることや法的な制限があることを契約段階では知り得ません。そこで、契約時点で無効審判請求がされていないことや、譲渡後に第三者が権利を主張してくるようなことがないことなど、譲渡人が知りうる事項については保証をしておくと、譲受人も安心です。

よって、特許権等について譲渡人が知っている事項について表明・保証をすることがよく行われています。

この表明・保証に反している場合には、即時契約解除をできる旨の規定も入れておくとより安心です。

条項例
1 本譲渡人は、本譲受人に対し、本契約締結の時点において、次の各号が真実であることを表明し、これを保証する。
  ⑴  本特許権等が有効に存在しており、拒絶査定、取消決定、無効審決及び取消・無効の判決が存在していないこと
  ⑵  本譲渡人は、本特許権等の全部を譲渡する真正かつ完全な権原を有し、当該譲渡についていかなる制限も存在しないこと
  ⑶  本譲渡人の知る限り、拒絶、無効又は取消理由(以下、「無効理由等」という。)が存在しないこと
  ⑷  本特許権等の無効理由等について、第三者からいかなる通知、指摘又は示唆もされていないこと
  ⑸  本特許権等の有効性又は帰属を争う申立、訴訟、仲裁、審判、調停その他の手続が開始されていないこと
  ⑹  本特許権等に、第三者の担保権又は実施権を設定していないこと

 

2 本譲渡人が前項各号の表明保証に違反した場合には、本譲受人は直ちに本契約を解除することができる。

対価不返還

特許権はいつ無効になるかわかりません。特許権を第三者に対し行使しようとして、特許権侵害訴訟中で特許無効の抗弁が成立する例も多いです。

特許が無効審判によって無効になった場合、特許権ははじめから存在しなかったものとみなされます(125条)。つまり、譲受人は何の権利も得られなかったことになります。

特許が無効になった場合には、譲受人が不当利得や契約の錯誤無効を主張して対価の返還を要求することがあり得ます。このような紛争を事前に防止するため、対価の不返還条項を設けることがあります。ただし、債務不履行、表明保証違反、反社条項違反などで解除された場合にまで対価返還を拒めるとすると不合理ですので、そのような場合は除外します。

条文例
本契約に基づき本譲受人から本譲渡人に支払われた金員は、本特許権等の移転手続完了後においては、いかなる理由があっても一切返還しない。ただし、本契約が有効に解除された場合及び誤計算等の明白な過誤の場合はこの限りでない。

協力義務

無効審判や訴訟において、譲り受けた特許権等の有効性が争わされた場合、その特許権等に関する技術を知悉している発明者や元出願人の協力が必要な場合があります。そのような譲渡人の協力義務を定める場合があります。

条文例
本特許権等の有効性が争われた場合、本譲渡人は、本譲受人の要請により、必要かつ合理的な範囲で協力する。

不争義務

特許権等を譲渡した後に、その特許権等の事情を知悉している譲渡人にその有効性を争われないよう、不争義務を設けることがあります。

条文例
本譲渡人が、本特許権等の有効性を直接又は間接的に争った場合には、本譲受人は直ちに本契約を解除することができる。

一般条項

他の契約同様、一般条項として秘密保持、解除条項、反社条項、合意管轄(知財部のある東京地裁か大阪地裁にするのがよいと思います)の規定などを設けます。

ひな形例

上記をまとめた特許権等譲渡契約書のひな形は次のリンクよりダウンロード可能です。ご覧いただいた上でお役に立ちそうでしたら、ご自由にお使い下さい。なお、このひな形についてはいかなる保証もできません。このひな形を使用したことにより損害等が生じても、一切の責任を負えませんので、ご了承のうえ、自己責任でお使い下さい。

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