商標権侵害とならない行為
正当な権利のない者が、指定商品又は指定役務について登録商標を使用する行為は商標権の侵害にあたります。また、これらの類似範囲における使用や、これらの予備的な行為のうち商標法に挙げられる一定の行為も商標権の侵害にあたることになります。そのほか、登録防護標章についての同様の行為も商標権の侵害にあたります。
しかし、上記のような行為にあたったとしても、例外的に商標権の侵害とは扱われない場合があります。
巨峰事件
巨峰事件とは
例外的に商標権侵害とならない場合にはいくつかの類型がありますが、このうち「商標としての使用」にあたらないために商標権侵害とならなかった事件として、いわゆる巨峰事件(福岡地判昭和46年9月17日)があります。なお、この巨峰事件とは別に、第二巨峰事件(大阪地判平成14年12月12日、大阪高判平成15年6月26日)という事件もあります。第二巨峰事件も巨峰事件と同様、形式的に商標権侵害にあたりうる行為があった場合についての事件ですが、巨峰事件と異なり、商標法上の商標権の効力が及ばない場合にあたるとの理由で商標権侵害が認められませんでした。
巨峰事件の具体的内容
巨峰事件は、商品「包装用容器」について商標「巨峰」等の商標権を有する者が、商標「巨峰」と表示された段ボール箱を製造販売している者に対し、その製造販売の差止等を求めた事件です。
段ボール箱は「包装用容器」ですから、これに商標「巨峰」を表示したものを製造販売すれば商標権侵害となりそうです。
しかしこの事件において裁判所は、以下の通り示して商標権侵害の成立を否定しました。
裁判所の判示
「本件についてこれをみるに、まず成立に争のない甲第一一、第一二、第一三号証、証人【A】(第一回)、同【B】の各供述、右【B】証人の供述により成立を認め得る乙第二号証の一、二、証人【C】、同【D】の各供述を併せると、「巨峰」は、元来大粒ぶどうの一品種の商品名で、戦後日本で栽培されるようになり、おそくとも昭和三〇年代の後半頃にはその名称は一般に認識され、現在では全国的に生産販売されているものであることが認められる。」
「また、証人【E】(第一、二回)、同【F】、同【G】の各供述及び被申請人代表者本人の供述によれば、被申請人は、別紙目録記載のA・Bの各段ボール箱を、右ぶどう「巨峰」の生産者にその出荷用の包装用容器として販売するため製造しているものであつて、本件各段ボール箱に前記認定の如く表示されている「巨峰」、「KYOHO」等の文字は、その内容物たるぶどう巨峰を表示する目的のもとに印刷したものであると認められる。即ち、これらの文字は、被申請人の取扱う商品たる段ボール箱(包装用容器)の出所を表示し、あるいはその出所の判定を混乱させる目的をもつて表示されたものではないことが明らかである。」
「一般に包装用容器に標章を表示してその在中商品ではなく、包装用容器そのものの出所を示す場合には、その側面又は底面、表面であれば隅の方に小さく表示するなど、内容物の表示と混同されるおそれのないような形で表わすのが通例であつて、包装用容器の見易い位置に見易い方法で表わされている標章は、内容物たる商品の商品名もしくはその商品の出所を示す標章と見られるもので、包装用容器そのものの出所を表わすものとは受けとられない、というのが今日の取引上の経験則というべきある。
しかして、先に認定したとおり本件においては、A箱、B箱共に見易い位置に見易い形状で「巨峰」又は「KYOHO」と印刷されており、更に、「BEST GRAPE」又は「HIGH GRAPE」と印刷されていると共にぶどう葉型の窓から内容物を見ることができるようになつているのであつて、これらの事実を考えれば、本件A箱、B箱の「巨峰」「KYOHO」の各文字は、客観的にみても内容物たるぶどうの商品名の表示と解するのが相当である。」
「……要するに本件A・B各段ボール箱に表示された「巨峰」「KYOHO」の標章は、その客観的機能からみても、又これを製造している被申請人の主観的意図からみても、内容物たる巨峰ぶどうの表示であり、包装用容器たる段ボール箱についての標章の使用ではないというべきである。しかりとすれば、被申請人の別紙目録記載の物件の製造販売は、申請人の本件商標権に対する侵害行為を構成するものとは認められず、他に、別紙目録記載の物件が、申請人の本件商標権の侵害物件であることを認めるに足りる疏明はない。」
判決の理由を要約すると
上記のとおり裁判所は、段ボール箱上の「巨峰」の標章が段ボール箱についての標章の使用でないとしています。理由を要約すると以下のようになります。
このうち本件で特に重要なのが(c)の部分です。裁判所は、段ボール箱における「巨峰」等の文字の表示の態様を挙げて、これが商品名を表すものであると示しています。
商標としての使用にあたらない場合
以上のように商標としての使用にあたらないとされると、形式的に商標権の侵害にあたる行為があっても、商標権侵害の成立が否定されることになります。そして、巨峰事件で示されているとおり、この判断は問題となる商標を用いる態様によって大きく左右されます。
そのため、第三者による商標権侵害を主張する場合には、その態様がどのようなものかという点についてもしっかり検討しておくことが必要です。
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