ドメイン名と商標
世界中のどこからでもアクセスできるウェブサーバ等には、一意のIPアドレスが付与されています。しかし、IPアドレスは無味乾燥な0~255までの数字4で表されるもので覚えにくいため、これをアルファベット、数字、記号からなる意味のあるドメイン名と対応させる場合がほとんどです。例えば、本サイトのドメイン名は「chizai-faq.com」です。
当然ながらドメイン名は一意のものであり、ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)をはじめとする国、組織の機関で管理されています。
ドメイン名には、登録者が任意に選択できる部分(セカンドレベル又はサードレベルドメイン)があり、取得は基本的には早い者勝ちです。属性型ドメイン、例えば国内の会社が取得できる「●●.co.jp」や、政府機関等が取得できる「●●.go.jp」のような属性型ドメインについては、属性に関する審査はされるようですが、セカンドないしサードレベルドメインを使用できる正当権原を有するか、というような実体的な審査は行われません。
ところで、不正競争防止法では、図利加害目的で、他人の特定商品等表示と同一・類似のドメイン名を取得等する行為は、不正競争行為とされています。
それでは、他人の登録商標に類似するドメイン名を取得して、ウェブサイトを運営したり、当該ドメイン名を印刷媒体等に使用すると、商標権を侵害するでしょうか。
ドメイン名と商標の役割の重複
商標とは、業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの、及び、業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするものです(商標法2条1項1号、2号)。他方でドメイン名はインターネット上の住所として用いるものですので、基本的には商品・役務について使用をするものではありません。
しかし、商品・役務に関するウェブサイトであれば、ドメイン名を商品名等と同じものにすることはよく行われています。そのような場合には、商標とドメイン名の役割が一部重複する事になります。
商標とドメイン名の類否
まず、ドメイン名の使用が商標権を侵害するか否かを判断するには、両者の類否が問題となります。
ドメイン名は単体で表示するよりも、URLとして使用するのが通常です。URLは、プロトコル名を表す「https://」の部分、ホスト名を表す「www」の部分、トップレベルドメイン(TLD、Top Level Domain)を表す「.com」の部分や、TLDとセカンドレベルドメイン(2LD、Second Level Domain)を表す「co.jp」「or.jp」といった部分や、ディレクトリ名、ファイル名を含みます。
商標の類否は外観、称呼、観念といった要素の類否を中心に、取引の実情も考慮して判断します。URLに含まれるプロトコル名、ホスト名、トップレベルドメイン等の部分には特に観念、称呼は生じず、出所識別力はありませんので、類否はこれ以外の部分、すなわちセカンドレベルないしサードレベルドメインの類否により判断されることになります。
よって、登録商標と、セカンドレベルないしサードレベルドメインが類似する場合は、商標の類似性は肯定されそうです。
商標の使用とは
登録商標と同一・類似するドメイン名を使用することが商標権を侵害するか否かは、ドメイン名を使用する行為(例えば、商標と類似するドメイン名でウェブサイトを提供する行為)が、商標法上の商標の「使用」にあたるか否かが、問題となります。
商標の「使用」行為は、商標法2条3項に列挙されています。
条文を見る
(1、2項省略)
これについては、次の記事もご覧下さい。
例えば、商品の包装にドメイン名を印刷すると「商品又は商品の包装に標章を付する行為」(2条3項1号)に該当しそうです。
商標的使用とは
商標法は、商標権が及ばない商標について規定しています(26条1項各号)。
特に「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」、すなわち、「商標的使用」をされていない商標については、形式的には上記「使用」行為に該当する場合であっても、商標権の効力は及びません(26条1項6号)。
よって、登録商標と同一・類似のドメイン名を3条1項各号の「使用」に当たるような態様で使用しても、「商標的使用」でなければ商標権を侵害しません。
ドメイン名の使用が、「商標的使用」であるか否かは、使用の態様が広告的機能を発揮しているか、商品・役務の識別機能を発揮しているかなどに基づいて、ケースバイケースで判断することになります。
例えば、原告の登録商標と類似するドメイン名でウェブサイトを提供したり、ドメイン名を包装紙等に付していた被告が、単にホームページアドレスを表示していたに過ぎないと主張した事案において、裁判所は、次のように認定し、ドメイン名の商標的使用を認定しました。
その結果、当該ドメイン名の被告ウェブサイト等における使用や包装等への表示の差止めが認められています(大地判平成23年6月30日・平成22(ワ)4461、大高判平成25年3月7日・平成23(ネ)2238等)。
- ドメイン名が、被告商品の保冷バッグや包装用紙袋に表記されているほか、商標的使用をされている被告標章と共にトラックの車体広告に記載されており、広告的機能を発揮しているといえる
- 社名を冠したドメイン名を使用して、ウェブサイト上で、商品の販売や役務の提供について、需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し、あるいは注文を受け付けている場合、当該ドメイン名は、当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や役務の出所を識別する機能を有しており、商標として使用されているといえる
他人の登録商標に類似するドメイン名のリスク
以上のとおり、他人の登録商標に類似するドメイン名を使用すると、その態様によっては、他人の商標権を侵害するリスクがあります。
ただし、商標的使用であるかどうかは、ドメイン名の使用態様によって広告的機能や自他商品識別機能を発揮しているか否かを、ケースバイケースで判断する必要があります。
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