位置商標とその例
平成26年商標法改正によって、位置商標が登録可能になりました。
位置商標とは、文字や図形等の標章を商品等に付す位置が特定される商標のことをいいます。
標章それ自体では識別力を有さない場合、商標登録することができませんが、位置を指定することによって識別力を獲得することがあります。そのような場合に、位置商標として商標登録可能となります。
最近登録された位置商標の例としては、次のようなものが挙げられます。
商標登録第6305813号
権利者:(株)松屋フーズホールディング
商品・役務区分:43
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、広告物としての店舗におけるガラス窓や壁面の上部に付された図形からなる。図中の黒い破線で囲んだ箇所が位置商標の位置を示している。この破線で囲んだ箇所以外は、店舗の形状等の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。商標は、上から順に橙色、紺色、橙色の帯状の図形を組み合わせたものからなり、配色の割合は、上から順に橙色46.5%、紺色7%、橙色46.5%となっている。
商標登録第6183484号
権利者:プーマ エスイー
商品・役務区分:25
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下、「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、商品「履物及び運動用特殊靴」の側面に付された図形からなる。なお、破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。
商標登録第6177554号
権利者:わかもと製薬(株)
商品・役務区分:5
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、商品の包装用箱の一面の中央付近やや上方寄りの部分に、当該一面の全高の約3分の1の範囲を占めるよう位置する、赤色及び黒色で表された文字からなる。なお、包装用箱の形状を表す破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。
位置商標の識別力と類否判断
位置商標は標章の位置を特定した商標です。商標自体に自他商品識別力がある場合、本来であれば位置を特定する必要はありません。よって、標章自体に識別力がある場合はその位置にかかわらず識別力があるとされ、標章自体に識別力が無い場合には、標章と、その標章が付される位置を総合して、商標全体として識別力を判断します。
ところが、本来識別性のない標章にもかかわらず、単に標章の位置を特定することのみで直ちに識別性を獲得するのは困難です。結局は、標章自体に識別力の無い場合は、標章が特定の位置で使用され続けたことによる、使用による識別力の獲得が重要となってきます。
また、位置商標は、標章と位置が相まって識別力を獲得しますので、類否判断には位置の要素も考慮されます。ただし、位置だけでは識別力はありませんので、位置のみによる類否判断はされません。
くし(カットコーム)に関する位置商標
知高判令和2年8月27日・令元(行ケ)10143号
位置商標の識別力について判断した裁判例を紹介します。
事案の概要
原告はくし(カットコーム)に関する位置商標の商標登録出願をしました。
商願2016-34650
商標の詳細な説明:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、複数本の櫛歯を有する毛髪カット用くしのくし本体の長辺方向の中央を除いた左右部分に、それぞれ一定間隔で横並びに配された楕円型にくりぬかれた貫通孔を組み合わせた図形からなる。なお、破線は、商品の毛髪カット用くしの形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。
この商標登録出願について、特許庁は「本願商標の指定商品の分野においては、需要者の目を引くための装飾等を目的として、くし素材をくりぬいて文様を表したものが多く販売されている実情がある」として、商標法第3条第1項第6号違反(識別力無し)として、拒絶査定をしました。そして、審決でも拒絶査定が維持されたことから、原告は審決の取消しを求めて訴訟を提起しました。
識別力とは
まず、知財高裁は位置商標の識別力について、次のような判断を示しました。
- 商標の持つべき本質的機能は、商品又は役務の出所識別標識として機能すること(以下、この機能を「識別力」という。)であるから、需要者に対し、当該商品が何人かの業務に係るものであることを認識させるものであることを要し、かつ、それで足りる
- 位置商標の識別力は、位置商標を構成する標章とその標章が付される位置とを総合して、商標全体として考察すべき
そして、本願商標の需要者については、カットコームの購入に特に資格が不要なことから、一般消費者を想定すべきとしました。
本件商標の識別力
知財高裁は、次のとおり述べて本件商標の背面部の貫通孔は、機能向上のためのものであり、識別標識ではないとしました。
整髪又は調髪に用いる櫛は、理美容道具としての性格上、その機能性が重視されるものと考えられるところ、取引の実情においても、櫛の背骨部の位置に一定間隔で模様、窪み又は貫通孔等を設けることにより、それらを目盛り代わりに用いる、指のすべり止めとしての機能を果たさせる、しなりを生み出し、使いやすさを向上させるなどといった、機能向上のための工夫がされ、それらの工夫が宣伝されている実情があることが認められる(乙5~17)。したがって、カットコームの背面部の貫通孔も、一般的には、機能向上のための工夫として認識されるのが通常であり、自他商品の識別標識としての特徴であると理解されるものではないといえる知高判令和2年8月27日・令元(行ケ)10143号
