ありふれた氏又は名称の商標登録
商標法は、一般的に商標登録を受けることができない類型を列挙し、これにあたらないものを商標登録するものと定めています。
この類型の一つに、「ありふれた氏又は名称のみを表示する商標」(商標法3条1項4号)があります。
条文を見る
自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
二 その商品又は役務について慣用されている商標
三 その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
四 ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
五 極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
六 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標(e-Gov法令検索)
「ありふれた氏又は名称」のみを表示する商標とは
「ありふれた氏又は名称」とは、同種の氏又は名称が多数存在するものをいいます。電話帳に同種のものが多数存在するものは、「ありふれた氏又は名称」にあたるといえます。
このような商標は、一般的に「自他商品・役務識別機能」を失っている等として原則、商標登録が許されません。「自他商品・役務識別機能」とは、ある商品や役務(サービスとも言い換えられます。)を他の商品から識別する機能で、商標の機能の一つです。「ありふれた氏又は名称」を商標としても、あまりに多く存在する名であるために、通常その商品や役務の目印としての機能を発揮しないと考えられているということです。
「ありふれた氏」と「ありふれた名称」の具体例
例えば「伊藤」、「田中」等は「ありふれた氏」に含まれるものと考えられます。
また、①著名な地理的名称、ありふれた氏、業種名等やこれらを結合したものと、②商号や屋号に慣用的に付される文字や会社等の種類名を表す文字等を結合したものは、原則として「ありふれた名称」にあたります。それぞれの具体的としては以下のようなものが挙げられます(商標審査基準(※)改定第13版第37頁参照)。
(①-ⅰ 著名な地理的名称)
「日本」、「東京」、「薩摩」、「フランス」等
(①-ⅱ 業種名)
「工業」、「製薬」、「製菓」、「放送」、「運輸」、「生命保険」等
(②-ⅰ 商号や屋号に慣用的に付される文字)
「商店」、「照会」、「屋」、「家」、「社」、「堂」、「舎」、「洋行」、「協会」、「研究所」、「製作所」、「会」、「研究会」等
(②-ⅱ 会社等の種類名を表す文字)
「株式会社」、「有限会社」、「相互会社」、「一般社団法人」、「K.K.」、「Co.」、「Co.,Ltd.」、「Ltd.」等
上記からすれば、①の単体又はその組み合わせと、②を組み合わせたもの、例えば、「フランス工業」や「フランス工業舎」は原則として商標登録できないことになります。
ただし、例外として、国家名又は行政区画名に業種名が結合したものに、さらに会社の種類名を表す文字を結合してなるものについては、他に同一のものが現存しない限り、「ありふれた名称」には当たりません。実際の例として、「日本タイプライター株式会社」や「日本生命保険相互会社」があります。
「普通に用いられる方法で表示する」とは
上記の普通名称が登録を受けられないのは、これが普通に用いられる方法で表示された場合に限られます。
上記の「ありふれた氏」の例で言えば、商標「伊藤」はもちろん、仮名文字の商標「いとう」及び「イトウ」、並びにアルファベットの商標「ITOU」は、一般的に使用されている書体で表示されている限り、原則として商標登録を受けられません。
上記とは異なり、特殊なレタリングを施して表示するものや、当て字等の特殊な構成で表示するもの(上記の例でいえば、例えば「亥兎鵜」等)については、本類型にあたることを理由とした拒絶は回避できるものと考えられます(商標審査基準 改定第13版第38頁参照)。
ありふれた氏又は名称「のみ」を表示する商標
上記のようなありふれた氏又は名称が用いられていたとしても、これ「のみ」を表示する場合でないときは、本類型には当たるものとはされません。
つまり、商標の一部にありふれた氏又は名称が用いられていたとしても、本類型に当たらないということです。
ありふれた氏又は名称「のみ」を表示する商標でも商標登録される場合
本類型にあたったとしても、例外的に商標登録がされる場合があります。その商標の使用の結果、商標を見た需要者(消費者等が含まれます。)が、誰の商品又は役務か認識できるようになっている場合です。
そもそも本類型が原則として商標登録されない理由の一つに「自他商品・役務識別機能」を欠くこと、というものがありましたから、この機能があるといえるものに商標登録が認められるのは当然ともいえます。
ありふれた氏又は名称の使用
本類型は、使用によって商標登録されることにもなりますから、これにあてはまるからといって必ずしも商標登録が受けられないものではありません。長い間蓄積されていった信用があれば登録を受けることが可能ですので、一見本類型に当たってしまうように見えたとしても、もう一度検討してみることが重要です。
- 【セミナーアーカイブ】企業が陥る著作権侵害と対応策解説セミナー - 2024年11月17日
- 映画、アニメの製作委員会契約とは。その特徴と条項例について - 2024年11月16日
- 【DLレポート】特許権侵害警告書雛形 - 2024年7月17日