書籍のタイトルの重要性

書籍を購入するときに、購入者にとって最も重要な部分はどこでしょうか?

書籍のタイトル(題号)、表紙のデザイン、出版社、判型などの特徴のうち、購入者が最も重要視するのはやはりタイトルの部分でしょう。書籍のタイトルを勝手に真似されると、需要者が間違って購入してしまうかもしれません。

そうだとすれば、書籍のタイトルを商標登録してしまえばよいのではないでしょうか?

今回は、書籍のタイトルの商標登録について取り上げました。

商標の自他商品・役務識別機能

商標登録の可否を決する重要な要素として、商標としての機能を果たせるか否かがあります。

商標の重要な機能のひとつに自他商品・役務識別機能があります。これは、自己の業務にかかる商品・役務と、他人のそれとを識別する機能です。たとえば「コカコーラ」という登録商標(登録商標第403281号)は、それが付されている清涼飲料水を、他の清涼飲料水(ペプシコーラなど)と識別する機能があります。

よって、商標法は、自他商品・役務識別力のない商標は商標登録できない旨を定めています。この自他商品・役務識別力を有さない類型としては、普通名称、慣用・記述的商標、ありふれた氏・名称、極めて簡単かつありふれた商標が列挙されています(商標法3条1項1~5号)。

それでは、書籍のタイトルには自他商品識別機能があるといえるでしょうか?

書籍のタイトルがその内容を表す場合

書籍のタイトルは、その書籍の内容を表すものであることが多いです。そのようなタイトルは有体物である書籍の出所を表示するものでも自他商品の識別機能を果たす態様で使用されているものでもありません。

例えば「我が輩は猫である」という書籍のタイトルは、その書籍の内容に「吾輩は猫である」というタイトルが付されていることを示すものにすぎず、有体物としてのその書籍の出所、すなわち出版社がどこであるかと紐付いているわけではありません。

よって、書籍の題号は商品の「品質」を表示するものといえますから、商標登録できません。

書籍の題号について、商標審査基準には次のように記載されています。

(エ) 「書籍」、「放送番組の制作」等の商品又は役務について、商標が、需要者に題号又は放送番組名(以下「題号等」という。)として認識され、かつ、当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合には、商品等の内容を認識させるものとして、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものと判断する。題号等として認識されるかは、需要者に題号等として広く認識されているかにより判断し、題号等が特定の内容を認識させるかは、取引の実情を考慮して判断する。

例えば、次の①②の事情は、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものではないと判断する要素とする。

① 一定期間にわたり定期的に異なる内容の作品が制作されていること

② 当該題号等に用いられる標章が、出所識別標識としても使用されていること商標審査基準 | 経済産業省 特許庁

定期刊行物等の場合

連載漫画等の、一定期間にわたり定期的に異なる内容の作品が制作される書籍の場合には、書籍のタイトルはもはや特定の内容を示すものとはいえませんので、商標登録が可能です。例えば「鬼滅の刃」(商標登録第6260437号)、「ハイキュー!!」(商標登録第5760250号)などは、書籍、漫画本等を指定商品として商標登録されています。

また、新聞、雑誌等の定期刊行物の場合には、その題号は特定の内容を示すわけではありませんので、これも商標登録可能です。

商標審査基準には、次のように記載されています。

(オ) 新聞、雑誌等の「定期刊行物」の商品については、商標が、需要者に題号として広く認識されていても、当該題号は特定の内容を認識させないため、本号には該当しないと判断する。商標審査基準 | 経済産業省 特許庁

グッズ展開をする場合

上記は書籍の題号を書籍の登録商標とする場合です。漫画等のグッズ展開をするときには、書籍以外の商品等、例えば玩具や衣類等を指定商品とした商標登録が必要となることがあります。

他の商標不登録事由を有さなければ、書籍の題号を他の商品等を指定して登録することは妨げられません。

例えば、ほぼ百発百中の無敵のスナイパーを描く漫画のタイトル「ゴルゴ13」は、書籍等を指定商品とはしませんが、他の様々な指定商品、例えば玩具や被服において商標登録されています。

書籍の種類、指定商品によって商標登録の可能性は異なる

このように、書籍の種類(性質)、その周知性、指定商品等によって、商標登録が可能か否かは異なってきます。デリケートな判断を迫られることもありますので、商標登録を検討中の方は、ぜひもよりの専門家にご相談下さい。

笠原 基広