商標権の侵害
正当な権限等のない第三者が、登録商標を指定商品又は指定役務(サービスとも言い換えられます。)について使用する行為は商標権の侵害に当たります。
しかし、商標法は、このような「使用」のほか、一定のものについてはこの「使用」を目的とする「所持」等の行為についても商標権の「侵害とみなす」ものとしています。
商標法第37条第3号及び4号の行為
商標法は、商標権の「侵害とみなす」行為について、第37条で8つの類型を定めています。そのうち3号及び4号に定められているのが、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に登録商標等を付したもの、にかかる行為です。
3号は、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に登録商標等を付したものを、自ら役務を提供する目的で「所持」等する行為について定めています。
4号は、上記のものを、他人に役務を提供させる目的で「譲渡」等する行為のほか、譲渡等のためにこれを「所持」等する行為を定めています。
これら規定は、商品にかかる「使用」を目的とした「所持」について定めた2号とパラレルな関係となっています。
次に掲げる行為は、当該商標権又は専用使用権を侵害するものとみなす。
「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」とは
「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」とは、例えば「喫茶店における飲食物の提供」という役務における、客が使うコーヒーカップ等を指す言葉です。
「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に登録商標を付する行為は登録商標の「使用」に当たります。したがって、指定役務について「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に登録商標を付する行為は商標権の侵害に当たることになります。
3号は以下の行為を含みます。
上記各行為は一見複雑に見えますが、それぞれ①何に当たって(指定役務に当たって、等)、及び②何を(登録商標、等)付したものを所持等しているか、という観点でみればそこまで複雑ではありません。
上記(a)は、①指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に②登録商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為です。つまり、商標登録時に指定した役務と同じ役務を提供するに当たり、その提供を受ける者の利用に供する物に登録商標と同じ商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為について定めるものです。上記のとおり、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」に登録商標を付する行為は登録商標の「使用」に当たります。(a)はこの「使用」のための「所持」等という位置づけになりますので、商標権の侵害行為の予備的な行為を定めたものといえます。
上記(b)は、①指定役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に②登録商標に類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為です。つまり、商標登録において指定された役務と同じ役務を提供するに当たり、その提供を受ける者の利用に供する物に登録商標に類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為について定めています。(b)は上記(a)と異なり、付する商標が登録商標と類似する商標となっています。
ある商標が「登録商標に類似する商標」であるかは、(1)外観、(2)称呼、及び(3)観念の3つの要素で判断することになるのですが、この点についての詳細は他稿にて解説させていただきます。指定役務について登録商標と類似の商標を「使用」する行為は、商標権の類似範囲における「使用」として商標権侵害とみなすものとされているため(第37条第1号)、(b)も、そのための「所持」等という、商標権侵害の予備的な行為を定めたものとなっています。
上記(c)は、①指定役務又は指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に②登録商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為です。つまり、指定役務又は指定商品に類似する役務を提供するに当たり、その提供を受ける者の利用に供する物に登録商標と同じ商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為を定めています。
上記(a)及び(b)と異なり、(c)では、提供する役務が指定役務又は指定商品と類似する役務となっています。この「類似する役務」には、上記(c-ⅰ)及び(c-ⅱ)のように、指定役務と類似する役務、及び指定商品と類似する役務という2種類の役務が含まれます。そして、ある役務と他の役務との類否の判断、及びある役務と商品との類否の判断については、特許庁が審査基準において考慮要素を示しています(商標審査基準 改定第13版第97頁参照)。
指定役務又は指定商品に類似する役務ついて登録商標を「使用」する行為も商標権の類似範囲における「使用」として商標権侵害とみなされるため(前出第37条第1号)、(c)もその侵害行為のための「所持」等という、商標権侵害の予備的な行為を定めたものとなっています。
上記(d)は、①指定役務又は指定商品に類似する役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物に②登録商標に類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為です。つまり、指定役務又は指定商品に類似する役務の提供に当たり、その提供を受ける者の利用に供する物に登録商標に類似する商標を付したものを、これを用いて当該役務を提供するために所持し、又は輸入する行為を定めています。(d)では、提供する役務が指定役務又は指定商品と類似する役務となっているほか、付する商標も登録商標ではなく、これと類似する商標となっています。役務と役務、及び役務と商品との類否の判断、及び商標の類否の判断方法は前記のとおりです。
指定商品又は指定役務に類似する役務について、登録商標と類似する商標を「使用」する行為も商標権の類似範囲における「使用」として商標権を侵害するものとみなされるため(前出第37条第1号)、(d)も、前記(a)から(c)までと同じく、侵害行為のための「所持」という、商標権侵害の予備的な行為を定めたものとなっています。
「所持」とは
上記のとおり、本号が対象とするのは「所持」行為です。ここにいう「所持」とは、商品又は商品の包装を自己の支配下に置くことをいいます。倉庫等にて保管する行為は、この「所持」にあたります。
また、4号は以下の行為を含みます。
上記の規定ぶりは、3号と大部分が共通しています。
異なるのは、4号では(α)他人に役務を提供させることを目的とする行為を対象としていること、並びに、(β)行為として、「役務の提供に当たりその提供を受ける者の利用に供する物」の「譲渡」、「引き渡し」及び、これら行為を目的とする「所持」、「輸入」を対象としている点のみです。
商標を扱うにあたって注意すべき点
以上のとおり、本号は、2号と同じく本来的な侵害行為にまだ至らない「所持」等について侵害とみなすものと定めています。
この「所持」等が「使用」を目的とするものである点も同様です。
したがって、商品にかかる場合だけでなく役務にかかる場合についても、商標を扱うこととなる当初から、今後商標を扱う態様が商標権侵害となる「使用」に当たることがないか、検討することが必要です。
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