【概要】装飾的な商標の表示が「商標的使用」とならない場合
他人が登録した商標を、同一・類似の商品等区分において「使用」すると、不法行為に基づく損害賠償や、使用差止めを請求されるリスクが生じます。
しかし、この「使用」は商標法2条3項各号所定の商標法上の「使用」である必要があります。
さらに、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」、いわゆる「商標的使用」をされていない商標に対しては、商標権の効力は及びません(26条1項6号)。
商標的使用については以下のリンクもご覧下さい。
商標的使用とならない場合について、商標を装飾的に用いる場合があります。
例えば、Tシャツの図柄として大きく表示されているのが他人の登録商標であるような場合に、そのような態様で商標として表示されることはないとして、商標権侵害にならないとする裁判例があります。
詳細は以下をご覧下さい。
商標的使用とは
商標法は、「商標」(2条1項)や、その「使用」(2条3項各号)について定義規定をおいています。そして、文言上は「商標の使用」にあたるような場合であっても、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができる態様により使用されていない商標」に対しては、商標権の効力が及びません(26条1項6号)。
商標の本質的な機能は、自己の商品・役務と、他人のそれとを識別する機能(自他商品等識別機能)であり、これを発揮していない場合には保護の対象とする必要がないからです。
商標的使用とされない例としては、商品「包装用容器」について「巨峰」という商標が登録されている場合、他人が巨峰を梱包するための段ボール箱に「巨峰」と印刷していても、内容物のぶどうである「巨峰」を示すために印刷したものであり、段ボールを含む包装用容器の出所(製造元等)を表すためであったり、出所がいずれであるかを混乱させようとするためのものではないとして「商標的使用」を否定した裁判例があります。
また、他の「商標的使用」に当たらない例として、他人の登録商標をCDの題号に使用した場合や、説明として他人の商標を表示するような場合も挙げられます。
装飾的な商標の使用
他人の登録商標を装飾的な目的で表示するような場合にも「商標的使用」にはあたらないといわれています。
例えば、マンガ「ポパイ」の図柄が商標登録されている場合に、これに類似する図柄を胸に大きく表示した子供用アンダーシャツの製造販売については、「商標としてその機能を強力に発揮せしめるためではなく、需要者が右表示の図柄が嗜好ないし趣味感に合うことを期待しその商品の購買意欲を喚起させることを目的とするもの」として「商標的使用」に当たらないとした裁判例があります。
前記漫画に関する図柄、文字等をアンダーシヤツの胸部などの中央に大きく表示するのは、商標としてその機能を強力に発揮せしめるためではなく、需要者が右表示の図柄が嗜好ないし趣味感に合うことを期待しその商品の購買意欲を喚起させることを目的とするものと解すべきだからである。(中略)
「本来の商標」すなわち、商品の識別標識としての商標は、広告、宣伝的機能、保証的機能をも発揮するが、「本来の商標」の性質から言つて、えり吊りネーム、吊り札、包装袋等に表示されるのが通常である。「本来の商標」がシヤツ等商品の胸部など目立つ位置に附されることがあるが、それが「本来の商標」として使用される限り、世界的著名商標であつても、商品の前面や背部を掩うように大きく表示されることはないのが現状である。
大地判昭和51年2月24日・昭和49(ワ)393(ポパイ・アンダーシャツ事件)
また、洋服、防止等を指定商品とする「BELLO」という商標が登録されている場合に、ミニオンズがミニオン語で「BELLO」と発音している表示のあるTシャツを、USJにおいて販売したことについて、需要者は「BELLO」の表示を「少なくともミニオンのキャラクターと関連する何らかの語ないしフレーズとして認識」するから、出所表示として機能していないとして、商標的使用を否定した裁判例もあります。
需要者が、被告各標章をミニオンの図柄とは関連のないものと認識し、それによって被告各商品の出所を識別するとは考え難く、需要者は、被告各標章をもって少なくともミニオンのキャラクターと関連する何らかの語ないしフレーズとして認識し、被告各商品の出所については、それがUSJ(被告)の直営店舗で販売されるミニオンのキャラクターの公式グッズであることや、被告各商品にも一般に商品の出所が表示される部位である商品のタグやパッケージに本件被告ロゴが表示されていることによって識別すると認めるのが相当である。
大地判平成30年11月5日・平成29(ワ)6906
必ずしも図柄として商標を使っても大丈夫とはいえない
しかし、図柄として商標を表示する行為が常に商標的使用にあたらないというわけではありません。最終的に「商標的使用」の成否は、商標として自他識別機能を発揮するような態様で表示されているか否かによって決せられます。
また、使用によって強い識別力を獲得した登録商標については、図柄として表示されていたとしても「商標的使用」と判断されやすい傾向にあります。
上述のミニオンズの事件でも、登録商標「BELLO」が周知であれば、出所表示機能を肯定するかのような言及があります。
もっとも、本件各商標が周知なものであれば、需要者は、それを既知の出所表示として認識しているから、被告各標章が周知のミニオンの図柄と共に表示され、上記のような状況で販売される場合でも、被告各標章を出所表示として認識することになると考えられる。大地判平成30年11月5日・平成29(ワ)6906
また、他人の登録商標「SHIPS」を布地の図柄として表示していた事案においても、当該登録商標が周知であることも考慮すると、商標的使用に当たると判断されています。
被告標章が、一般に企業や団体の創業年又はブランドの設立年などを表す際に用いられる「SINCE」の表記を伴い、上記のとおり「SINCE1981」の文字列と一体的に表示されていること、及び、前記(1)のとおり、「SHIPS」の文字列からなる本件商標が服飾品のブランドとして広く一般消費者に認識され強い識別力を持つ商標であることを総合すると、被告商品において被告標章は、その需要者に対して、商品の自他を識別し、出所を表示する態様で用いられていると認めることができる。
さらに、特に周知ではない商標を図柄としても、表示態様によっては商標的使用とされる場合があります。
周知でない登録商標「LOVEBERRY」を表示したTシャツについて、「Tシャツの胸元等に付されたものが単なる装飾的あるいは意匠的効果を有するか、出所識別機能をも有するかは、当該標章の具体的使用態様に即して判断せざるを得ない」として、商標的使用を認めた裁判例があります。しかし、この裁判例では、商標的使用の理由については、詳細には論じられていないので、どのような場合に商標的使用になるのかはよくわかりません。
結局、Tシャツに他人の商標を印刷してもいい?
上記の裁判例からは、Tシャツ等に他人の登録商標を表示する行為が商標権侵害となるか否かは、なかなか微妙な判断となります。
まず、周知な登録商標であれば、需要者は図柄ではなく出所識別機能のある商標であると認識すると思われますので、商標的使用にあたると判断される可能性は高いです。
また、周知ではない商標であっても、商標として認められるような態様(タグへの表示や、胸へのワンポイント表示)であれば、商標的使用にあたると判断される可能性が高いでしょう。
他方で、およそ商標として使用されることのないような態様であれば、商標的使用と判断されにくいとはいえます。しかし、どのような表示態様が商標的使用にあたるのか、あたらないのか、については、かなり微妙な判断となります。
すべての図柄について、類似する登録商標の存在を検索する必要があるとまではいえませんが、少なくとも、わざわざ他人の商標を図柄として使用するのは、避けるのが無難でしょう。
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