悪意の商標出願、剽窃的商標出願とは

海外で有名な商標や、有名でなくとも海外から日本に進出しようとする製品等に関する商標であるにもかかわらず、日本国内で商標登録されていないことがあります。

そのような海外商標について、国内で勝手に商標登録することはできるでしょうか。

一定の評価のある未登録の商標を、当該商標と無関係な第三者が許諾無く商標出願することを、「悪意の出願」とか「剽窃的出願」などといいます。

今回は、悪意の出願に対する商標法上の規制について取上げます。

悪意の出願を規制する規定

商標法には、直接「悪意の出願」を規制する規定はありません。

しかし、商標法には商標登録を受けることのできない商標に関する種々の規定があり(商標法4条1項各号)、悪意の出願はその状況に応じて、この商標不登録事由のいずれかに該当する可能性があります。

悪意の出願に関係しうる不登録事由
  • 他人の周知商標と同一・類似であって、指定商品・役務が同一・類似の商標(10号)
  • 他人の商品・役務と混同を生じるおそれのある商標(15号)
  • 他人の周知商標と同一又は類似で、不正の目的をもって使用する商標(19号)
  • 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標(7号)

海外商標が周知の場合

海外商標がすでに日本国内でも広く知られている(周知)の場合には、日本国内で同一・類似の商品等を指定して商標登録を受けることはできません(商標法4条1項10号)。

この場合、商標と、指定商品・役務の両方が同一又は類似である必要があります。

混同のおそれがある場合

海外商標の商品・役務と混同のおそれがある商標は、商品・役務が類似していない場合であっても、商標登録を受けることができません(同15号)。

ここでいう混同のおそれは「広義の混同を生じるおそれ」(他人と経済的又は組織的に何等かの関係がある者の業務に係る商品等であると誤認し、その商品等の需要者が商品等の出所について混同するおそれがある場合)も含まれます(最小判平成12年7月11日・平成10年(行ヒ)第85号)。

混同のおそれがある場合の例としては、次のようなものがあります。

  • 服飾等の分野で、米国において著名な商標「IZOD」は、日本においてもよく知られているとみて差し支えないとして、21類「カバン、袋物、その他本類に属する商品」を指定商品とする「IZOD BY IMAGAWA」なる商標に出所混同のおそれがあるとされた例(東高判平成8年8月5日・平成7年(行ケ)第262号)
  • 海外の著名商標「LANCEL」の部分が認識されるとして、商標「ILANCELI」に出所混同のおそれがあるとされた例(東高判平成10年11月10日・平成9年(行ケ)第323号)

不正目的のある場合

日本国内で周知でなくとも、海外で周知であり、その商標の使用に不正の目的がある場合には、商標登録を受けることができません。

海外周知商標の使用に不正の目的のある場合とは、次のようなものが挙げられます。

不正の目的のある場合
  • その周知商標の所有者に高額で買い取らせるために先取り的に出願したもの
  • 外国の権利者の国内参入を阻止する目的で出願したもの
  • 代理店契約締結を強制する目的で出願したもの

なお、不正の目的は主観的な要件ですので立証が困難な場合があります。よって、海外周知商標の場合、その周知な商標と同一又は極めて類似し、当該商標が造語よりなるものであるか、又は、構成上顕著な特徴を有するものであれば、不正目的が推認されます。

不正目的が認められた例としては、次のようなものがあります。

  • 第25類「フランス製の洋服、フランス製のコート」等を指定商品として出願された商標「MARIEFRANCE」が、フランスで雑誌の題号として周知著名な「MARIE FRANCE」なる商標についてこれをほとんどそのまま流用して出願されたものであって、信義則に反する不正の目的をもって使用をするものとされた例(平成11年8月11日 平成7年審判第25958号)
  • 米国において「百貨店の小売役務」、「ハンドバッグ、多目的キャリー・バッグ、トート・バッグ、旅行用バッグ、ショルダーバッグ等」に使用される周知商標と類似することを知りながら、外国の服飾ブランドについても専門知識を有していたと推認されること等をもって、不当な利益を得るため本件商標の登録出願をしたものと推認され不正の目的を有していたとされた例(知高判平成21年12月1日・平成21年(行ケ)第10210号)

公序良俗を害するおそれのある場合

公序良俗を害するおそれのある商標としてまず挙げられるのは、商標自体がきょう激、卑わい、差別的若しくは他人に不快な印象を与えるようなものであるような場合です。

海外商標との関係では、商標自体が公序良俗を害するおそれのある商標でなくとも、特定の国若しくはその国民を侮辱する商標又は一般に国際信義に反する商標は、公序良俗違反とされます。

公序良俗を害するおそれのある商標の場合、特に周知性があることが要件とされるわけではなく、その取得の経緯などから公序良俗を害するおそれがある場合もこれに含まれます。

ただし、上記のような、商標法4条1項10号、15号、19号というような無効事由がある場合にはこれによって判断すべきであって、公序良俗違反のおそれを私的領域にまで拡大解釈することによって商標登録出願を排除することは、特段の事情のある例外的な場合を除くほか、許されないとする裁判例もあります(知高判平成20年6月26日・平19(行ケ)10392)。

海外商標を国内で出願することを公序良俗違反とした例としては、次のようなものがあります。

日本又は外国で使用されて一定の評価を得ている商標を他人が抜け駆け的に出願した場合に、他人が選択して使用している、又は選択しようとしている商標を横から剽窃的に出願することは公正な取引秩序を乱すものであり、公序良俗を害するおそれがあるとされた例(知高判平成22年8月19日・平成21年(行ケ)10297)

要件の違い

上記のとおり、これらの条項は、周知性の有無によって適用可能な条項が異なります。

国内で周知な場合

商品・役務類似の場合には、10号
混同のおそれのある場合には、15号
混同のおそれなくとも、不正目的があれば、19号
公序良俗違反であれば、7号

海外でのみ周知な場合

混同のおそれなくとも、不正目的があれば、19号
公序良俗違反であれば、7号

周知ではない場合

公序良俗違反であれば、7号

商標登録しておくに越したことはない

日本の商標は先願主義ですので、商標登録をしておくに越したことはありません。

海外の製品・サービスを日本で展開するような場合、他人に商標登録されると面倒なことになりかねませんので、早めに商標登録出願をしておくのが望ましいことはいうまでもありません。