特許出願の分割について

特許出願は一定期間内に限り、一定の要件の下で分割することができます。

先になされた特許出願(親出願)を分割して特許出願(子出願)をする場合には、親出願の特許請求の範囲に記載されていないが、明細書には記載されているような発明について、新たに特許出願をすることが可能となります。

この場合、親出願と子出願はどちらとも出願が係属することになります。

分割された特許出願は、分割される前の出願(現出願)の出願時に出願されたものとみなされます。

特許出願を分割する主な理由・メリットとしては、例えば次のようなものが挙げられます。

分割の理由
  • 競合他社や市場動向に合わせて権利行使をしやすくするため
  • より広く強い権利範囲を確保するため

特許出願を分割できる時期

出願人が特許出願を分割できる時期は限られています。

補正をすることができる期間(44条1項1号)、特許査定謄本送達日(拒絶査定等がされた後の特許査定を除く)から30日以内(2号)、最初の拒絶査定謄本の送達日から3月以内(3号)です。

出願から最初の拒絶理由通知まではいつでも補正可能ですので分割出願できますが、拒絶理由通知後は補正の機会は限られてきますので、特許出願を分割できる機会も限定されます。

また、補正可能期間以外に分割できる期間は上記の2種類のみです。

分割の範囲

子出願の特許請求の範囲に記載できるのは、親出願の当初明細書又は図面に記載されていた事項に限られます。また、子出願の請求項、図面、明細書に記載できる事項も、親出願のそれらに含まれているものに限られます。

新たな事項を加えて分割出願をすると適式な分割出願とはなりませんので、子出願は現実の出願日に出願されたことになってしまいます。その場合、子出願記載の発明は、親出願の特許出願公開で公知となっているとして拒絶されることが多いでしょう。

なぜ分割出願をするのか

分割出願にはメリットがあります。

子出願は親出願の出願時に出願したものとみなされますので、新規性、進歩性等は親出願日を基準として判断されます。また、分割出願時の特許請求の範囲については、補正の場合と異なり、ある程度の柔軟性があります。

分割出願の戦略的なメリットについては様々な切り分け方が可能ですが、本稿では2つの点に絞ってご紹介します。

権利行使をしやすくするための分割出願

特許出願される発明は、(少なくとも主観的には)新規性・進歩性があり、それまで世界に存在しなかったようなものですから、出願時点では最先端の技術です。

よって、出願時にはどの発明が将来有望か見通すのは困難です。よって、出願人は、いろいろな発明のバリエーションを特許出願明細書に記載します。

そして、特許出願審査中に明らかになった市場や競合他社の状況から、有望となった発明について分割出願して、権利行使しやすくするようなケースがよく見られます。特に、知財部(と予算)が充実している大企業が積極的にそのような戦略をとることも多いように思います。

例えば、上記の図の例では、出願当時は有力と思われた発明Aを請求項に記載し、バリエーションとして発明B、Cを明細書中に記載していたところ(請求項には記載していない)、権利行使段階では発明Bが有力になってきたので、これを分割出願した、というような場合です。

また、競合他社が発明Bに近い態様を実施していることがわかったので、これを権利化しておきたいような場合もあるでしょう。このように、権利行使のターゲットとする相手企業の実施態様がわかっている場合には、権利行使がしやすくなるよう、その実施態様に合わせた請求項で分割出願をするような場合もあります。

しかし、権利行使のために無理な出願分割をした結果、分割要件違反として出願日が遡及せず無効と判断され、権利行使に失敗している事例も散見されます。分割出願に係る特許権に基づく権利行使があった場合には、分割要件について慎重に検討すべきといえます。

より広く強い特許とするための分割出願

特許出願の内容は特許庁で審査され、拒絶理由があればこれが通知されます。出願人は、特許請求の範囲を補正(減縮)などして拒絶理由を回避する努力をします。

なるべく広い範囲の発明で特許を取ろうと欲張った結果、拒絶されてしまうともったいないですので、減縮した請求項でまずは権利化を図り、減縮していないものを別途分割出願すると、より広い範囲の発明で特許化を探ることが可能となります。

下図で、発明Aが独立の発明(独立請求項)、発明Bが発明Aに従属する発明(従属請求項)の場合、発明Aの権利化が難しそうなのが判明したときに、親出願で発明Bを補正して独立請求項にしてまずは早期権利化を図り(請求項Aは削除します)、子出願で発明Aに若干の補正を加えて更なる権利化に挑戦することが可能となります。

また、いきなり特許査定になってしまうような特許出願も、特許査定の段階で分割出願することによって。権利範囲を再考することが可能となります。

分割出願の活用

分割出願をすると、出願費用は余計にかかりますが、メリットも少なくありません。

重要な発明や、競合他社が実施していそうな発明については、戦略的な分割出願を検討してみるべきでしょう。

笠原 基広