さらに、「本願商標の構成は、指定商品の需要者として想定される一般消費者の注意力に照らしてみたとき、構成自体として、識別力を備えたものとはいえない」として、識別力を否定しました。
- 背面部の貫通孔は、機能向上のための工夫として認識される
- 本件商標は、一般消費者の注意力に照らしてみたとき、識別力を具備しない
そして、使用による識別力も獲得していないとして、審決を維持しました。
エバラ焼き肉のたれの容器に関する位置商標
知高判令和2年12月15日・令2(行ケ)10076号
事案の概要
原告は、次の焼き肉のタレに関する位置商標を商標登録出願しました。
商願2015-47397
商標の詳細な説明:
商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、商品を封入した容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配された立体的形状からなる。前記立体的形状は容器周縁に連続して配された縦長の菱形形状であり、各々の菱形形状は中央に向かって窪んでいる。なお破線部分は商品容器の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。
しかし、原告の商標登録出願は、、商品の包装の形状を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるものであり商標法第3条第1項第3号に該当するとして拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判でも拒絶査定を維持する審決がされましたので、その審決の取消しを求めて提訴しました。
商品の形状は原則的に登録できない
裁判所は、次の理由で、「商品等の形状は、同種の商品が、その機能又は美観上の理由から採用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り、普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標として、商標法3条1項3号に該当する」としました。
「商品等の形状は、多くの場合、商品等に期待される機能をより効果的に発揮させたり、商品等の美観をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって、その反面として、商品・役務の出所を表示し自他商品・役務を識別する標識として用いられるものは少なく、需要者としても、商品等の形状は、文字、図形、記号等により平面的に表示される標章とは異なり、商品の機能や美観を際立たせるために選択されたものと認識するものであり、出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多い」
「商品等の機能又は美観に資することを目的とする形状は、同種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを必要とし、その使用を欲するものであるから、先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独占させることは、公益上の観点から適切でない」知高判令和2年12月15日
本件位置商標は普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標か
裁判所は、本件位置商標に「格別に斬新な特徴があるとはいえ」ず、その位置を考慮しても出所識別機能は認められないとしました。
「包装容器の表面に付された連続する縦長の菱形の立体的形状は、焼き肉のたれの包装容器について、機能や美観に資するものとして、取引上普通に採択、使用されている立体的な装飾の一つであり、その位置は、包装容器の上部又は下部が一般的である上に、その形状に、格別に斬新な特徴があるとまではいえない」
「本願商標は、容器の胴部中央よりやや上から首部にかけて配されており、指定商品が焼き肉のたれであることからすると、その下に商品名等が記載されたラベルが貼付されることは容易に予測されるものであり、そのような観点からしても、本願商標を構成する立体的形状は、需要者及び取引者において、出所の識別ではなく機能や美観に資するものとして採択、使用されていると認識されるもの」知高判令和2年12月15日
本件位置商標は使用による識別機能を獲得したか
裁判所は、商品の自他商品識別機能を果たしているのはラベルであり、本件商標は出所表示標識としては認識されにくいのだから、販売実績、宣伝広告、アンケート等によっても、本件商標の自他商品識別機能の獲得は認められないとしました。
「本願商標が、焼き肉のたれの包装容器について機能や美観に資するものとして取引上普通に採択、使用されている立体的な装飾の一つである連続する縦長の菱形の立体的形状からなり、ラベルに近接した位置に配置され、ラベルが強い印象を与える反面でラベル以外の出所を表示する標識としては認識されにくい状況にあることからすると、本願商標使用商品において、本願商標を構成する立体的形状が出所を識別させる標識として認識されるとは認められない」」知高判令和2年12月15日
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