社長
社長
商標登録をするときには、商品や役務を指定する必要がありますよね。提供するのがモノであれば商品、何かの行為であれば役務、と理解していいのですか?
弁護士
弁護士
一概にそうともいえないんですよ。商標法上の「商品」「役務」概念は一般的なイメージと違う場合があるので、注意が必要です。
社長
社長
モノであっても「商品」にならない場合があるのですか?
弁護士
弁護士
流通性のないモノは「商品」にあたらないので、それを提供する「役務」としてとらえた方がよい場合があります。

商標法上の「商品」と「役務」

商標権者は、原則として、登録に際して指定された「商品」又は「役務」(役務はサービスとも言い換えられます。)について、登録商標を独占的に使用することができます。

このように、登録に際して指定する「商品」又は「役務」は権利の範囲を画するものであるため、商標の出願の段階でどの「商品」又は「役務」を指定するかは非常に重要です。

しかし、ある物や行為が「商品」又は「役務」に該当するか否かは、一般的なイメージと異なることがありますので、注意が必要です。

「商品」にならないハンバーガー

例えばハンバーガーを提供するファストフード店について考えてみます。

客はお金を払ってハンバーガーを受け取ることになりますが、このハンバーガーが店内で食べるために提供される場合、これは商標法上の「商品」にはあたりません。これら全体が、ハンバーガーを提供し、さらにこれを食べる場所を提供する行為であると捉えられ、「飲食物の提供」という「役務」にあたることになります。

一方、ハンバーガーが「商品」に当たる場合もあります。上記で渡されたハンバーガーが、テイクアウトのためのものである場合です。

したがって、同じハンバーガーを提供する行為であっても、前者のようにイートインを想定している場合には「飲食物の提供」等を指定役務として商標出願をすることになり、これに対して後者のようにテイクアウトを想定している場合には、「ハンバーガー」等を指定商品として商標出願をすることになります。

これらの違いは、商標法上の「商品」が「流通性」を要求されていることによるものです。つまり、店内で提供されるハンバーガーはその場で消費されるため、「流通性」がないものとされているのです。

「役務」にならない電子情報材の提供

商標の分類について国際的に定める条約として、ニース協定があります。このニース協定では、例えば電子出版物に関して「ダウンロード可能な電子出版物」を「商品」として扱っている一方、「ダウンロードできないオンラインでの電子出版」を「役務」として扱っています。つまり、電子情報材について、ダウンロードが可能か否かを基準としているということです。

この定めに従い、日本においてもダウンロードが可能な電子情報材については「商品」ダウンロードができない電子情報材の提供については「役務」として扱うこととされています。

つまり、例えば電子書籍をダウンロード販売するタイプのサービスを想定する場合、「電子出版物」等を指定商品として商標出願することになり、これに対して配信される記事をサイト上で閲覧できるようにするタイプのサービスを想定する場合、「電子出版物の提供」等を指定役務として商標出願することになります。

これらの違いも前記の場合と同じく、「流通性」の有無によるものです。電子情報材がダウンロードされるものであれば、購入者等が電子情報材をハードディスクに継続して管理・支配することができるため、「流通性」があるとされているのです。

商標出願をする際の注意

このように、何が「商品」にあたり、何が「役務」にあたるかは、一般的なイメージとずれる場合があります。

これは「商品」又は「役務」内の具体的な区分についても共通していえるところですが、自社のサービスが現在及び将来において十分に守られるよう、商標出願にあたっては十分な検討をすることが必要です。

社長
社長
なるほど。ハンバーガーを提供する場合でも、テイクアウト用だと「商品」、レストランで提供する場合は「役務」としてとらえるのですね。
弁護士
弁護士
そうですね。商標登録出願をする場合には、よく検討した上で、商品、役務を指定する必要があります。
笠原 基広