1.パロディ商標とは

他人の有名な登録商標をもじった「パロディ商標」が話題になることがあります。そのような「パロディ商標」は商標法上どのような問題があるでしょうか。

商標法や商標の審査基準には「パロディ商標」の定義はありませんので、一般的な定義を参照してみます。例えば広辞苑では「パロディー」を次のように定義してます。

パロディとは

パロディーparody

文学作品の一形式。よく知られた文学作品の文体や韻律を模し、内容を変えて滑稽化・諷刺化した文学。日本の替え歌・狂歌などもこの類。また、広く絵画・写真などを題材としたものにもいう。(新村出編『広辞苑』第 7 版、岩波書店)

この定義を商標に敷衍すれば、パロディ商標とは、よく知られた商標を模し、内容を変えて滑稽化・風刺化した商標、ということになるでしょうか。

2.パロディ商標の商標法上の問題点

商標登録の審査においてはパロディ商標だからといって特段の考慮がされることはなく、単に商標登録要件を充足しているか否かで登録の可否が判断されます。

パロディ商標はその性質上既存の有名な商標に類似したものにならざるを得ません。また、有名な商標を模することによって公序良俗に反したり不正使用目的があるとされることもあるでしょう。

すなわち、パロディ商標を商標登録出願する場合には、必然的に次の不登録事由に該当しないかが問題になります。

パロディ商標で問題となる商標不登録事由
  • 公序良俗を害するおそれがある商標(商標法4条1項7号)
  • 周知商標(未登録)と類似し、指定商品・役務が類似する商標(同10号)
  • 先願の登録商標と類似する商標(同11号)
  • 他人の商品・役務と出所混同の虞れのある商標(同15号)
  • 周知商標と類似し、不正目的で使用される商標(同19号)

なお、パロディはその対象を「滑稽化・風刺化」するようなものですから、パロディ商標についてオリジナルの有名商標の商標権者から使用許諾を得ることは難しいケースが多いと思われます。

3.パロディ商標の事例

パロディ商標の不登録事由は実際にはどのように判断されているでしょうか。近時の裁判例から概観します。

3.1 フランク三浦事件

3.1.1 事案の概要

本件商標

指定商品 第14類 時計、宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品、キーホルダー、身飾品

引用商標

フランク ミュラー

(標準文字)

引用商標1 商標登録第4978655号

指定商品 第14類   貴金属(「貴金属の合金」を含む。),宝飾品,身飾品(「カフスボタン」を含む。),宝玉及びその模造品,宝玉の原石,宝石,時計(「計時用具」を含む。)

引用商標2 商標登録第2701710号

指定商品 第14類   貴金属(「貴金属の合金」を4978655含む。),宝飾品,身飾品(「カフスボタン」を含む。),宝玉及びその模造品,宝玉の原石,宝石,時計(「計時用具」を含む。)

引用商標3 国際登録第777029号

指定商品 Class 14   Precious metals, unwrought or semi-wrought; personal ornaments of precious metal; key rings[trinket or fobs]; services [tableware] of precious metal; kitchen utensils of precious metal; jewellerry, precious stones, timepieces and cronometric instruments.

この事件は、広く知られている高級な時計「フランク ミュラー」を販売等していた会社「エフエムティーエム ディストリビューション リミテッド」(本稿では便宜上「フランクミュラー」とよびます)が、インターネットや店舗等において商標「フランク三浦」(ただし「浦」の字が誤っている)を付して、「フランク ミュラー」の特徴と類似する時計を販売等していた会社に対し、「フランク三浦」商標の商標登録を無効とした特許庁の審決の取消しを求めたものです。

本件では対象となる商標「フランク三浦」(以下「本件商標」といいます)が次の不登録事由に該当しないかが問題となりました。

問題となった不登録事由
  • 周知商標(未登録)と類似し、指定商品・役務が類似する商標(商標法4条1項10号)
  • 先願の登録商標と類似する商標(同11号)
  • 他人の商品・役務と出所混同の虞れのある商標(同15号)
  • 周知商標と類似し、不正目的で使用される商標(同19号)

3.1.2 商標「フランク三浦」は引用商標と類似するか

最高裁判所の判例では、商標の類否は「外観」「観念」「呼称」によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、さらに、その商品の取引の実情を明らかにしうるかぎり、その具体的な取引状況に基づいて判断するとされています。

本件で、まず裁判所は本件商標と引用商標1は呼称において類似すると判断しました。

しかし、外観について、本件商標は手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせた構成から成るのに対し、引用商標1は片仮名のみの構成から成るものであるから、本件商標と引用商標1は、その外観において明確に区別し得るとして、非類似としました。

また、観念については、本件商標からは「フランク三浦」との名ないしは名称を用いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対し、引用商標1からは、外国の高級ブランド「フランク ミュラー」商品の観念が生じるから、両者は観念において大きく相違するとしました。

よって、本件商標と引用商標1は、外観と観念が異なり、称呼は類似するもののそれのみで出所が識別されるような事情もないから、商品の出所について誤認混同を生じる虞れはないとして、両者を非類似と判断しました。

さらに、引用商標2及び3についても同様の理由で、本件商標とは非類似と判断しました。

よって、裁判所は、本件商標は引用商標1~3とは類似しないから、「周知商標(未登録)と類似し、指定商品・役務が類似する商標(商標法4条1項10号)」「先願の登録商標と類似する商標(同11号)」「周知商標と類似し、不正目的で使用される商標(同19号)」には該当しないと判断しました。

