「歌舞伎」は松竹株式会社の登録商標
先日、ウェブニュースで「歌舞伎」が商標登録されていることが話題になりました。
たしかに、標準文字「歌舞伎」は、松竹株式会社(商標権者)によって、かなり多くの商品・役務区分で商標登録されています(登録商標第5239727号)。
登録商標第5239727号(商標権者:松竹株式会社、登録商標「歌舞伎」(標準文字))において指定されている商品・役務区分の数は42にもわたります。商品・役務区分が第1類から第45類までしかないことを考えると、かなり多くの分野で登録されているといえます。
登録商標を使用すると商標権侵害になる場合
それでは、どのような場合に商標権侵害となるのでしょうか。
商標権者は、指定されている商品・役務区分において、登録商標の使用をする権利を専有します(商標法25条)。
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商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有する。ただし、その商標権について専用使用権を設定したときは、専用使用権者がその登録商標の使用をする権利を専有する範囲については、この限りでない。(e-Gov法令検索)
すなわち、商標権者には一定の独占権が認められていますから、第三者が、登録商標の指定商品・役務区分、及び、これらと類似する商品・役務区分において、登録商標や、これに類似する商標を、商標権者に無断で使用すると、商標権侵害として使用の差し止め、損害賠償、刑事罰などの対象となる場合があります。
よって、松竹株式会社に無断で、「歌舞伎」という登録商標を使用した場合には、商標権侵害として、使用差し止め、損害賠償、刑事罰などの対象になる場合があります。
これについて、商標権者である松竹株式会社も、「歌舞伎」関係商標の使用を希望する場合には、問い合わせをするよう注意喚起しています。
指定又は類似の「役務」「商品」に使用されていない場合
それでは、一見、他人の登録商標を表示しているようにみえても、商標権侵害とならない場合はあるのでしょうか。
商標法によれば、商標権者は、指定されている商品・役務区分において、登録商標の使用をする権利を専有します(商標法25条)。よって、商標が、登録商標の指定商品・役務、また、これと類似する商品・役務に使用されていない場合には、商標権侵害となりません。
「歌舞伎」商標はかなり広い商品・役務を指定して登録されていますので、うっかりこれを使用すると、商標権侵害になる可能性が高いといえるでしょう。
しかし、登録商標が、その指定する商品等に表示されているようであっても、これが商標法上の「商品」に表示されたといえない場合には、商標権侵害となりません。
例えば、他人の登録商標をその指定商品に含まれる商品に付してノベルティとして配布した事案において、配布するノベルティグッズがあくまで広告媒体にあたるものであって、かつその広告で宣伝する商品が他人の登録商標の指定商品又はこれに類似する商品にあたらないとして、ノベルティグッズの配布について商標権侵害が否定された裁判例があります(BOSS事件・大地判昭和62年8月26)。
登録商標の使用権を有する場合
登録商標を指定商品・役務等について使用した場合であっても、商標権侵害を構成しない場合があります。
使用者が登録商標の使用許諾を受けている場合
商標権者は、その商標権について通常使用権や専用使用権を設定することができます(商標法30条1項、31条1項)。
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第31条 (通常使用権)
このような、商標権について実施許諾(いわゆるライセンス)を受けている者は、登録商標を使用できます。
使用者が先使用権(先用権)を有している場合
使用者が登録商標について、いわゆる先使用権を有している場合も、登録商標の使用をすることが可能です。すなわち、他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有します。
なお、先使用権は、一定の条件を充たす者に対して法的に認められる使用権(法定使用権)なので、商標権者への通知や、使用許諾等は必要ありません(商標法32条1項)。
また、先使用権が認められるには、単に他人の商標登録出願前からその商標を使用しているだけではなく、それが周知になっており、かつ、不正競争の目的がなかったことが必要です。また、先使用権者には継続使用権が与えられるのみであり、商標権と同様に他人の使用を排除する権利が与えられるわけではありません。
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他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標登録出願に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についてその商標又はこれに類似する商標の使用をしていた結果、その商標登録出願の際(第九条の四の規定により、又は第十七条の二第一項若しくは第五十五条の二第三項(第六十条の二第二項において準用する場合を含む。)において準用する意匠法第十七条の三第一項の規定により、その商標登録出願が手続補正書を提出した時にしたものとみなされたときは、もとの商標登録出願の際又は手続補正書を提出した際)現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、その者は、継続してその商品又は役務についてその商標の使用をする場合は、その商品又は役務についてその商標の使用をする権利を有する。当該業務を承継した者についても、同様とする。(e-Gov法令検索)
商標権の効力が及ばない範囲
さらに、商標法は、商標権の効力が及ばない範囲を規定しています。これは、人の氏名や、普通名称のように、特定の人の独占権を及ばせるのが妥当ではない場合を規定したものといわれています。
過誤登録等の場合
商標法は、形式的には登録商標を使用したといえる場合であっても、商標権の効力が及ばない範囲を定めています。これは、過誤登録によって、識別力が無く不登録事由に該当するような商標が登録されてしまった場合や、商標登録自体は適法ですが、その禁止権の範囲内(類似の範囲内)に、氏名や普通名称のような商標権の効力を及ぼすのは妥当ではないものが含まれる場合、後発的に識別力を失った場合(普通名称化、慣用化した場合)です。
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商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。
商標的使用にならない場合
商標法は、商標権者が登録商標の使用をする権利を専有する旨、規定しています。よって、使用者が登録商標を表示していてもこれが商標法上の「使用」にあたらない場合、すなわち、「商標的使用」といえない場合には、商標権侵害となりません(商標法26条1項6号)。
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商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となっているものを含む。)には、及ばない。
商標的使用といえないのは、例えば次のような場合です。
- 商標権者ブラザー工業株式会社が製造販売するファクシミリに適合するという趣旨で、商品(インクリボン)の外箱等に付された「ブラザー用」などの表示が(ブラザーは登録商標)、「他社製のファクシミリに使用する目的で当該インクリボンを誤って購入することがないよう注意を喚起する」といった目的の為の「ごく通常の表記態様」であるとして、商標的使用が否定された事案(ブラザー事件・東地判平成16年3月23日)
- 煮魚お魚つゆに付された「タカラ本みりん入り」という表示が(タカラは登録商標)、タカラ本みりんが成分ないし素材として入っていることを示す記述的表記であるとして、商標的使用が否定された事案(タカラ本みりん入り事件・東地判平成13年1月22日)
- 商品のクッションに付された「ドーナツクッション」なる表示が(ドーナツが登録商標)、「『ドーナツクッション』の語は、これに接した需要者等において、中央部分に穴のあいた円形、輪形の形状の物あるいはこのような円形、輪形に似たドーナツ様の形状をしたクッションを指すものと認識し、特定の出所を表示するものとして認識することはない」から、商標的使用でないとされた事案(ドーナツクッション事件・知高判平成23年3月28日)
その他、一見商標権侵害になりそうで、ならない場合
登録商標が付されていても、その登録商標に無効事由のある場合には、権利行使が許されない場合があります。
また、並行輸入した真正品について、国内に登録商標があっても、一定の条件を充足する場合には商標権侵害とならない場合があります。
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