商標の「使用」
商標権者は原則として、登録に際して指定された商品又は役務(役務はサービスとも言い換えられます。)について、登録商標を独占的に「使用」することができます。
「使用」という言葉自体は日常的に使われる言葉ではありますが、商標の「使用」という場合、商標法上に挙げられた一定の行為を指すことになります。
商標の「使用」に当たる行為
商標法上、以下の10の類型の行為が商標の「使用」に当たる行為となります。
なお、商標法は「商標」の使用でなく「標章」の使用について定めています。しかし、商標とは標章のうち一定の要件を満たしたものをいうため、ここに挙げられた「標章」の使用に当たる行為は、「商標」の使用にも当たることになります。
商品に係る「使用」行為
商品又は商品の包装に標章を付する行為(第2条3項1号)
まず、商品それ自体に商標を貼付したり、刻印したり、又は商標を表示したラベルを付ける等の行為はこの類型に当たります。また、お菓子等において、商品自体を商標の形にする行為もこの類型に当たることになります。
「商品の包装」とは実際に商品が入っている容器や包装等を指しますが、これらに商標を付する行為もこの類型に当たります。ちなみに、実際に商品が入っていない容器や包装箱に商標が付されている場合、これに係る行為は本類型ではなく、商標権の「侵害とみなす行為」に当たる可能性があります。
商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(第2条3項2号)
第1号の行為に係る商品又は商品の包装を譲渡等する行為はこの類型に当たります。
このうち「譲渡」と「引渡し」は文言上、同様の行為を指すように思えますが、「譲渡」は商品等の売買や贈与を指し、「引き渡し」は商品等の現実的な支配が移転することをいいます。
また、「電子通信回路を通じた提供」とは、プログラムや電子出版物等の電子情報材をダウンロード等により需要者に送信して利用させる行為をいいます。
役務に係る「使用」行為
役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物(譲渡し、又は貸し渡す物を含む。以下同じ。)に標章を付する行為(第2条3項3号)
飲食店が、料理を提供する際に用いる食器類に商標である店名やマークを付する行為等はこの類型に当たることになります。
役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(第2条3項4号)
第3号の物を用いて役務を提供する行為がこの類型に当たります。
上記の例でいえば、飲食店が上記食器を用いて実際に料理を提供する行為がこれに当たることになります。
役務の提供の用に供する物(役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物を含む。以下同じ。)に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為(第2条3項5号)
喫茶店のコーヒーサイフォンに商標である店名やマークを付して店内に置いておく行為等がこの類型に当たります(※)。
※ 喫茶店のコーヒーサイフォンは、あくまで店がコーヒーを淹れるために使うものであって客自身が使うものではないため、第3条及び4条の「役務の提供を受ける者の利用に供する物」に当たりません。
役務の提供に当たりその提供を受ける者の当該役務の提供に係る物に標章を付する行為(第2条3項6号)
クリーニング業者が、クリーニング後の客の衣類に商標である店名やマークの付されたラベルを付ける行為等がこの類型に当たります。
同じ商標を付する行為である第3号との違いは、商標を付する対象が顧客等サービスを受ける側の物である点です。
電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。次号において同じ。)により行う映像面を介した役務の提供に当たりその映像面に標章を表示して役務を提供する行為(第2条3項7号)
ホテル・旅館の予約を行うサイトの画面上に、商標であるサービス名やマークを表示した上でサービス提供を行う行為等がこの類型に当たります。
商品及び役務に係る「使用」行為
商品若しくは役務に関する広告、価格表若しくは取引書類に標章を付して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に標章を付して電磁的方法により提供する行為(第2条3項8号)
商標に当たるマークを付したパンフレットや販促用のポケットティッシュを配布する行為、又はそのマークを付した看板を掲示する行為等がこれに当たります。また、「取引書類」に係る行為としては、商標に当たるマークを付した注文書や納品書等を交付する行為がこれに当たることになります。
後段の電磁的方法による提供には、ウェブサイト上のバナー広告に標章を付して画面に表示させる行為等が含まれます。
なお、広告や価格表に付される商標に係る行為については、それを見ていかなる商品や役務に係るものであるのかがわかることが必要です。例えば、販促用のポケットティッシュに商標である飲食物の店名のみを印刷して配布していた場合、通常はこの商標がレストランに係る役務にかかるものだとはわからないため、この類型に当たらないことになると考えられます。
また、この類型の間違えやすい点ですが、ここにいう「広告」は、広告代理店の作成する広告を指し、自社が行う「広告」を含みません。
音の標章にあっては、前各号に掲げるもののほか、商品の譲渡若しくは引渡し又は役務の提供のために音の標章を発する行為(第2条3項9号)
音の商標につき、上記までの各号の行為のほか、音の商標を再生したり、演奏したりする行為がこれに当たります。
平成26年の商法の改正において、新しい商標の一つとして音の商標が追加されたことに伴い新設された類型です。
その他の「使用」行為
前各号に掲げるもののほか、政令で定める行為(第2条3項10号)
今後政令に定められることとなる行為を定めた類型です。
商標法は、商標として文字商標、図形商標、記号商標、立体商標、色彩のみからなる商標、これらの結合商標、音商標を挙げるほか、政令に定めるもののうち一定のものもこれに当たるものとしています。現時点(平成31年1月7日現在)では、動き商標、ホログラム商標、及び位置商標が政令に定められていますが、今後、ここに新たな商標が追加される可能性もあります。
本号の類型は、新たな商標が追加された場合に、その「使用」について政令で対応できるようにしたものです。
「使用」行為の重要性
冒頭に述べた通り、商標権者は指定商品又は指定役務について登録商標を独占的に「使用」することができます。
このように「使用」は商標権の権利の範囲を画するものであるため、自社の商標の使い方が商標の「使用」に当たるのかを把握しておくことは、適切な区分で商標登録を受けることにつながります。
(例えば、自社が自社商品の広告をすることを「使用」であると捉えてしまうと、本来とる必要のない「広告業」についての商標出願をしてしまう可能性もあります。)
また、どのような行為が「使用」に当たるのかを把握することは、他者の商標権に対する意図しない侵害を防ぐ観点からも有用です。
したがって、「使用」について把握しておくことは、重要であるといえます。
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