商標法は、商品の品質、役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標は商標登録を受けることができないと定めています(商標法4条1項16号)。
同号の不登録事由のある商標とは、特定の商品・役務の品質等を表示するものであるにもかかわらず、これとは異なる商品・役務に使用されるようなものです。
しかし、特定の意味合いを認識できない商標は、そもそもこれにあたりません。近時の裁判例では、商標「パールアパタイト」は、特定の意味合いを認識できないため、同号に該当しないとされました。
1.商標の不登録事由とは
商標登録出願をすると、特許庁の審査官が、出願された商標を商標法に基づいて審査し、登録できるかできないかを判断します。商標法は、出願をしても登録を受けることのできない商標についての定めをおいています(不登録事由)ので、もちろんこれについても審査が行われます。
不登録事由には、大別して次の3種類があります。
- 自己と他人の商品・役務(サービス)とを区別することができないもの
- 公共の機関の標章と紛らわしい等公益性に反するもの
- 他人の登録商標や周知・著名商標等と紛らわしいもの
公益性に反する商標のひとつとして、「商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標」(商標法第4条第1項第16号)があります。
本記事では、同号の「商品の品質又は役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標」について取り上げます。
2.商品の品質、役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標とは
商標法4条1項16号に該当する「商品の品質、役務の質の誤認を生じさせるおそれのある商標」とはどのような商標のことをいうのでしょうか。
2.1 4条1項16号の趣旨
商標を構成する文字、図形等が直接的に「特定の商品」の品質を表示するものであるにもかかわらず、「特定の商品」ではない商品に使用された場合には、需要者等は商品の品質を誤認しかねません。
例えば、商標が特定の商品である「●●リンス」であるにもかかわらず、これが「シャンプー」に使用された場合には、需要者はこのシャンプーをリンスであると誤認するおそれがあります。
商標法4条1項16号が「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」について商標登録を受けることができないと規定しているのは、このように需要者等が商品の品質を誤認して、商品を購入することがないように、需要者等の保護を図るためです。
よって、商標の構成から一般に認識される特性を有する「特定の商品」と指定商品とが関連しており、商標が表示している「特定の商品」の特性と指定商品が有する特性が異なるため、そのような商標を指定商品に使用した場合に「商品の品質の誤認を生ずるおそれ」があるような場合は、不登録事由にある「商品の品質の誤認を生じさせるおそれのある商標」であるといえます。
2.2 商品の品質等とは
本号の商品の品質、役務の質とは、商品や役務の普通名称や商品・役務について慣用されている商標のみならず、商品の産地・販売地・原材料・品質・用途・生産方法・加工方法・使用方法等や、役務の提供場所、質、提供の用に供する物、用途、態様、提供の方法などが挙げられます。
他方で品質の優劣は関係ありません。
また、商品と役務との間で誤認を生じるおそれのある商標、すなわち、商品に係る商標であるにもかかわらず、ある特定の役務を提供するものと誤認させたり、その反対の関係にあるような商標も同号に該当します。
2.3 誤認を生じるおそれとは
「誤認を生ずるおそれ」の有無は、商標が表す商品の品質等と指定商品等が関連しているか否か、及び、商標が表す商品の品質等と指定商品等が有する品質が異なるか否かにより判断されます。
商標が表す商品の品質等を有する商品の製造、販売又は役務の提供が現実に行われていることは要せず、需要者がその商品の品質等を誤認する可能性があることで足ります。
2.4 判断の時期
商品の品質等の誤認を生じるおそれの判断時期は、査定時又は審決時です(4条3項)。
3.誤認を生じるおそれの無い場合
それでは、誤認を生じるおそれの無い場合は、どんな場合でしょうか。
3.1 商標と商品等の関連性が薄い場合
商標を構成する文字・図形等が、ある商品や役務の特性を単に暗示する程度のものであるときや、指定商品・指定役務と直接的に関連しないものを表すものであるときは誤認を生じるおそれはありません。
例えば、商標が「●●ポテト」で指定商品が「自転車」のような場合です。
このような場合には、誤認を生じるおそれは生じません。
3.2 特定の意味合いを認識できない場合
商標を構成する文字・図形等から特定の意味合いを認識できない場合には、ある商品・役務の品質等を示すものと誤認を生じるおそれはありません。
よって、そのような場合には、同号には該当しません。
4.商品の品質等に誤認を生じさせるおそれのある商標の例
4条1項16号に該当する商標の例としては、次のようなものが挙げられます。
- 指定商品「ビール」に使用する商標として「○○ウイスキー」を出願した場合
- 指定商品「菓子」に使用する商標として「パンダアーモンドチョコ」を出願した場合
❷の場合には、指定商品を「菓子」から「アーモンド入りチョコレート」に補正すれば、不登録事由が解消されることになります。
5.裁判例:知高判令和3年6月30日・令和3(行ケ)10010
「パールアパタイト」は商品の品質に該当するか?
裁判例においては、同号の該当性はどのように判断されているのでしょうか。
「商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標」か否かが問題となった最近の裁判例をご紹介します。
5.1 事案の概要:
本件は指定商品を第1類「化学品」、第3類「化粧品、せっけん類、香料類、つけづめ、つけまつ毛」とする「パールアパタイト」という商標の商標権者(被告)に対し、商標登録無効審判を請求し審判不成立とされた原告が、審決の取消を求めて訴訟を提起した事案です。
原告は「アパタイト」の語が、取引者、需要者の間で、歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語として、一般的に広く認識されており、本件商標は16号にあたる旨主張しました。
5.2 裁判所の判断
知財高裁は、商標法4条1項16号の趣旨について一般論を述べた上で、「パール」の部分は「真珠」の意味を有すると認定しました。
しかし、次のとおり「アパタイト」の語が特定の意味合いを理解させるものとはいえないとして、特定の商品の品質を直接的に表示するものと認めることはできないから、本件商標は同号に該当しないとしました。
「アパタイト」の語が、本件商標の登録査定時において、取引者、需要者の間で、歯の再石灰化を促し美白効果のある「ハイドロキシアパタイト」又は光触媒応用製品に適用可能な「アパタイト」を意味する語として、一般的に広く認識されていたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。かえって、「アパタイト」は、M10(ZO4)6X2 の組成をもつ結晶鉱物の総称であって、具体的な特定の物質を表するものではなく、このことからしても「アパタイト」が特定の意味合いを理解させるものとはいえない。
(略)
本件商標は、「真珠」の意味を有する「パール」の文字と、特定の意味合いを理解させるものとはいえない「アパタイト」の文字とからなる結合商標であり、その構成全体から、特定の意味合いを認識することはできないから,特定の商品の品質を直接的に表示するものと認めることはできない。
引用元 : 知高判令和3年6月30日・令和3(行ケ)10010
このように、商標の構成全体から特定の意味合いを認識することができない場合には、特定の商品の品質を直接的に表示するとはいえませんので、商品の品質等に誤認を生じさせるおそれのある商標とはいえないことになります。
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