3.1.3 「フランク三浦」は引用商標と出所混同の虞れがあるか

裁判所は、前記と同様に本件商標と引用商標には称呼が類似し、外観、観念が相違することを指摘しました。また、本件商標の指定商品については、商品の出所を識別するに当たり、商標の外観及び観念も重視されるとしました。

さらに「フランクミュラー」が日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないことに照らすと、本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても、本件商標を上記指定商品に使用したときに、当該商品(パロディ時計)がフランクミュラー又はフランクミュラーと一定の緊密な営業上の関係若しくはフランクミュラーと同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとはいえない(=誤信されるおそれはない)としました。

3.1.4 パロディ商標であることは判断に影響したか

フランクミュラーは、パロディは通常、真似された側の承諾があるという前提のもとに成り立っているが、本件ではそのような関係がないにもかかわらずパロディの時計が販売されており、需要者は「フランク三浦」商品がフランクミュラーから何らかの許諾を得て販売されていると誤認するから、混同の虞れがあると主張しました。しかし、裁判所は、パロディであるか否かにかかわらず商標法上の不登録要件に該当するか否かを判断すべきであり、また、そもそも「パロディについては、通常、真似された側の承諾がある」という前提が存在することを認められる証拠もないとしました。

このように、裁判所はパロディ商標であるか否かには頓着せず、商標法上の不登録事由に該当するか否かを粛々と判断しています。

3.2 シーサー事件1

3.2.1 事案の概要

本件商標

指定商品 第25類   Tシャツ,帽子

引用商標

指定商品 第25類   被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴

本件は、スポーツ用品で有名な「プーマ エスイー」(プーマ社)が、沖縄の土産物屋さんで売られるTシャツ、タオル等に付される「シーサー商標」がパロディ商標であるなどと主張して、商標登録無効審判請求をしたところ、これが不成立(商標登録維持)とされたため、知財高裁に審決取消を求めたものです。

本件では、商標法4条1項11号(先願の登録商標と類似する商標)、15号(他人の商品・役務と出所混同の虞れのある商標)、7号(公序良俗を害するおそれがある商標)への該当性が問題となりました。

3.2.2 本件商標の取消事由について

裁判所は、本件商標と引用商標の外観について、本件商標の内部の模様などに差異があるが、全体のシルエットは似ており、外観全体の印象は相当似通っているとしました。

また、本件商標からは何らかの四足動物の観念が生じ、特定の称呼は生じないが、引用商標からは、「PUMA」ブランドの観念「プーマ」の称呼が生じる点で異なっているところ、本件商標から何らかの四足動物以上に特定された観念や、特定の称呼が生じ、それが引用商標の観念、称呼と類似していない場合と比較して、その違いがより明確であるということはできないと認定しました。

さらに、引用商標の指定商品と、本件商標1の商品は関連しており、取引者、需要者にも共通性が認められるとしました。

これら事情を総合考慮して、裁判所は、本件商標の指定商品たるTシャツ、帽子の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、本件商標を指定商品に使用したときに、当該商品がプーマ社又はプーマ社と一定の緊密な営業上の関係若しくはプーマ社と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとして、本件商標の登録は商標法4条1項15号に違反すると認定し、取消事由を認めました。

なお、次の登録商標についても、同日に判決があった別事件で同様の判断がされています(知高判平成31年3月26日・平成29(行ケ)10206 審決取消請求事件 )。

商標登録 第5392943号

指定商品 第25類   Tシャツ,帽子

3.3 シーサー事件2

本件商標

指定商品 第25類   Tシャツ,帽子

引用商標

指定商品 第25類   被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴

この当事者間では複数の審決取消訴訟が提起されており、上記の件も本件もその1つです。ここでも、本件商標の商標法4条1項11号(先願の登録商標と類似する商標)、15号(他人の商品・役務と出所混同の虞れのある商標)、7号(公序良俗を害するおそれがある商標)への該当性が問題となりました。

この商標について、裁判所は外観、観念(「シーサー」v.s.「ピューマ、PUMAブランド」)、称呼(「シーサーなど」v.s.「ピューマ」)がいずれも異なるため、出所の誤認混同が生じるおそれはないとして、11号、15号該当性を否定しました。

また、公序良俗違反については、商標の不登録事由となるのは「その商標の登録を社会が許容すべきではないといえるだけの反社会性が認められる場合に限られるべき」としました。そして、本件商標は引用商標とは類似していないのであるから、本件商標が引用商標の顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で採択されたと認めることはできないとして、公序良俗違反を認めませんでした。

ここでも裁判所はシーサーがパロディ商標である旨のプーマ社の主張に対しては、特段の意見を述べていません。

なお、次の商標についても、同日に判決があった別事件でおおむね同様の判断がされています。

指定商品 第25類   Tシャツ,帽子

指定商品 第25類   Tシャツ,帽子

4.パロディ商標の登録要件

このように、パロディ商標とは法的な概念ではなく、裁判所も特にパロディ商標であるか否かによって対応が変わることは無いようです。パロディ商標が必然的に有する先願商標との類似性、出所混同のおそれ、公序良俗違反については、他の商標と同様な基準で審理されるにすぎません。

これらの裁判例からも明らかなとおり、商標の類否判断は専門的な知識・経験を要するものです。パロディー商標に限らず、商標出願の際はまず弁理士等の専門家に相談することをおすすめします。

笠原 基広