出所の混同
ある商標と、それと同じか類似である商標の2つの商標が存在する場合、消費者は、一方の商標を使用している事業者Aの商品について、他方の商標を使用している事業者Bの商品であると誤って認識してしまう可能性があります。これを、出所の混同といいます。
また、ある商品又は役務同士が同じか類似である場合も、同様にこの出所の混同が生じる可能性があります。
商標法はこのような出所の混同を避けるため、登録について一定の定めを置いています。
異なる日に類似の商標等の出願があった場合の扱い
商標法は、①同一又は類似の商品又は役務について使用をする②同一又は類似の商標について、異なった日に複数の商標登録出願があった場合は、先に出願した者が商標登録を受けることができるとしています(商標法第8条第1項)。
①及び②は一見わかりにくく見えますが、以下の組み合わせの商標出願を表しています。
(ⅰ)同一の商品又は役務について使用をする同一の商標についての商標出願
(ⅱ)同一の商品又は役務について使用をする類似の商標についての商標出願
(ⅲ)類似の商品又は役務について使用をする同一の商標についての商標出願
(ⅳ)類似の商品又は役務について使用をする類似の商標についての商標出願
これらの関係にある商標出願については、いずれもが登録を受けられるということにはならず、先の日に出願をしたものだけが登録を受けられることになります。両方を登録すると、出所混同のおそれがあるためです。
なお、「登録を受けられる」とありますが、これは他の出願との関係について述べたものであるに留まるため、登録を受けるためには当然、他の要件を満たすことが必要です。
同日に類似の商標等の出願があった場合の扱い
また、商標法は、同じ日に前記の(ⅰ)から(ⅳ)までの出願があった場合について、出願した者のうち協議により定めた一の者のみが商標登録を受けることができると定めています(同2項)。
そして、協議が成立しなかった場合、又は、指定された期間内に協議の結果の届出がなかった場合については、「公正な方法によるくじ」によって商標登録を受けることができる一の者を定めるとしています(同5項)。
「公正な方法によるくじ」を採用する理由
協議が成立しない場合、いずれもが商標登録を受けられないことにしてもよさそうに思えます。例えば特許法も先願主義ですが、同日出願の場合は協議となり、協議不調時にはいずれの特許出願人も特許を受けることができません(特許法第39条4項)。
商標法がこのような定めを置かなかったのは、いずれもが商標登録を受けられないとすると、その後に同様の商標登録出願をした者が登録を受けることができてしまうためです。
商標法は、商標出願が「放棄され取り下げられ若しくは却下されたとき、又は商標登録出願について査定若しくは審決が確定したとき」には、その出願が初めからなかったものとみなされるとしています。つまり、上記のような理由で登録を受けられないこととなった場合には、そのような出願自体が存在しなかったと扱われるということです。この規定により、同日出願があった後の同様の出願も、前に同じような同様の出願があった、という理由によっては出願が拒絶されず、登録に至ることとなってしまうのです。
くじが用いられる場合
通常、同日出願があった場合には協議が成立することが多く、くじ引きになることは多くありません。
したがって、くじ引きは商標法の手続の中で非常に珍しいものということができます。
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